カチャン!と底鋲の音がします。
重かったな〜を一瞬で忘れる音色です。
このボストンバッグを見た人が言いました。
「ずいぶん昔のバッグ使ってるんですね」
いえ、つい先日出来上がったばかりなんですよ。
最新作です。
そう返すと、へぇ〜!と驚かれていました。
でも、新しいモノですが、作りもフォルムも古いモノのままなので、昔のバッグ に見えるというのは、最上級の褒めことば。ずっとそれを作りたかったのですから。
BURTON製のモノです。
ずっと、コレを集めて来ました。
小さいのや大きいの。中くらいのも。
これだけで口元はガバッと大きく開きます。
今のボストンバッグはたいていストレートなファスナー。口元開きにくい気がしていました。
いつか、このボストンバッグを作りたいな…。
そう10年くらい思って来ました。
ついに作ることができました。
上の赤いバッグではファスナーが真ん中で終わってしまっていますが、今回作ったボストンでは、バッグの底近くまでファスナーを延ばしています。
コレ、大きいタイプでは、ヴィンテージでもそうなっているのです。
サイズは中でも作りは、大。
そんな味付けを随所にしています。
それと、庫内内張に高密度で知られる倉敷帆布の分厚い6号を使いました。長く使っても切れたりしないように。また、庫内がなるべく明るくなるように、無染色な最もピュアなものを選びました。暗い庫内でガサゴソするのイヤですから(^^;)
6号帆布は分厚いので、
「とてもじゃないけどまとまらない。無理です」
職人はそう言いました。
まとまらない とは、バッグ本体のパーツが一纏めに重なるちょうどパイピングされた外周部のことです。分厚いレザーパーツが2〜3枚、同じくレザーのパイピング、その下に分厚い6号帆布…これをどうやって隅でまとめて縫える? 無理です!となるのです。
でも…職人は6号帆布でサンプルを作って来ました。
そして、届いたサンプルバッグ。
無理だと言っていた6号が使われていました。
職人の意地 だと言っていました。
大変ですよ。
手間でなく、時間でなく、あくまでも決められた上代(希望販売価格)から逆算された「工賃」で、大手メーカーのOEMを受けてくるうちに、手のかかること、時間がかかること、どうすれば縫える? 縫ったあとひっくり返せる?と考えることすら避けるようになっているのでしょう。
それがまず、無理です。大変です。という職人の口癖になってしまったのです。
この工賃なら、なるべく簡易に進めたい。
その気持ちが現在のボストンバッグに見られる 簡便な普通のやり方 を生み出したのだと思います。
今回は、昔のデザイン、製法縛りでした。
「工賃はまず作ってみて、その上で決めてください。上代はその工賃をベースに決めます。工賃を値切ったりしませんから」
そう約束して始めたことなのです。
やりがいがある仕事をありがとう。
職人は、そう言いました。
手を抜く仕事よりも、手がかかる仕事の方が愉しい。気合が入る。職人の気質だと思います。
おかげ様で、10年ごしの願い 具現化できました。
あとは、こういうバッグが欲しかった!と喜んでくれる人に出会うだけ。
それが最も難しい!大変!なことかもしれませんが、じっくり取り組んでいくしかないですね。存在を知ってもらえるように。