感じたこと。
久しぶりすぎで、ログインのIDとPASSすら忘れてしまっていました。
過去記事は見ないと決めてるので、何ヶ月ブリかすらわかりません。
おそらく4~5ヶ月ブリ…c(゜^ ゜ ;) という体たらくぶりです。
いまAM4:00です。
普段なら、ほぼ寝てる時間です。
ですが今日は寝れそうにありません。
良いことor嬉しいこと、どちらでもありませんが、いろいろありまして、とにかく気分がスッキリして高揚しています。
前日が、これもまたいろいろありまして、最悪の日だった反動かもしれません。
この日はすべてが終わった後、
「厄日やったわ・・・」と呟いてしまったほどでした。
ですが今日は違います。だからコレを書いているのだと思います。
この仕事をしてきて必要のないもの、それは“感情”だと思っていました。
当然ですが、社会人であれば感情を剥きだしに生きている人なんていません。
喜怒哀楽を抑えて社会生活をしているわけです。
特に管理職の人であれば、自分の発言や行動が外に及ぼす影響を考えると逆に身動きが取れなくなることも多々あると思います。
私もそうです。
常に雰囲気に気を配り、場面に合わせた発言や行動を採ることが当然の仕事ですので、感情的なフリはしても頭のなかでは次の展開を予想していて、実は冷静です。
自分が選択した仕事ですし、これも当たり前のことだと思っています。
こういった環境のなかで、私の感情はもはや動くことすらないものになっていました。
自覚はありましたが、開き直ってもいました。
ですが、今日いろいろありまして、結局なにがあったの?って話ですが、自分の感情を相手に思い切りぶつけました。
あまりに沈黙し続けていた感情をいきなり高ぶらせたので、その方法すら忘れていただろう身体がビックリして、ちょっと格好ワルイんですけど涙がでかけていました。
思い返すと、中学校以来かもしれません。
もっとあったと思いますけど、いずれにしろ数年ブリです。
相手がどう思ったかはわかりません。
関係が壊れたかもしれません。
ですが、初めて正面から向き合えた気がするのです。
私にはそれが嬉しくて、すでにAM4:30ですが一向に寝れそうにないのです。
感情を放置することを良しとはそれでも考えてはいません。抑えて当たり前のものです。
「子供っぽいところが良い」そんなのは寝言だと思っています。
ですが、人と向き合うということがどういうことなのか、言葉では表せませんが、この年になって少しわかった気がします。
記憶の扉
1919年、ワイマール憲法が制定されました。
ですが私は、このワイマール憲法がどういう内容であるのか、ましてどこの国の事なのか、まったく知りません。
しかしながら、ワイマール憲法が1919年に制定されたことだけは知っています。
実はこれは、中学生の頃のテスト勉強で暗記した事柄です。
簡単な語呂合わせですが、「イクッ!イクッ!ワイマール憲法」という最低な暗記法ですが、いまだに頭の片隅に残っています。
それ以外に覚えているのは、本当に「鳴くよウグイス平安京」だけです。
こういったテスト勉強のために浪費される人間の記憶力といったものを、私はどちらかと言えば白痴な能力と決めつけてきました。
「こんなこと覚えてなんになんの?」という、社会や権力に対するレジスタンス的および尾崎豊的態度、さらには中学生社会における民主主義に従順でマジメな姿勢で勉強といったものを拒否してきたわけです。
※用は勉強はしなかった、ということです(^^;;
ですがこの記憶力、大きな可能性を秘めていると思っています。
専門家ではないので曖昧ですが(また?)、人間の五感(視覚、聴覚、嗅覚、味覚、触覚)のなかで、嗅覚だけが脳内の記憶を司る「海馬」とよばれる領野に直結しているらしいのです。
難しいことはわかりませんが、感覚的に理解はできます。
なにかを見たり聞いたりして思い出す過去のことよりも、例えば街中ですれちがった女性の香水の匂いが昔の彼女を思い出させる、その想起の仕方は鮮明でダイレクトです。
さらに嗅覚から想起される記憶は、人間の情動とも深く関与しているような気がします。
海馬は大脳辺緑系にあるので当然、といえば当然なのでしょうが・・・、このあたりはあまり深く突っこまないようにしておきます。
嗅覚に限らず、記憶の扉が開かれるとき、その光のなかに人間の神秘的な可能性を感じるわけです。
個人の能力差がある上に、それは情動をともなうものである場合も多々あり、つまりは感傷的な解釈の仕方かもしれませんが、直感でそう思うのです。
そういえば昔、こんなことがありました。
まだ箱ヘルの時代です。
リョウちゃんという子がいて、当時で30代半ばでしたが、サッパリとした性格とショートカットが似合う健康的な美人で、20代後半には見える女の子でした。
ある時、そのリョウちゃんの本指名のお客さんがいらして、1年以上ぶりの来店でした。
「リョウちゃん、□□さん、いらしたよ!」
さすがに1年以上前のお客さんで、覚えていなかったらしく、マジックミラー越しに顔確認しても、
「???」
という感じでした。
「まあ、行けば思い出すよ」
と、リョウちゃんはいつものハツラツとした口調でした。
□□さんをAコースの40分で案内後、戻ってきたリョウちゃんは私に、
「思い出した、思い出した!」
嬉しそうに告げてきました。
「思い出したでしょ?昔話とかで」
「いや、チ〇コ見たら思い出した!」
記憶の扉が開かれるとき、その光のなかに人間の神秘的な可能性を感じるわけです・・・。
始まり
杏樹ちゃん、と紹介された女性は私を一瞥し、ふたたびテレビに視線を戻しました。
当時でもめずらしい脱色しきった金髪の、ですがその髪色とは相容れない清潔な顔立ちの美女でした。
突然の美女との対面に緊張しつつも、私は頭を下げました。
「よろしくお願いします」
頭は下げていましたが、視線は薄地のキャミソールから伸びる杏樹さんの白いふとももに釘付けになっていました。
すこし顔の角度を変えれば下着が見えるんじゃないか、緊張にはそんな期待も含まれていたかもしれません。
私はそれを気取られないように、いたって普通の表情を意識していました。
杏樹さんは気怠そうにタバコを一服し、ゆるゆると煙を吐きだしました。
そして、それだけでした。
無視、でした。
それは私の視線だけでなく、存在すら見えていないほど完璧なものでした。
私の周りの空気が一瞬で凍りましたが、杏樹さんはそれを気に留める様子もなくテレビを見続けていました。
見かねた内田さんが笑顔で割って入りました。
「まあまあ杏ちゃん、彼、初めてだから、よろしくね。君、あとはそこで座って見てて。杏ちゃん、それ吸ったらラスト1本ね」
内田さんは手短に言うと、私の肩をポンポンと叩き、目で事務スペースの椅子を指しました。
「はい」
時間にして5秒くらいのことでしたが、なぜか打ちのめされた気分でした。
私は椅子に腰をおろしました。
風俗。
やっていけるのだろうか。
考えてみれば、数時間前の自分が想像もしていなかった場所に今いるのです。
それを自覚した途端、せりあがってくる緊張と不安を抑えこみ、真顔を保つのに必死でした。
「ま、気にしないでいいから。根は良い子だからさ」
内田さんのフォローも私には届いていなかったと思います。
「とりあえずこれから最後のお客さん案内するから、見てて」
言うと内田さんは、奥のカーテンを開け杏樹さんに声をかけました。
「杏ちゃん、ラストいこうか」
すこし間があって、暗がりに杏樹さんがやってきました。
私はひとり座っているのも気まずく、なんとなく立ち上がり背筋を正しました。
杏樹さんは無表情で、端正な顔立ちなだけに冷たく感じられました。
「あのお客さんね」
内田さんがマジックミラーの向こうで座っているお客さんのひとりを指しました。
私もその方向を向きました。
40代前半くらいの土建業風のお客さんでした。
その横には同じ格好をした、おそらく当時の私と同じような年齢の若者が座っていました。
「・・・はい」
杏樹さんの小さい返事が聞こえました。
「じゃあ君、見ててね。明日からやってもらうから。杏ちゃん、行こう」
内田さんと杏樹さんはカーテンの奥に消えると、私は事務所に残されました。
1回、ゆっくりと深呼吸をしました。
するとマジックミラーの向こうに内田さんがあらわれ、
「ではお客様、たいへんお待たせしました。ご案内いたします」
と、お客さんに声をかけました。
お客さんは、やはり同僚だったのでしょう、隣の若者に、
「じゃ、いってくるからよ」
と満面の笑みで片手をあげて言いました。
お客さんは内田さんに連れられ、マジックミラーから消えました。
するとカーテンの奥から内田さんの声、合間にお客さんの「はい」という声、どうやらお店の禁止事項を読み上げているようです。
「いいですか?」
やや大きめの声で内田さんの声が聞こえました。
「はーい!」
杏樹さんの声でした。
ですがそれは、先程とは別人の声でした。
「それではお待たせしました、杏樹ちゃんです。ごゆっくりどうぞ」
お客さんの「いや、待ったよ」という声と、嬉しそうな杏樹さんの声が聞こえ、それはカーテンのさらに奥へと消えていきました。
カーテンが開かれ、内田さんが顔をだしました。
「どう、わかった?」
「はあ、まあ・・・」
「オッケ。じゃあ、とりあえず今日はこれで休んでいいから。明日からよろしく」
休んでいいの一言で肩から力が抜けました。誰もいなかったら、床にそのまま座り込みたいほどの脱力感がありました。
「すみません、ありがとうございます」
「いや、いいよ。長旅で疲れてるだろうし、明日から頑張ってもらわなきゃいけないから。あと他の子も明日紹介するから」
「はい、頑張りますのでよろしくお願いします」
「うん」
「寝るところって、寮かなにかですか?」
「寮もあるけどね、ベッドならここに沢山あるから」
「ああ・・・」
店内で寝泊りするということか、まあいい。とにかく今は横になりたい。
そんな気持ちを知らずか、それとも知っててあえて触れないのか、内田さんは続けました。
「じゃあ、特別に6番ルーム使っていいよ。あそこはエアコンの効きもいいから。4番なんてこの時期クソ暑いからね」
内田さんは片手で扇ぐ仕草をして顔をしかめました。
何番でもいいので案内して下さい。
私は、そう念じながら相槌をうちました。
「あ、でも今5番に杏ちゃん入っているから、興奮してシコシコしちゃダメだよ」
嬉しそうに内田さんは私に言いましたが、その意を解することもできず、すでに杏樹さんの印象すら思い出すこともできない状態でした。
「ついて来て」
私は内田さんに手招きされ、カーテンの奥へ連れられていきました。
フロアは薄い暖色系の照明で、有線放送から流れるJ-POPがひとまわり大きくなりました。
狭い通路を行くと、中央に位置するであろう部屋を指し、内田さんは声をださずに「ここ」といいました。
ドアといってもパーテーション、つまり薄手の板ですが、内田さんはそこを開くと私にウィンクをして事務所に戻っていきました。
やっと眠れる、そう思いながらも部屋のなかを覗きました。
私は力なく苦笑しました。
2畳ほどのスペースに、その半分を占めるビニールのマットが一段高く敷いてあるだけの簡素な部屋でした。
あとはその部屋の隅にに狭苦しく置いてあるカラーボックスがひとつ、下段には事務所と同じようにティッシュが詰めこんでありました。
どうでもいいという気分に支配され、私はビニールマットに倒れこみました。
肌にひんやりとして気持ちいいのですが、どこか粘つくような違和感がありました。
おそらくは汗、つまりこの部屋でお客さんと女の子がプレイしたときの熱気や匂いが染み込んでいるのであろうことは、簡単に理解できました。
不快感はありましたが、急激な眠気に身体が動きませんでした。
とりあえず、明日から。
そう自分に言い聞かせるのが精一杯でした。
すべての感覚が遮断される瞬間をすぐそこに感じながら、私は目を閉じました。
するとかすかに、有線放送の向こうから女性の喘ぎ声が聞こえてきました。
隣の部屋の杏樹さんでした。
私の脳裏に、杏樹さんの白いふとももがはっきりと浮かんできました。
私はうっすらとですが目を開き、ぼんやり天井を眺めました。
目を凝らすと、天井には鏡が貼り付けてあり、ビニールマットに横たわる自分の姿がそのまま映されていました。
その姿に私は舌打ちをし、ふたたび目を閉じました。