唐突に、なかしましほ氏の焼き菓子を取り寄せてみた。届いてすぐに、息子と食す。懐かしさが込み上げた。甘味の極力抑えられた、食事のようなお菓子。



 息子が幼い頃、私たち家族が住んでいたマンションの一階には、無添加・無農薬を謳うカフェがあった。*1) そのカフェに入荷されていて、私がよく食していたのが、なかしましほ氏の焼き菓子であった。

 息子は生後4ヶ月の頃、肌荒れがひどく、病院に連れて行くと、卵アレルギーと診断された。卵アレルギーは、幼少期に数年間徹底した除去期間を設けると、アレルギー反応が軽減もしくは消失することが多いのが特徴だ。世田谷区にある三宅小児科の医師の指導のもと、私は卵を完全に除去した食事を摂ることになった。(卵を食べると卵の成分が母乳に出てしまうため。)当然、市販の洋菓子はほぼ全て食べられなくなる。そんな中、一階のカフェが仕入れていた、なかしましほ氏の焼き菓子は、卵を使わないレシピで作られていた。*2)  私がそれらを食べても、息子の皮膚は赤くならなかった。


 食べても息子を傷つけない味。安心できる味。

かつて、そう脳に刻まれた味に再び触れ、心から安らぐ自分がいた。記憶の中の味には、人を癒す効果がある。



*1) 私が通っていたお店は、コロナのパンデミックで閉店したようで、今はもうない。

なかしましほ氏が経営されているお店は、国立市にあるようで、今回は直接そこから取り寄せた。

*2)なかしましほさんのお菓子の中にも当然、卵を使うもの、使わないものの両方が存在する。卵アレルギーのかたは、都度確認したほうが良いです。