<第三章 プレゼンテーション 1>
由美子と誠がピザ屋で打合せした約2カ月後のある日、プレゼンテーションは、午後13時20分に始まった。
演台に立った由美子は、明るいブラウンのスーツで身を包み、今までに見たことがないほど凛々しく見えた。
「新しい洗濯機の愛称は『ウェーブウォッシュ』に決まりました。今までプラスチックやステンレス製だった洗濯槽の表面にシリコーンゴムで作ったフラップを設け、洗濯時は優しい揉み洗いのような効果を加え、脱水時には、絞るような効果を加えることで、洗浄力を上げながら洗浄時間、脱水時間をそれぞれ10%短縮することが実現できました。また、使用する水の量も節約することが出来、更に温風をフラップにて整流することで、乾燥時間も短縮することが出来、電気代に至っては、平均20%低くなりました。」
最後列に座っていた山本と佐藤に対し、中村課長は、
「なんだかデザイン担当のプレゼンテーションとは思えないね。もう、プロジェクトリーダーの風格だ。ここまで来れたのも、スタイリングだけではなく、フラップの形状までも健闘してくれた佐藤君のおかげだ」と言った。
懸案事項であったターゲットについては、新婚夫婦にターゲットを絞り、彼らをオピニオンリーダーにすることで拡販をしていくことで落ち着いた。主力のチャネルは家電量販店、結婚準備時に、購入する電化製品という位置づけだ。容量に対しサイズはコンパクトにまとめられ、使用していない時は、災害時のための水がめとしても使えるポンプ排出機能を備えている。このポンプは、洗浄力を高めるための射出ポンプを兼ねており、コストアップは最小限にとどめられていた。
「まさか、彼女が、デザインだけではなく、コンセプトから仕様設定までをここまでまとめ上げ、関連他部署を説得できるとは思わなかったよ。」と中村は目を細めた。
「中村課長が、裏で随分根回しをしていたと聞いていますよ。」と山本がささやくと、
「そんな情報、入手する経路がないだろう?」ととぼけた。
マーケティング部は、由美子の立てた企画のコンセプト調査を報告するに留まり、影が薄かった。
「よかったよ鈴木。」「鈴木。グッjob」と関係者たちから声がかかった。
プレゼンの間なんどもうなずいていた伊藤本部長は、何も言わなかったが満足そうだった。