昼下がりの銀行で大事件 | くればのブログ

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上越市を中心に活動する SingerSongWriter 中村賢一

 

北信五岳の中では最高峰

日本百名山に選ばれた妙高山は活火山である。

妙高山に降り積もる雪は

人々の生活を脅かすが

豊かな雪を生かしたスキー場と

温泉とのコラボレーションで観光地として

人々の生活も支えている。

 

感じる寒さは地域によって様々で

ここ、上越地方は

湿度が高い為に

実際の気温よりも体感する温度は低い。

けど 

おれが生まれ育った伊那谷に比べたら

やわらかく、やさしい寒さである。

 

 

年末になると、なんだか慌ただしくなる。

特に支払いの関係だ。

おれも例外なく、

年内に処理しなければいけない案件が発生した。

 

会社を抜け出し

従業員玄関の自動ドアが開いた瞬間に

カリカリ と、音とともに

大粒の雪が、足元に舞い込んできた。

時々、見たことのない大粒の雪玉が降る。

 

雲の上で、

妖精たちが制作していた雪だるまが

未完成な状態で地上に落ちてしまった。

 

そんな感じだ。

 

コートのフードをかぶり、

チャックを口元まで上げて

外に飛び出した。

 

原色を飲み込む灰色の世界

白と黒の絵の具を

チューブから出しきった後、

無造作に筆で広げたような

そんな空だった。

 

パタパタと、

フロントガラスに当たる雪玉をワイパーで退かしながら

契約している地方銀行に飛び込んだ。

 

受付番号カードをむしり取って

銀行内を見回すと

いろんな人がいる。

 

雪玉が付いたマフラーをしたまま

伝票を書いている中年の女性や

ロングコートを着て待合椅子に座り

折りたたんだ新聞を

足を組みながら読んでいる男の人

帽子を持ちながら同じ手で

薄くなりかけた頭をしきりにタオルで拭いている

セカンドバッグを大事そうに脇にかかえた

グレーの作業服を着た男性

 

それぞれ、いろいろな目的で集まっている人たち

 

若い人は少ない

 

意外と空いているな

 

おれは、窓口の最前列の椅子に座った。

長椅子にはおれひとり

後ろの椅子に、おばあちゃんがふたり

どうも、知り合いのようだ。

 

おれは本の入っているカゴから

地元の情報誌を取り出し

ラーメン特集を見ていた。

 

さっき、

会社でもらったアメがポケットに2個入っている。

会社の掃除をしてくれている川窪さんからもらった

カンロ飴だ。

川窪さんは、通路や休憩室、玄関、やトイレを

隅々まで綺麗にしてくれる。

そんなの、手を抜いたってバレないのに

一種懸命に掃除をしてくれる。

 

タバコの灰を落としながら従業員に説教をたれている

能無し役員に比べたら

川窪さんの方が100000000倍

立派な人間だ。

 

『川窪さんが掃除をした床は、鏡のように風景が写りますね』

と、

おれは本当のことを言う。

 

川窪さんは、『またーお世辞を言ってー』

と、言うが

お世辞じゃない。

 

テレビで見たような、美化した方法論を

プロのおれらに、恥ずかしくもなく話をする

オメデタイお偉いさんには

お世辞も言えない。

 

また明日、

バカどもとウェブ会議をしなくてはいけない。 

それを考えると、もううんざりする。

 

 

カンロ飴・・

考えてみれば、昔からよくもらうな

 

川窪さんから頂いたカンロ飴を

ひとつぶ、口に放り込んだ。

いつも変わらない安定した味である。

それにしてもでかい玉である。

 

ちょうど、飴をしゃぶり始めた頃

後ろに座っているおばあちゃんたちが

NHK紅白の話をはじめた。 

どうも、クレームっぽい。

ジャニーズ枠が多すぎるんじゃないの?

的な話であった。

 

『でもね・・』と、話が転換して 

おばあちゃんのお孫さんが好きなグループが出るらしい。

おれのちょうど真後ろに座っている

おばあちゃんのお孫さんの話しだ。

 

パニック障害がどうのこうのって言っているから

キンプリかセクゾだな・・

 

話の内容から、

どうもおばあちゃんのお孫さんは

キンプリのファンらしい。

聞くつもりもないし、興味もない話だが

とにかく話し声がデカイ!

聞かないようにするほど耳に入ってきてしまう。

よくあることである。

(まいったな・・)

なんだか、

お孫さんの好きなグループ名が思い出せないでいるらしい

すると・・

すぐ後ろのおばあちゃんが、

思い出した!!

『タマプリ』だ!

と叫んだ。

 

思わず、おれは飴を吹き出してしまった。

 

飛び出した飴はまっすぐに飛んで

目の前の受付机に、カチンと

音を立てて真下に転がった。

 

ちょうど、おれは大粒カンロ飴を

右の頬から左の頬に移動中の出来事だったので

舌がミサイルの発射台の役割を果たしたのだ。

 

おれはすぐに立ち上がり

ミサイルの回収に向かったが

その時、隣のおばあさんが追い打ちをかけた。

 

『ちがうよ〇〇さん』

『タマプリ』じゃなくて『タマキン』だよ!!

 

『タマキン???』

さすがにずっこけた。

ついにプリンスの一文字も無くなっていた。

 

ちょうど、

おれがずっこけながらかがんだ瞬間だ

テーブルの上から

『ブー』っと、

合わせた唇から空気が漏れる音が聞こえた。

 

見上げると、そこには

長い髪を垂らし

うつ向きながら肩をヒクヒクとさせている

窓口のおねえさんがいた。

 

おねえさんも聞いていたのね

 

おれはといえば

2個目の飴を

口に入れる勇気を消失していた。

 

 

 

最後まで読んでいただき、

ありがとうございました。

 

 

 

 

 

写真

ばりあんとのマスターとおれ

(撮影:みっちゃん)