~『天狗の隠し酒』を求めて~
山麓に豊富な温泉地がある「霊峰」妙高山。
いたずら好きなカラス天狗が住んでいたという伝説がある。
妙高山の奥深くに住むこの妖怪は
日本酒が大好物で、あちこちに隠し持っていたそうである。
『天狗の隠し酒』 とは
妙高山からの雪解け水を利用した
昼夜の気温差がはげしい、妙高原通地区の圃場で
土壌、水を徹底的に管理して栽培した酒米だけを使った、
まさに 『君の井酒造』のこだわりの酒なのである。
手に入る場所も限定されている。
そんなことを知ると、飲んでみたくなるもの・・
今回は、
この酒を体験することを主目的として出かけた
小旅行での出来事を記事にしました。
何と、
今年もまた、ありがたいことに、格安で温泉宿に宿泊できる
山の家優待券を入手したのだ。(妙高市労務推進協議会より)
これが今回の小旅行のきっかけである。

燕温泉へ案内してくれる
関山駅は
豪雪地帯にある。
国鉄(現JR)による観測として、
世界1位の日降雪量を記録している。
1階には喫茶室があり
2階は画廊として、絵画や写真などが展示されている。
外観は、なんともメルヘンチックなのだが
中に入ると、
なんだか昭和の時代にタイムスリップしたような感覚になる。
雪国に住む子供たちが通学で改札をくぐり抜けている姿が
頭の中でイメージされるほど・・
駅から1Kmほど離れた所に
関山神社がある。
奈良時代より妙高山を霊山と仰ぐ修験道の道場としていたところだ。
それにしても今日はいい天気だ!
台風が近づいている予報から
今日はぐずついた天候だったはずなのだが、何ともラッキーなことである。
今回、宿泊する宿は 昨年と同じ 燕温泉の歴史深い宿
チェックインを済ませて、
すぐに近くにある 露天風呂『黄金の湯』に向かった。
『歩いて10分ほどのところに 露天風呂が2か所ありますよ』
と、
宿の女将さんは、言ったのだが
・・それは絶対に無理・・
歩いて10分で着くのは、
アスリートか、地元の人くらいだ!
河原の湯 までは、山沿いの道をかなり歩くし、
黄金の湯 までの道のりは かなりの急勾配

登山から帰ってきた数人とすれ違いながら
登っている。
10mほど歩いただけで、息がきれてしまった。
『ん~ それにしても 気持ちがいい~』
不純物の混ざっていない出来立ての空気は、
遠くの緑色まで、色濃く、よく見せるのである。
渓谷を流れる水は 源泉が混ざって 温かい。
水の音は ひとのこころを和ませる。
黄金の湯に到着すると
先客がひとりいた。
登山を終えて、お湯で疲れを癒しているのだろう。
お湯につかったり、岩場に寝転んでクールダンしたり
を
繰り返してこの、豊富なお湯を楽しんでいる。
彼が飽きて出て行くまで待った。
温泉の写真を撮りたかったからだ
・・う・ ゆだってしまう・・
どのくらいそこにいただろうか
さっきまで太陽で温められていた空気だったが
日が傾きかけてから、とたんに冷たく感じるようになった。
夕焼けを見たかったのだが、
夕食の時間がきてしまう。
また、
ひとりの登山帰りの旅人が入ってきたタイミングで、
黄金の湯を後にした。
宿での食事は、
今回は大広間のテーブル席だった。
去年は、部屋まで運んでくれたのだが
その点だけが残念

席に座る前に、
さっそく、目的の 『天狗の隠し酒』 を注文
気温は、 予想以上に低かった。
冷やでいくつもりだったのだが
先ずは熱燗を体験することにした。
『この時を待ってました!』 と
こころが叫ぶ
あせる気持ちを落ち着かせながら
テーブルに置かれたとっくりからお猪口に注いだ。
大気に混ざり合いながら鼻腔に到達する
まろやかな香り
熱燗の醍醐味だ
一口含むと、その濃厚な味わいが
口の中いっぱいにひろがった。
『新潟の地酒だ!!』
わかっていても、そう頭の中で再認識する。
日本酒ほど、味にランクがきっちりしている酒類はないと
おれは思っている。
まずい酒は、徹底的にまずい
だが
うまい酒 は 徹底的に うまいのである。
そして
うまい日本酒は、ひとりだけで演出はしない。
まわりの料理のうまさも一層、引き立てる。
やられた・・ 『幸せ』 である。
うまいものを食べているときは、本当に幸せなのだ。
『新潟にきてよかった』 などと考えながら、
加速する酔い を 楽しむ。
つづいて
冷酒を飲んでみた。
なんだ・・このさっぱりとした中にピリッと舌先に感じる感覚は・・
思い返した。
『そうか、妙高山からの雪解け水を利用した
厳選された米からできているんだ・・』
本当にうまいものを味わっていると、
ひとは自然と目をつぶる。
素材の味は、それを育てた環境をイメージさせる。
さわやかな風を感じる。
強く生きようとする自然の力を感じる。
たぶん、
それは、この日本酒を育てたこの地で飲んでいるから?
そう思った。
この酒を
天狗が隠していた理由がよくわかった。
部屋に戻り、
読みかけの本の続きを読み始めたら
気付かないうちに深い眠りに入っていた。
翌朝、
宿の大浴場まで向かった。
一番乗りだった。
斜めから差し込む光は
絶え間なく流れ出る泉で、揺らいでいる。
遠くに漂う湯けむりをぼんやりと眺めながら
考えた
また来よう。
最後まで読んでいただき、ありがとうございました。


















