とうよう師が選ぶ大衆音楽100選-5 M.M.誌創刊20周年企画’89 | 偽クレモンのブログ

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〇Kutche/Cheb Khaled + Safe Boutella(8/’90年代への動きを示す重要な10枚)

シャブ・ハレド登場。+の後のサフィ・ブッテーラとやらは無視していい。サフィ某は大物政治家のドラ息子で政治的に無理やりねじ込まれたらしい。

とうよう師がこのアルバムを重要な10枚に選定することは大いに予想できたし、’90どころか現在でもその影響がポピュラー音楽界に連綿と棚引き続けている。

 

シャブ・ハレドは1960年、アルジェリアはオラン出身のライ・シンガー。ライとはアルジェリアのオランを起源とするポピュラー音楽。元々はベドウィンが即興で歌っていた歌だけの音楽で(手拍子くらいはあったかもしれない)、’30~’40ごろから打楽器やアーディオン等の伴奏が付き出し、1960年代にポピュラー音楽としての市場性を持つに至ったようだ。まずは、ポピュラー音楽として成り立ったころの原初ライはどんなだったか?シャブ・ハレドではない別の人のテイクで聴いてほしい。ラシッド・タハが2006年にリリースしたアルバムから。この曲は原初のライを2006年に蘇らせたラシッド・タハのオリジナルの新曲だ。原初ライを今(2006年時点)の音質・プロジェクトで蘇らせるという、これはこれで素晴らしい志の作品。

05 Pixel8 AME Swing 15s G 0929 1 (youtube.com)

 

このようにライは元々、最小限の展開で延々と同じアンサンブルが続いてトランス感を味わう類のストイックな音楽だった。それが徐々にポップになっていったのだが、1988年にリリースされたシャブ・ハレドの’クッシェ’によって、一気にエレクトロニカが進んだ。それどころか、ライだけでなく各国の伝統的なポピュラー音楽のエレクトロニカがここから始まったのであった。じゃ、まず1曲。アルバムの先頭を飾る象徴的な曲。

Cheb Khaled & Safy Boutella - La Camel (youtube.com)

 

曲の骨子は原初ライ仕様で、延々と同じモードでの繰り返しだ。しかしそこに大胆過ぎるシンセや打ち込みや編集がこれでもか!とぶち込まれている。エレクトロ化された中近東ポップは今では当たり前になっているのでそれほど耳新しく感じないかもしれない。でも当時、初めてこれを聴いた時は、流石にやりすぎではないか?と小首を傾げたものだ。がしかし、よくよく聴きこめば、この大胆というかやり過ぎというか、アカラサマなヒップホップ系ディスコサンドの導入が、ハレドのヴォーカルの強靭で柔軟な素性をブチ壊さないどころか、その魅力を倍増していることに気づく。たぶん今初めて聴く人は、サウンドにレトロ感を抱くことと思うが、実はそれは当時から既にそうだった。けして最先端という感じではなかった。だが、それが逆に力強さに繋がっている不思議。また、今でもさほど陳腐化していないという不思議。このサウンドの仕掛け人はマルタン・メソニエというフランス人。シャブ・ハレドだけでなく、いろいろな国のアーティストを手掛け、西欧人の頑なな耳を世界に向けさせた、言わば’ワールド・ミュージック’の仕掛け人だ。もう1曲。こちらは’70頃から分化しポップ化したポップ・ライのエレクトロニカだ。

Cheb Khaled El Lela (youtube.com)

 

良い。シンプルにシンコペイトする打ち込みによるベーストラックと生(か?)パーカッションの絡みがまず心地よい。パーカッションの抜き所も計算されていて見事。ライからトランス感を抜いた曲調なので、伴奏が一定では飽きる。だから間奏はもちろん、歌のバックもコーラス毎にアレンジを変えている。全てが計算されつくした小品。アルバムの箸休め的な曲だが、箸休めにこと心血を注ぐ、一流料亭のように。じゃ、もう1曲。表題曲を。

Cheb Khaled - Kutché (youtube.com)

 

どの曲もそうだが、ニミマムな打ち込みの効果がこんなにも大きいとは。歌が映えること。エレクトロ化は大胆だが、アレンジはやり過ぎない。塩梅が良い。加減が良い。具合が良い。なかなかできないことだ。マルタン・メソニエの手腕は素晴らしい。

 

先に書いたように、このアルバムを発火点として、ライだけでなく世界中のポピュラー音楽のエレクトロニカが一気に進んだ。しれが欧米も例外でなく、ソウルやR&Bも、以前からヒップホップをとり入れたものはあったが、ただラップを導入しただけ、が関の山だった。大胆にエレクトロ化したのは’90以降で、このアルバムの影響が大きいと、とうよう師もホザいている。昨今、デラミーで賞されるような黒人音楽で普通に聴けるワールドミュージック的フレーズとエレクトロの融合サウンドは、草分けてみるとこのアルバムがある、といってけして過言でない。とうよう師の予想はこのアレバムに限っては大当たりだった。

 

今日は以上です。