2014年の今年は、サム・クックの没後50年という節目の年であると同時に、サムを象徴する重要曲となった「ア・チェンジ・イズ・ゴナ・カム(A Change Is Gonna Come)」が録音された記念の年にもなっている。
その録音された日が50年前の1964年1月30日で、そのことを伝えるニュースサイトも何件か見られた。

●Sam Cooke Anthem Turns Fifty (リンク
●Sam Cooke And The Song That 'Almost Scared Him'(リンク

日本でも吉岡正晴さんが3回にわたって「ア・チェンジ・イズ・ゴナ・カム」に関する記事をブログで紹介されている。一つは「ア・チェンジ・イズ・ゴナ・カム」がアルバムのラストとシングルのB面に収録されてリリースされたことと、カバーされたシンガーについて。もう一つがこの曲にまつわるストーリーについてで、最後がその追記。そのどれもが興味深く面白い。

# サム・クックの「ア・チェンジ・イズ・ゴナ・カム」: 当初シングルのB面だった(リンク
#「ア・チェンジ・イズ・ゴナ・カム」ストーリー(リンク
#「ア・チェンジ・イズ・ゴナ・カム」(続き)(リンク

中でもテレビで生放送されていた『ザ・トゥナイト・ショー』に関しての記述に注目して、今回はその時のことをより深く掘り下げてみようと思う。

まず、詳しく解説して頂いた吉岡さんの記事を抜粋させてもらい、当時の状況を振り返ってみる。

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そして1964年1月30日、ロスアンジェルスのRCAスタジオでサム・クックはこの曲(ア・チェンジ・イズ・ゴナ・カム)を録音。

1964年3月1日リリースのサム・クックのアルバム『エイント・ザット・グッド・ニューズ』のB面1曲目に収録される。

テレビ生放送。

当初、シングルカットの予定はなかったが、マネージャーのアレン・クラインはこの曲に注目し、サム・クックを全米で放映される『ザ・トゥナイト・ショー』で歌うようセッティング。サムは当初全米のネットワークで歌うことを躊躇したが、アレンに説得され1964年2月7日、番組で生で歌う。ここで歌われた「ア・チェンジ・イズ・ゴナ・カム」は、おそらく衝撃を与えたであろうが、なんと歴史の皮肉が予期せぬ展開を起こす。

そのわずか2日後、2月9日に別の人気番組『エド・サリヴァン・ショー』にビートルズが初登場し、これが大々的なインパクトを与え、サム・クックの「ア・チェンジ・イズ・ゴナ・カム」のインパクトが霞んでしまったのだ。しかも不幸なことにNBCは、『ザ・トゥナイト・ショー』におけるサムのパフォーマンスの録画を保存せずに消してしまった。結局、ここで大きな話題となってもよかった「ア・チェンジ…」は注目されることなく、RCAは、それまでのサム・クック路線の「グッド・タイムス」と「エンイト・ザット・グッド・ニューズ」をシングルカット。これは順調にヒットになった。

(吉岡正晴のソウル・サーチン・#「ア・チェンジ・イズ・ゴナ・カム」ストーリーより。)
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2月7日の夜に放送されたこの『ザ・トゥナイト・ショー(The Tonight Show)』では、サムはもう一曲「ベイジン・ストリート・ブルース」を歌っていて、その時の映像は残されている。

Sam Cooke - Basin Street Blues


以前はこの時の「ア・チェンジ・イズ・ゴナ・カム」に関しては歌っていたという説と、歌っていないという説で議論されていた。
しかし、後にこの番組を放送したテレビ局、NBCの記録が見つかりサムが生で「ア・チェンジ・イズ・ゴナ・カム」を歌っていたことが明らかになっている。

先日、ファンクラブの方でもこのことが話題にあがり、そのコピーを見せて頂くことが出来た。
下の書類がそれ。

NBC Master Books

小さすぎて分かりにくいので、注目すべき点を拡大してみる。


これを見ると分かるように、11時30分から12時までの間に"BASIN STREET BLUES"と記されており、12時から12時30分の間に"IT'S A LONG TIME COMING"と書かれている。
本来なら"A Change Is Gonna Come"と書かれているはずの曲が"IT'S A LONG TIME COMING"というタイトルになっているのが気になる。

当初"A Change Is Gonna Come"(変化が訪れようとしている)のタイトルは"IT'S A LONG TIME COMING"(それは長い時間がかかった)だったのではと推測出来るが、ファンクラブの管理人であるドナルド・パイパーによれば、この曲がテレビ出演の一週間前となる1月30日に録音されたばかりであり、著作権書類を整理するのに十分な時間が無かったために、リハーサル段階で歌を聴いていたテレビ局のスタッフが、歌詞から適当なタイトルを引用してこの番組の書類を作ったのではないかと言っていた。
もしかするとこの曲を急遽サムに歌わせたアレン・クラインが仮題として"IT'S A LONG TIME COMING"と伝えていたのかも。

そしてもう一つここから分かることは「ベイジン・ストリート・ブルース」と同じセットである"CURTAIN SET"(カーテン・セット)、いわゆる仕切りのセットになっているということ。
他のカーテン・セットに変更されていたかもしれないが、時間の都合上「ベイジン・ストリート・ブルース」と同じセットで「ア・チェンジ・イズ・ゴナ・カム」が歌われていた可能性も高くなった。

この時の映像は残されていないことは知られているが、実際に当時この番組を観ていたファンの感想も聞かせて頂けた。
「当時、私はハイスクールの2年生で15才でした。私はサムがその番組に出ることを知っていたので、彼を観るために金曜日の夜に夜ふかしをしてチャンネルを合わせました。それは、私を本当にノックアウトしました。私はその非常に特別なショーを観ることが出来たことを、常に幸せであったと感じています」。

こと「ア・チェンジ・イズ・ゴナ・カム」に関しては、テレビで歌われたのは後にも先にもこの時の一回だけ。しかも「ベイジン・ストリート・ブルース」の映像を観ても分かるように、レコード音源に口パクで歌っているわけではなく、生で「ア・チェンジ・イズ・ゴナ・カム」をサムは歌っていたことになる。
それを観ていたファンの感想というのは貴重であり、とても羨ましい。

では、何故その貴重な映像が残されていないのか?

「ア・チェンジ・イズ・ゴナ・カム」が番組で歌った歌ってない論争があった時に、この曲を公民権運動の象徴として捉え、政治的な圧力によるものだったり、それに対しての危険性を考慮して放送を自粛し、尚且つ破棄されたというように論じる方も多くいた。
しかし真意は違うところにありそうだ。


先ほどのNBCの記録を観せてくれたマット・ウィーラー(Matt Wheeler)という方は、サム・クックの映像に関しての資料や知識を多く持ってられるようで、ファン・ページだけでなく、各所に情報を提供されていて、以前ここで取り上げた『14秒の8mm映像』(リンク)の映像も彼の所有していたものだったことが分かった。

そんなマットの情報によると、「ア・チェンジ・イズ・ゴナ・カム」のテープは白黒ではなくカラーで存在していたという。それが番組の再放送をするなどの予定もなく、当時のテレビ局で使用していた録画テープが高価であったために、一度放送した番組のテープを上書きして再利用したせいで、不運にもその記録が失われてしまったと言っている。
「ア・チェンジ・イズ・ゴナ・カム」の映像が政治的な論争を巻き起こす火種になることを恐れたというわけでもなく、単に致し方ない状況でこの曲は消されてしまったということだ。

しかしそうなると逆に「ベイジン・ストリート・ブルース」の映像が残されていることが腑に落ちなくなる。

そのことについて彼は、ある人物がどういった理由でか分からないが番組のコピーをとっていたらしく、その一部が流出したものではないかと言っていた。

「ベイジン・ストリート・ブルース」の映像だけ流出して「ア・チェンジ・イズ・ゴナ・カム」が出てこない。
もし「ア・チェンジ・イズ・ゴナ・カム」のコピーが残されていて、意図的に出されていないのだとすれば、余計に政治的な論争云々のみならず商業的な胡散臭さまで感じてしまいそうだ。
いや、政治的な問題なら今や黒人のオバマ大統領が誕生するくらいの時代にあってこの曲が論争を巻き起こすほどの力もないし、商業的にみても既にDVD化されるなりで世に出ていててもおかしくないはず。ましてやそんなに影響力がある作品を当時の状況で簡単にレコードでリリースするはずがない。
やはり本当に記録は全て無くなってしまったのか、存在していたとしても誰にも気づかれぬまま倉庫の中で埃をかぶってるのか。。。
何だか益々謎が深まってしまった。

それともう一つの不運となった、ビートルズの存在についても少し触れてみたい。

1964年2月7日、この日、全米に衝撃を与えてたであろうサムの「ア・チェンジ・イズ・ゴナ・カム」は、そのわずか2日後、2月9日に別の人気番組『エド・サリヴァン・ショー』に初登場したビートルズのインパクトにより、サムのパフォーマンスが霞んでしまったと吉岡さんは書かれていた。

実はその『エド・サリヴァン・ショー』の前に、サムは彼らに邪魔をされていた。

サムが「ア・チェンジ・イズ・ゴナ・カム」を歌った日に、それ以上の衝撃を全米にあたえた映像がこれ。

Beatles Arrive in USA February 7, 1964 JFK Airport


イギリスはロンドンから、初めてアメリカのジョン・F・ケネディ空港にやって来た4人組。
この日ニューヨークだけでなく全米がビートルズに熱狂していた。

当然この日の夜に「ア・チェンジ・イズ・ゴナ・カム」をテレビで歌うこととなるサム・クックも、このことは知っていたはずだ。果たして彼はどんな気持ちでこの曲を歌ったのだろうか。

皮肉にも「変化が訪れようとしている」という歌詞は、空港で熱狂するビートルマニアを観たサムの、音楽シーンに対するメッセージでもあったのかと勘ぐると、苦笑せざるをえなくなった。
しかしサムにしても、黒人音楽に影響を受けた彼らがもてはやらせるのを見て、決して悪くは思わなかった筈だ。奇しくも2月7日のアメリカの音楽界は、まさに『チェンジの日』になったのではなかろうか。


様々なサムの伝記ですらこの「ア・チェンジ・イズ・ゴナ・カム」のテープに関しては「失われた」と表現するだけで、その詳細を明らかにしているものはなかった。
しかし、この情報を提供してくれたマットやドナルドは、オリジナル・テープが失われていたとしても『ザ・トゥナイト・ショー』は全国放送の番組であったために、レコード・レーベル、サムの友人、ファン、トゥナイト・ショー・ジャンキーなどの誰かが必ず、その映像を持っていると信じていると言っている。

その映像は多分、テレビで歌った唯一のバラード曲として映像が残っている「リドル・ソング」の時のように笑顔はなく、唇を噛み締め、遠くを見据えて切々と歌われていたのではないかと思う。
ストーリーテラーと呼ばれたサムは「ア・チェンジ・イズ・ゴナ・カム」の物語を口からだけでなく、首を横に振ったり頷いてみたり、顔の表情を変え、目線、腕、そして指の先にまで巧みに使い、歌に込められたメッセージを伝えてたに違いない。

33年間というサムの歴史だけでなく、もっと前からあった長い屈辱の日々からの解放が、彼は訪れようとしていると。。。


この『ザ・トゥナイト・ショー』が放送されてから今年で丁度50年。

もしかすると、そろそろその映像が公開される日も訪れようとしているのかもしれませんね。



Sam Cooke - A Change Is Gonna Come