「幾何学入門 ―100年の謎・ポアンカレ予想」
by 情報理工学科 辻元教授
のリッチフローの説明が間違っています。
リッチフローとは何かは、前の記事
ポアンカレ予想とリッチフローを3分で
を参照してください。
元教材の権利はCreative Commonsなので、該当部を青字で書き取ってみます。
[ ]内は文章だけでも意味が通るよう私が追加した部分です。
私自身の考えは黒字で間に埋め込みます。
・講義ビデオの4番目の2:06から書き取り
dg/dt = -Ric(g) [gは計量をあらわすテンソル、Ricはリッチ曲率]
皆さんが海岸に行きますよね。そうすると砂があります。
砂の粒がこんなふうに、[凹み窪みのないかたちで]あったとします。
これを波の力で磨いて行くと、すごくちっちゃくなっていく。
これを拡大すると、だんだん球に近くなる。
[図の上側参照]

これと似た方程式が、この[ハミルトンの]方程式なんですね。
砂を磨くたとえ話だと、
曲率正の部分については何かのイメージが伝わっても、
曲率負の窪んだ部分については語らないことになってしまいます。
リッチフローの重要な特徴の一つは、
曲率の正負によって相反する操作を行なうことなので、
曲率負の場合についても何かを語るたとえを使いたいところです。
・引き続く2:43から
ところが砂の粒が凸の形をしていないで、ダンベルみたいな砂があったとして、
波の力でゴシゴシ磨いて行くと、ちっちゃくなって行くんだけど拡大すると、
これは最終的には丸が二つになる。
つまりこの[くびれの]部分がだんだん細くなってきて、
ある日プチンと切れてしまう。
そうすると二つに分かれてしまう。
[前掲の図の下側参照]
これを三次元多様体で実行しようとすると、
こういう[ハミルトンの]方程式になるんだけど。
くびれの部分が切れることは、ハミルトンの方程式の特異点に対応します。
特異点はリッチフロー実行上は、目的というよりむしろ障害です。
現実には、特異点をどう解消したり回避するかで二十年もかかったのですから。
・引き続く3:43から
つまりこの方程式は何かというと
凸の点はどんどん凸になり、
えぐれた感じの形の部分はもっとえぐれるように
なりなさいというそういう命令をくだすような方程式なんです。
これははっきりと誤りでしょう。
えぐれた部分は、適切な例をひとつ出すなら
「膨らむように」
ではないでしょうか。
えぐれた部分は曲率Ric(g)が負で、
方程式の右辺全体はマイナス符号の働きで正です。
方程式は、これが左辺と等しいと要請しています。
左辺とは計量の増大速度で、これが正だというのですから、
膨らませることに対応します。
・引き続く3:53から
このtは時間ですね。
時間をどんどん増やして行くと、
丸い点はどんどん丸くなってきて、
えぐれた点はどんどんえぐれていくので、
多様体がどんどん分解して行くわけです。
前段で示したように前半部は誤りですが、最後の行も問題です。
(単なる)リッチフローでは、連結な多様体が非連結なものに分解することは
ないように思えます。
そもそも、連結な多様体が分解するなど、
フローの途中で大域的な幾何(トポロジー)がもし変わるなら、
幾何を分類しようという幾何化予想に応用することは困難なのでは。
リッチフローで発生する特異点を解消するために、
手術で意図的に分解するというアイデアをペレルマンが採用した、
という話をなさりたかったのでしょう。
多様体論の数学者である辻教授の説明が間違っているなどと、
畏れ多いことを書きました。
数学の証明をたとえ話で説明しようとしている時点で、
この記事だって同じ程度に間違っていると言えます。
数学の証明の正しい説明とは、その証明自身のみでしょう。
この記事を書くにあたり、以下の説明を参考にしました。
"Singularities of the Ricci flow on 3-manifolds"
H.-D. Cao
http://www.mat.unb.br/~matcont/34_6.pdf
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