
この手帳には、毎日ことわざや名言がひとつ載っています。
今日4月16日は、ずいぶん大上段に構えた言葉なのですが、以下のようなものです。
「自由とは何かを物理的に定義すると、カオス状態の中にエッジを作り上げ…」
さてここで、カオス状態の中のエッジ(chaos edge)とは何のことでしょうか?
日本語では、「カオスの縁(ふち)」と訳されることもあります。
例えば、「ユーザーイリュージョン」第14章「カオスの縁で」がまさにそれです。
ユーザーイリュージョン―意識という幻想/トール ノーレットランダーシュ

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まず、カオス状態とは、
・全体としては予測が困難でランダムに見える。
・しかし振舞いは決定論的に完全に記述されている。
・わずかな初期値の違いが大きな差へと展開する。(初期値鋭敏性)
ような現象のことをいいます。
たとえば、お天気はカオス的です。
天気あるいは大気の状態は、大気分子の情報と物理学で
完全かつ決定論的に記述されてます。
しかし予測は困難で、晴れたり曇ったり降ったり、
ある程度絞り込めても、どれもあり得ます。
しかも、変化は単調(monotone)ではなく、
ブラジルでの蝶のはばたきほどの小さな差が、
時間を経るに従ってテキサスで台風を引き起こすような
大きな影響(バタフライ効果)を及ぼしていきます。

もうひとつの例として、人間の骨格の動きはカオス的です。
振り子は単振動しますが、振り子の先にもうひとつ振り子をつけた二重振り子の動きはカオスになることが知られています。
人間に二重振り子を対応させるなら、
肩関節からぶら下がっている腕が代表的でしょう。
一本の腕ではなく、肘関節を考えに加えて
前腕と上腕とに詳細化したとたん、
動きはもはやカオスにならざるを得ないのです。
次に、カオスのエッジ(縁)の話です。
セルオートマトン(CA)は、単純な地図(1次元なら数珠、2次元なら方眼紙)の上で、
特定の所の状態はお隣の影響だけを受けて決まるというルールで動くシステムです。
ルールは小学生でもわかる程度に単純で、
そして100%決定論的なのにもかかわらず、
時に生命のような複雑な図形が現れます。
典型的な例がライフゲームです。

セルオートマトンには様々なものがありますが、ルールの設定により振る舞いはいろいろです。
スティーブン・ウルフラムは、この振る舞いをざっくり以下のように分類しました。
(Class 1)秩序:時間が過ぎるに従って固定的な結果に至る
(Class 2)周期を含む秩序
(Class 3)ランダムな状態(古典的意味のカオス=混沌だがこの記事の上で述べた意味のカオスではない)
(Class 4)カオス:規則的なパターンとその乱れが混在して複雑な全体像を見せる。
ここで、Class 4 は、秩序とは言えず、かといって全くのランダムともいえません。
Class1や2と、Class 3の中間にClass 4がある感じです。
つまりざっくり言うと class1 < class2 < class4 < class3
実際、セルオートマトンや人工生命の研究家クリストファーラングトンは、
λというセルオートマトンの複雑さのパラメータを導入して、
Class 1や2に相当するところではλが小さく、
class 3に相当するところではλが大きく、
その間で振る舞いがClass 4に相転移するような
λの微小な範囲があることを示しました。
そうしたλの微小な範囲は、あたかも秩序とランダムのせめぎ合いの間で、
ギッリギリのバランスを取る場所のような感じがするわけです。
そして、このClass 4の状態を、ラングトンは、
Edge of Chaos、日本語では「カオスのエッジ」あるいは「カオスの縁(ふち)」
と呼びました。
(参考) Wikipediaのクリストファーラングトンのページの「カオスの縁」の項
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%AF%E3%83%AA%E3%82%B9%E3%83%88%E3%83%95%E3%82%A1%E3%83%BC%E3%83%BB%E3%83%A9%E3%83%B3%E3%82%B0%E3%83%88%E3%83%B3#.E3.82.AB.E3.82.AA.E3.82.B9.E3.81.AE.E7.B8.81
ユーザーイリュージョンの14章「カオスの縁で」には、
具体的な例が挙げられています。
例えば、p.437ではセルオートマトンの4つのclassを
カジュアルに三種類で説明しています。
・あっという間に消滅する
・無限に続く
・境目に存在するためどうなるか判断しがたい
あるいはp.459
「海と大気の境界線や、陸と大気の境界線で地球上の生命のほとんどがみられる…」
あるいはp.460
「複雑性はカオスの縁で増大する」
カオスの縁を人間の骨格や運動に例えると…
死んでしまって動かない状態でもなく、
がちがちに固まって動けない状態でもありません。
かといって、骨格が不統一にバラバラに
意味のない動きをしている状態でもありません。
骨同士のアライメントが揃ってセンターが通って立ち上がり、
それでいて踊るようなしなやかで複雑な動きができる状態、
それがカオスのエッジです。
そして、冒頭の手帳のことわざに戻ると、
秩序とランダムのせめぎ合いの間に生まれる豊穣な状態で行動をすることが
「自由」の物理的な定義
だといっているのでしょう。