変性意識:俳優のケース | 科学のために科学を科学的に笑うべし

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普段わたしたちが普通に生活しているときには、
目に見えているもの、耳に聴こえているもの、触れているもの、など、
実際いま物理的にそこにある何らかの存在に臨場感を感じていると思います。

では、映画を見ているときはどうでしょうか?
小説にのめりこんでいるときはどうでしょうか?
実際いま物理的にそこにはない、何らかの仮想的な世界に臨場感を感じていることでしょう。
悲恋小説や、真実を追い求める偉人の伝記を読んで、
ボロボロと涙をこぼすことがありますよね。
誰かにぶたれたわけでも、自分がカレシに振られたわけでもないというのに。
ホラー映画の残虐シーンでは、実際に気持ちが悪くなったりします。
何かいたんだ食べ物を食べたわけでもないというのに。

こうした、いま物理的にそこにはない、別の仮想的な空間や世界に臨場感を感じることを、
変性意識状態(Altered State of Consciousness)といいます。
日常とは別な(altered)意識の状態にあるわけです。



俳優の場合、いま立っている舞台で演技をする自分に意識を置くのではなく、
ストーリーの中の登場人物に意識を置くメソード演技法(メソッド演技法)という演劇理論があります。
その人物はどういう生い立ちで、好みや性格はどうで等、役柄のゲシュタルトを構築して、
それに基づいて行動すれば自然な演技ができるだろうという考え方です。
一言で言うと、なりきる方法です。
ロバートデニーロ、アルパチーノ、ジェームスディーンはこの流儀だといわれています。
演劇の世界では賛否両論があるのはもちろんなのですが、
認知科学の立場からメソッド演技法を眺めれば、
これは物理的な自分(演技している俳優)ではなく、仮想の世界に臨場感を持つもので、
変性意識状態に入るものだと言えます。

以下は、メソード演技法に基づく演劇練習で、深く変性意識状態に入った後の映像です。
入る過程の部分は省略されています。
四足の獣の世界に没入していて、尋常じゃない雰囲気なのがお分かりいただけるでしょう。



ロバートデニーロが数々のゲシュタルトを切り替えて見せる映像もあります。



あまりに普通にやってのけていますね。
これが表現技巧や経験によっていて変性意識とは関係ないのか、
それとも深い変性意識に入っていることを悟られない技も繰り出しているのか、
はっきり決め付けることまではできないでしょう。
でも、
「犬のふりしようか。
Here we go...
想像する...
毛皮に覆われてるかのように...」
とかつぶやきながらやってますね。



さて、メソッド演技法での、変性意識状態に入るための訓練として、
弛緩法というものがあります。
これではまず、全身のあらゆる筋肉を極限まで脱力します。
椅子に座ってもいられず、姿勢も保てずに床に崩れ落ち、
穴という穴から体液が流れ出るほどに、あらゆる力を抜きます。
ある意味では死人のようとも言えます。

$透明雲のブログ-弛緩法

その上で、あらんかぎりの大声を出して泣き喚くと、深い変性意識に入れるそうです。

弛緩法を本気で深くやっている場面は凄惨で、
普通に考えて人様に見せられるものではないし、
見せられるほうも気持ちのよいものではないかもしれません。
なので、ネット検索をしてみても写真や映像は出てこないと思います。

…と思ったら、なんとありました。



0分52秒あたりから、参加者が椅子にだらしなくもたれかかっている様子が出てきます。
これは弛緩法の場面でしょう。

ただし深い部分は映していません。浅く済ませているのでしょう。
実際、この映像の訓練生たちの変性意識は浅いものです。
例えば1分23秒あたりは、器か果物か何かモノに臨場感を感じて動くレッスンと
思われますが、訓練生の様子や表情はほとんど素で、
通常の意識状態の時とそう違っては見えないでしょう。
最初の映像のイタリアの俳優の訓練の様子と比較してください。



注意:
弛緩法を本気で深くやる際は、
まわりに迷惑がかからないよう、余計なトラブルを生まないよう、
あるいは他人から邪魔や介入を受けないよう、環境を整える必要があります。
試してみたい人いますか?