原作:フィリップ・K・ディック 高い城の男(原題:The Man in the High Castle 1962年)ヒューゴ賞
製作総指揮:リドリー・スコット他
脚本:フランク・スポトニッツ
監督:デビッド・セメル
出演者:アレクサ・ダヴァロス/ ルーファス・シーウェル 他
配信:アマゾンプライム、シーズン4(2019年11月15日より配信開始)
おすすめ度 75点 アメリカ人が作った大規模な歴史改変ドラマ。
※日本語版:物議を醸しそうないろいろ不味いところをカットしているそうです(調査中)
◆製作総指揮:リドリー・スコット
代表作 エイリアン/ブラードランナー/ブラック・レイン/グラディエーター/ブラックホーク・ダウン他
◆フィリップ・K・ディック
映画化作品 ブレードランナー/トータル・リコール/マイノリティーリポート/ペイチェック消された記憶他
<ストーリーと見どころ>
◆第二次世界大戦で日本とドイツが勝利したIFの世界
アメリカは戦争に敗れて、国家は3つに分断されてしまいしました。、ニューヨークのある東側を大ナチス帝国が直接統治支配し、太平洋側は大日本帝国日本により支配され、日本太平洋合衆国となりました。その中間地点は大ナチス帝国と日本太平洋合衆国の間にある緩衝地帯があり、中立地帯と呼ばれています。
敗戦により分割統治されたアメリカ 日本側は傀儡国家、ナチス側は直接支配
◆ナチスと日本の描かれ方
ナチスはヒトラー総統が治め、科学力が大変発達しています。信長状態で同盟国である日本を除き、世界をほぼ手中に治めています。民族主義を唱え、優生政策をとり、戦時中と同じくユダヤ人を根絶やしにしようとしており、ナチス帝国からユダヤ人が、中立地帯や日本太平洋合衆国に逃れてやってきます。それに対し日本太平洋合衆国は傀儡国家として日本人が治め、、治安は憲兵隊があたっており、ユダヤ人粛清に対しては同盟国との建前上行っていますがかなり緩やかです。ナチスに比べかなり貧乏国家というイメージがあります。また、マフィアに相当する勢力はヤクザが仕切っています。
◆ナチスと日本は冷戦状態
ナチスはもともと民族主義を唱える国なので、いずれ日本もその支配下に置こうと虎視眈々と狙っており、日本側から戦争を仕掛けさせようと様々な手を仕掛けてきます。(※ココらへんのところは、経済的に日本を追い込み開戦に踏み込みざるを得ない状況をつくりだしたアメリカの手口と似ている)
史実では、欧米の搾取からアジア人の開放の大義・思想のもと戦争を行いましたので、日本に統治された国家は、日本の莫大な税金でインフラの整備や医療、教育を行なわれましたが、このドラマで治める日本太平洋合衆国はもともとが豊かな国だったし、日本の国力で、税金投入できるような規模でもなく、維持するだけでやっとの状態という設定です。
◆文化の発展が止まってしまった
史実では1950年台にはロックンロールが生まれ、この作品の時代である1962年といえばビートルズが誕生した年です。しかし、文化的にはまだ戦後間もない感じがずっと続いていて、文化の発展がピタリと止まってしまったような活気のないアメリカ人の日々の生活が綴られています。憲兵隊の装備なども戦時中のままです。
◆見どころ
このドラマの見どころは、そんな中で、あるフィルム「イナゴ身重く横たわる」が出回っておりレジスタンスは「高い城の男」と呼ばれる者にフィルムを渡そうとしますが、、ヒトラーや憲兵隊も必死にそのフィルムを探していています。三者の間でフィルム争奪戦が勃発します。
そのフィルムには今住んでいる私達の世界の史実が記録されています。つまり、ドイツや日本が降伏する史実の映像です。このフィルムはどこから来たのか?もしこれが本物だとしたら、アメリカ人はどうするべきか?最終的にアメリカは祖国を取り戻すことができるのでしょうか?
ある日レジスタンスの妹から突然謎のフィルムを託された主人公、ジュリアナ・クレインを中心に物語が繰り広げられる群像劇です。
<登場人物>
・ジュリアナ・クレイン(アレクサ・ダヴァロス)
日本太平洋合衆国サンフランシスコの住民、本作主人公、妹から渡された謎のフィルムを届けることを決意、次第に自分の使命を自覚してゆく。合気道有段者。
※何故か彼女に感情移入できない人続出
・フランク・フリンク(ルパート・エヴァンス)
悲劇の恋人:ジュリアナの恋人であり宝飾加工品のアーチスト 模造品のピストル工場で働いているが、ジュリアナの行動に巻き込まれ、ユダヤ人である妹家族を木戸によって殺され恨みを抱いてレジスタンスとして活動してゆく。
・田上信輔(ケイリー=ヒロユキ・タガワ)
通商大臣、ドイツとの戦争を回避するために奔走し、かなり危険な橋をわたる。日本国側はこの田上と木戸警部とで話が進んでいく。特技:瞑想 作品の唯一の良心的な存在。
・木戸警部(ジョエル・デ・ラ・フエンテ)
憲兵隊幹部、祖国のために全身全霊をかけて職務に挑む侍的な存在。自らの足で稼ぎどんどん謎を解明していく切れ者。容赦ない姿勢が印象的。
※売春婦に性的な関係を持つことなく、お金と自由を与える姿が本来人間としての木戸警部の姿。
・ジョン・スミス(ルーファス・シーウェル)
親衛隊大将、アメリカ人でありながら元帥まで上り詰めた切れ者であり策士、ドイツ側の主人公であり、優生政策をきっかけに、ドイツのあり方に疑問をいだき始める。
※ジョン・スミスの物語としても楽しめます。
・ジョー・ブレイク(ルーク・クラインタンク)
ジョン・スミスのもとで働くスパイでその出生は謎に包まれている。次第にジュリアナ・クレインに好意を抱くようになる。
◆ナチスドイツの優生政策とは?
http://www1.s-cat.ne.jp/0123/Jew_ronkou/NazisGermany/Nazis_yuuseiseisaku.html
2章 ナチス政権が行なった 「強制断種政策」 と 「障害者安楽死政策」
欧米では1920年代後半から、劣等な子孫の誕生を抑制し優等な子孫の誕生を促進することにより、国家全体あるいは民族全体の健康を図ろうとする思想(優生思想)が支配的となってきた。 こうした思想背景の中で、1933年7月、ナチス政権下のドイツにおいて、先天性精神薄弱者、精神分裂病患者、躁鬱病患者、遺伝性てんかん患者、遺伝性舞踏病患者、遺伝性全盲者、遺伝性聾唖者、重度の遺伝性身体奇形者、重度のアルコール依存症患者に対する強制断種を可能とする法律(断種法)が制定された。 この法律に従って、地域の医師や精神疾患施設の責任者は、断種法の適用候補者をリストアップして当局に提出した。 これに基づいて 「遺伝衛生判定所」 が候補者を断種するかどうかを決定した。 もし、断種が決定されれば、本人の同意が無くても強制的に断種された。 この法律により強制断種された人の総数は20万人~35万人と言われている。 念の為に述べておくと、 当時、強制断種政策を実施していた国はドイツだけではない。 当時の欧米諸国、例えば、アメリカ、カナダ、デンマーク、ノルウェー、スウェーデン、フィンランド、エストニア、アイスランド、スイス、オーストラリアでは強制断種が行なわれていた。 日本でも1940年(昭和15年)に遺伝性精神病などの断種手術などを定めた 「国民優生法」 が制定された。
<ナチス・ドイツの優生政策とは より抜粋>
◆日本でもあった優生政策 わたしのからだホームページより ←クリックで飛びます
障害者に対する差別は日本にも昔からありましたが、18世紀にヨーロッパとアメリカに拡がった「優生学」を取り入れた結果、それは“近代的な科学”の裏付けをもって法律のかたちに現れました。法律に定めるということは、“障害をもつ子どもの出生は家族と社会の負担であり本人の不幸だから、障害をもつ子どもを産む可能性のある人の生殖機能を奪ってもかまわない”といった障害者への偏見に満ちた考えを、国が表明したということです。また、“子どもを産んでよい人”と“子どもを産んではいけない人”を、国が選別するということでもあります。
最初にできた法律は、障害者の断種を目的として1940年に成立した国民優生法でした。当時の日本は、世界大戦への道をひた走っていました。兵士となる子どもを「産めよ殖やせよ」という時代で、避妊も中絶も不妊手術も、一般には許されていませんでした。国民優生法は、「遺伝性疾患」をもつ人に限って、優生学的理由による不妊手術(*)を行うことを認めた法律です。しかし、本人の同意なしに不妊手術ができる条文があったものの実施されず、本人が同意した手術の件数も、目的に反して少なかったのです。国民優生法は断種よりもむしろ、一般の中絶をいっそう取り締まることに力を発揮したのでしたが、それでも、“障害をもつ子を産むかも知れない人は、断種して良い”という考え方を、人々に定着させることになりました。
Amazonより感想の抜粋
現実世界における、勝者であるアメリカや連合国の国々が必ずしも正義ではなかったのと同じように、勝者によって描かれた歴史観(正義)に疑問を持つ、或いは正しいという思い込み疑う事。現実の真逆の世界を描くことによって、“当たり前を疑う”。これこそがこの作品の根底的テーマにして、良く描けていると思う。strandさん
その架空世界だけが取り沙汰されていますが、むしろこのドラマのテーマは「何をもって信じるか」ではないかと思います。Amazonカスタマーさん
多分女性とかは好んで見なそうな話です。MRXさん
なぜ日本人役に日本人を起用しない?(笑)
「ケンペイターイ」「シツレイシマス」
といった唐突に挟まれる日本語にちょっと笑ってしまいます(笑)Amazonカスタマーさん
話が進んで行くと、抵抗勢力であるレジスタンスも必ずしも正しい訳ではない…むしろ日本軍やナチと同様に目的のためには手段を選ばず、組織内の権力に取り憑かれた冷酷さを露わにする姿で描かれて行き来ます。どんな立場に立とうとも、権力や組織的暴力を盲目的に信じることの怖さ、そしてそれを阻止することの難しさが浮き彫りになって来て、現在の世界の状況とも重ね合わされ、考えさせられる作品になって来ました。アメリカの作品には珍しく勧善懲悪ではないストーリーです。ルフトバルーンさん