◆Tomorrow Never Knows(トゥモロー・ネバー・ノウズ)
ビートルズの曲でぶっ飛んでる曲をあげるなら、迷わずこの曲をあげます。
ティモシー・リアリー著の『チベットの死者の書』を読んだジョンが触発されて作ったと言われています。
その書はLSDを服用することによって精神的に啓蒙されることを説いたハンドブックです。
ドラッグを多用していたジョンが、”物質第一の世の中から超越した価値観を得る”ということを題材につくったドラッグミュージックであり、サウンドもそれらを表現しています。
ロック界が初めて超現実世界に足を踏み入れた記念すべき作品です。
ビートルズは1966年8月29日のサンフランシスコのキャンドルスティック・パークにてコンサート活動を中止しましたが、この曲のレコーディングは1966年4月6日、4月7日、4月22日となっています。当然この曲のステージ上の再現は無理なので、演奏活動はとりあえず、していたが、レコーディングアーチストにすでになっている時期と考えるのが筋かもしれません。
アルバム「ラバー・ソウル」あたりから、レコーディングに様々な試みを行うようになりました。そしてこの曲はその次の作品「リボルバー」の最後に収められており、かなり実験的な作品です。実験的な作品は失敗に終わることも少なくないのですが、完成した曲はすばらしい出来となっています。たった3分弱の中にあふれかえるほどの音の洪水が次々に繰り出されていきます。また、「元祖サイケデリックミュージック」と呼ばれ、50年後の今でも語り草になっています。
◆様々な実験的試みが行われた
●ベース音がCコードだけで作られている
●サンプリングループという手法が初めて?取り入れられた
●テープの切り貼りや逆回転が多用されている
(時間の流れを逆回転させて、ただよう流れの中にいる自分を表現)
●ヴォーカルをハモンドオルガンのレズリースピーカーを使ってドップラー効果を出している
(この世の声ではない超越した次元からの声を表現)
●インドの弦楽器タンブーラが使用されている
(精神的な世界観を演出)
●かもめのような鳴き声は、ポールの声の逆回転
●ギターソロもフレーズを逆にして弾いてテープの逆回転で再生してる
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Tomorrow Never Knows
レノン・マッカートニー
肩の力を抜いて無心になり 気持ちを鎮めてごらん
それは死ではない それは死ではない
何も考えず 虚無に身をまかせてごらん
それは輝いている それは輝いている
内なるものの意味がおのずと見えてくるかもしれない
それは確かな存在 それは確かな存在
愛がすべて 愛とはあらゆる人々
それは知ること それは知ること
無知と憎しみが死者を悼むこともある
それは信じること それは信じること
けれど うたかたの夢の色に耳を澄ましてごらん
それは生命を持たない それは生命を持たない
あるいは生活というゲームを最後まで追求してごらん
それは発端の結末 それは発端の結末
「ビートルズ全詩集」内田久美子訳
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◆元祖サイケデリック・ミュージック
結果的に出来上がった曲は、かつてのロック界に存在しない革新的なもので、精神世界をみごとに表現したサイケデリックミュージックであり、その手法はその後ピンクフロイドやイエス等に代表されるプログレシブロックと呼ばれるジャンルの先駆的作品となったのです。私もプログレは大好きで良く聞いていました。生粋のロックンローラージョンのヴォーカルは歯切れがよくパンチがありドスがきいていて、さらに説得力まである、このような歌い方ができるプログレバンドはみかけませんね。
絵画の有名人の作風に例えるならば、ポールは「ルノワール」的な天才であり、ジョンは凡人には理解しがたい、抽象画の「ピカソ」や「ゴッホ」的な作品を作れるイメージがあります。ポールのヒット路線に対して、ジョンは売ることなど全く考えないような芸術作品を作れる人なのです。「レボリューションナンバー9」なんかも実験作品です。ビートルズの作品に意味や付加価値を持たせるのはジョンの得意技なのです。そして、私の様なファンは啓蒙されていくのです。
◆芸術性と大衆性の両立
また、このような実験的な作品がアルバムに入っているビートルズというグループはヒット曲を飛ばすだけのポップグループではない、知性を感じさせるアーチストでもあり、芸術性と大衆性という難題を難なくこなせる類まれなる能力をもっているのです。
もしかしたら、一般のリスナーより、作曲のプロであるミュージシャン達に衝撃を与えた作品かもしれませんね。まだロックを聴き始めて、耳ができていない私は、強烈過ぎて受け入れられませんでしたが、プログレを聞くようになって耳が肥えてきて、あらためてきいてみるとこんな凄い曲だったのだと改めて認識することになり、今では最初の頃とは逆にこの曲が大好きになり、中毒性があり無性に聞きたくなる時があります。
◆LSDの功罪
ジョンはビートルズ脱退後に精神科医アーサー・ヤノフの治療を受けていました。
記者:ティモシー・リアリーはエゴ破壊という考えを肯定していたようですが?
「彼は,LSDを売りつけて、多くの人を壊滅させました。LSDは本当に危険なドラッグです。LSDは精神の健康に最も痛烈な打撃を与えるものです。今日に至るまで、私たちはLSDをやってきた人々をおおぜいみてきました。彼らの脳波のパターンは普通の人間とは違い、まるで抵抗感力がなくなってしまうようです。それがそのまま続くのです。」 アーサー・ヤノフ博士
◆ジョンのインタビュー
これは、ぼくの「チベットの死者の書」の時代の曲。このタイトルの表現は、これまたリンゴ流の言いまわしだ。はじめこの曲には、どうでもいいタイトルがついていた。詞について、ぼくは少々自意識過剰になっていたんでね。ぼくはいわるゆるヘヴィな哲学的詩の角をとるつもりで”リンゴイズム”を使ってみた。 1980年プレイボーイ誌インタビューより
The Fab Faux - Tomorrow Never Knows
Tomorrow Never Knows - The Beatles by Char
↑いっけん畑違いとも思えるcharさんのヴァージョン。801プロジェクトのliveヴァージョンに近いアレンジでかっこいいですね。
◆私の”この1曲”
たぶん”Tomorrow Never Knows”だろうな。今聴いても始めて聴くような気がして、ほんとうに魅力的ですばらしい曲だ。何だか難しいんだ。なにかは分からないけれど、すっと自分の中に入り込んでいくような感じかな。何でできているのかわからないけれど最後には意味を成している。ポップ・ソングなんだけど、宇宙からやって来たもので作られているみたいだ。 byトム・ローランド mojoより