3月に入り、私の誕生日が近付いた。

龍と付き合って3回目の誕生日だ。


相変わらず龍は私を求める一方で「アツコ」との関係は続いていた。

そんな勝手な龍に苛立つけど、求められているのはまだいいと思っていた。


私も相変わらずバカ…ガーン


そして私の誕生日を迎えた。

毎年何だかんだで一日一緒にいた。

特別な何かをするわけではないけど、生まれた日に一緒にいるだけで嬉しかった。


私「今年は一緒にいられる…?」


龍「…たぶん」


聞いてはみたものの、ハッキリしない答えが返ってきた。

でもそれは毎度のことで今回もそんなことを言いつつ一緒にいてくれると期待していた。



でも龍は当日私の前には現れなかった。

待っても待っても龍からの連絡はない。

逆に私からの連絡も龍に届くことはなかった。


ピリリリリ携帯

ピリリリリ携帯


お昼ごろに携帯が鳴った。

龍からかと思い飛びついたが、携帯画面には友達の名前が浮かび上がっている。


私「はい、どうしたの??」


友「ちょっと出てこられないか?」


私「いいけど…」


友「今家の前にいるんだ」


私「え?今行く」


家を飛び出して友人のところまで近づいた。

この友人は龍と私の共通の友人で、龍の浮気中も妊娠中も私の悩みを聞いてくれた唯一の人だった。


私「どうしたの?」


友「うん、誕生日おめでとう」


私「ありがとう」


友「で、龍からコレ預かった」


友人から受け取ったものは小さな手紙だった。

器用に折ってあり、まるで女子高生が授業中に回すような小さなものだった。


私はそれを受け取ると黙って手紙を開いた。


【お誕生日おめでとう 今日は一緒にいられなくてごめん どうしても抜けられない用事があって…

プレゼント何にしようか迷ったんだけど これにした 俺がいつもつけてるチョーカー 大切にしてほしい

じゃぁまたな 愛してるよ】注)この内容は忠実に再現しています


手紙の内容通り、龍がいつもしていたチョーカーがコロンと転がった。


友「…なんて?」


黙って手紙を友人に押し付けた。

手紙を読んだ友人は何とも言えない顔をして私を見る。

友人は今の状態を知っている。

この一見普通のラブレターのような手紙が何を表わしているのかすぐに分かったようだった。


私「もぅ…ダメなんだね」


入っていたチョーカーを手に取り眺めながら呟いた。

ペタしてね

手術後は経過も順調で、特に変わったことはなかった。

2、3日安静にしていれば元の生活に戻れると聞いていたので、次の日はサークルの事務所で横になった。

もちろん龍も側にいて離れない。


学校では事情を知っている友人が気を使って優しくしてくれる。

申し訳なさを感じながらもとにかく安静に過ごした。



体が楽になると、龍はまた私を自分の好きにしようと迫ってきた。

懲りない奴…しょぼん

遊びに誘われれば私は嬉しくてホイホイ着いていく。

今龍の誘いを断ったらきっと「アツコ」のところへ行ってしまうという恐怖があったのだ。

だがまだそんな気にはなれない。
手術をしたばかりだし、次の生理がくるまで様子をみるようにと医者に言われたのを忠実に守っていた。

龍は私が全て理由をつけて断ると、ふてくされた様に1人ベッドで眠ってしまう。

今まで断っても聞いてくれた試しはなかったが、今回は手術したことで彼なりに納得せざるを得ないのだろう。


龍「いつからできるの?」


龍はそればかりを繰り返す。


私「まだダメ。できるとしてもちゃんと避妊しようよ」

龍「やだ。気持ちよくないもん」



私は龍が避妊具を買ったり持っているところを見たことがない。

毎回私がコンビニや薬局で買うが、いつも使ってくれずに捨てられてしまっていた。


今回手術という…こんなことになった原因の1つは私自身が龍を拒めないことにある。

拒めない理由…

1拒んだことによる浮気
2拒んだことによる行為の暴力化(殴る蹴るではない)
3それらによる精神的圧力

この三つがある。
逃げられない状況を作りあげられてしまうのだ。

嫌いであれば逃げたり別れたりすることもできるのだが、私は龍のことを嫌いになることができない。

中学の時に私を認めて支えてくれた思い出が美化され、司がいなくなったこともあって龍を失いたくない気持ちが強かった。


はっきり言えば、好きかどうかなんてもぅ分からなくなってしまっていた。

浮気性で自分勝手でいい加減で嘘つきでどうしようもない最低な人と一緒にいるメリットはない。

そんなことは自分でもよく分かっている。

でもそんな龍を認めて受け入れたいという気持ちがあった。

自分がそうしてもらったように。

それに龍は人付き合いがとても下手で、友達や仲間ができてもすぐ離れてしまう。

そんな龍を放っておけなかった。


好きな気持ち…正確には好きでいたい気持ちと、龍に対する諦めと偽善、それらが混じりあったもので私の感情はできていた。

今思えば執着なのだろう。
でも私はその感情を「好き」なんだと思おうとしていた。

だから別れるということは考えたことがなかった。

だが今回手術したことで重荷がなくなった龍は、確実にカウントダウンを開始していた。

ペタしてね

次に目が覚めたところは小さな病室だった。

目は開くものの瞼は重く、今にもまた眠りに引き込まれそうになる。


私「龍…?」


ゆっくりと体を起してみたが力がうまく入らない。

バタンとベッドへ倒れ込んだ。


部屋には私の他には誰もいなかった。

今何時なのか気になったが時計を見る余裕もないほどグッタリだ。

頭もボゥッとして物事を考えるのが億劫だった。


私「龍…」


無意識に出る龍の名前。

きっと待合室で待っていてくれる。

そう信じてまた目を閉じた。



しばらくすると看護師さんが様子を見に部屋に入ってきた。


看護師「目は覚めたかな?」


私「はい…」


看護師「じゃぁ経過を見させてね、あと30分くらいで動けるようになるから」


私の体を確認して看護師さんは出て行った。

30分…早く学校に行かなきゃと焦りもあったが体が動かないと仕方がない。

体を横にしたまま、またボンヤリ部屋を眺めていた。



だんだん意識がはっきりしてきたのは看護師さんの言う通りそれから30分後だった。

体のだるさもなくなり、ベッドに腰をかける。


私『とうとういなくなっちゃった…』


大きなため息をついて、畳んであった制服に手を伸ばす。

これからまだ学校に行かなきゃいけない。

制服を着なおして時計に目をやると午後2時を回っていた。


私「やばい…!!」


学校は3時に終わってしまう。

8時に手術を開始して目が覚めたのは午後2時。

遅れると連絡は入れているが、これほど大幅に遅れるなんて想定外だ。


慌てて待合室に降りると、龍がソファーでぐったりとしていた。

前日の仕事から寝ていないので当然と言えば当然だ。

私を見ると龍はゆっくり立ち上がった。


龍「終わったの?」


私「うん」


その後先生からこれからの過ごし方や注意事項を聞いて病院を後にした。


これから学校に行ってもきっと欠席扱いになってしまうだろう。

でもそのまま休むわけにはいかない。

遅れると連絡したのだから、何が何でも行かないと学校側も不審に思うかもしれない。


生理痛のような腰の重さはあるけれど、動けないほどではない。

私は龍と電車へ乗り込み学校へ向かった。


龍「待合室で待ってたら寝ちゃってさ、時間がかかるからここで寝ていられたら困るって病院追い出されたんだよね」


私「そうなんだ」


龍「だから時間潰してた。ひどいよな」


龍は電車の中で病院の不満をタラタラと述べていた。

○○さんからメールがあったとか、そんなことも話していたが耳には入らない。

逆に、そんなことしか話せないの?と苛立ち始めていた。



私は途中下車で学校へ。

龍はこのまま電車に乗り、自分の家へ帰る。

龍が自分の家へ素直に帰るか分からないが…。


もうすぐ下車する駅へ着く。

すると龍は今まで繋がなかった私の手を握った。


私「なに?降りなきゃいけないんだけど…」


龍「・・・・・・」


真剣な顔で俯いたまま手を離さない。

離すどころかギュっと力を込めてきた。


…以前にも同じことがあった。

あの最悪のクリスマスの帰り、下車する駅の前で龍は同じことをしたのだ。

私は学生でお泊りが出来ない分、きっと龍は寂しさや不満があったのだろう。

だから帰る時間になったのを知っていても一緒にいたかった。


今回龍が同じことをした理由。

不器用で意地っ張りな龍のことだ、きっと謝りたかったのだろう。

言葉にできない龍はそうすることしかできないから。


でも私はそんな龍の気持ちに答えず、龍の手を振り払って逃げるように電車を降りた。

そして振り返る事もないまま階段を駆け降りた。


自分の中の悲しみや怒りをどこにぶつけたらいいのか分からない。

妊娠したことや手術のことも自分にだって責任があるのに、すべて龍のせいにしたかったからだ。

謝ることなんてされたくなかった。

ペタしてね