(今回も、私小山田が感じたことを雑多につづっていきます)

 

89. The Long And Winding Roadにおける使役動詞keepとleave

 

2023年は、ビートルズが新曲を発売したことで話題になりました。ジョン・レノン(1940~80)のデモテープと1990年代にレコーディング済みだったジョージ・ハリスン(1943~2001)のギターをもとに、ポール・マッカートニーとリンゴ・スターが楽器とバックコーラスを付けて完成したNow And Thenです。それとともに、オリジナルが1973年発売のベストアルバム『ザ・ビートルズ 1962年~1966年(赤盤)』 と『ザ・ビートルズ 1967年~1970年(青盤)』の、それぞれ2023エディション)が収録曲を追加して発売され、話題を呼びました。

 

今回は、オリジナルが1970年発売のアルバム『Let It Be』及び上記の『青盤』に収録されている、The Long And Winding Roadを取り上げます。この曲は、ポール・マッカートニーの作曲及びヴォーカルで、心が離れて行ってしまった愛する人(ジョン・レノンという説があります)に向けての曲です(歌詞と和訳付きの映像はこちら。但し2009年のソロでのライブ音声のみ)(対訳はこちら)。

次の使役動詞の部分に注目しましょう(訳は筆者)。

 

(1)Why leave me standing here?(なぜ僕をここに立たせたままにしているの)

(Why do you leave me standing here?の省略)

(2)You left me standing here.(君は僕をここで立たせたままにした)

(3)Don't keep me waiting here.(僕をここに待たせたままにしないで)

(4)Don't leave me waiting here.(僕をここに待たせたままにしないで)

 

使役動詞と言えば、make, let, haveの目的語には動詞の原形が、getの目的語にはto不定詞が続きますが、keepとleaveは、目的語の直後に動詞のing形が来ます。どのフレーズも、「僕をひとりぼっちにしないで欲しい、置いてけぼりにしないで欲しい」という内容ですが、keepとleaveの動詞の使い方に違いはあるのでしょうか。

 

Longmanによると、keepは"to continue doing something or to do the same thing many times"(何かをやり続けたり同じことを何度も繰り返す)とあり、leaveは"to let something remain in a particular state, position, or condition"(ある特定の状況や位置や状態のままにしておく)とあります。

そうすると、ingを付けた形は次のように解釈が出来ます。上記の(3)(4)を対比してみます。

 

(3)keep~ing:繰り返し~し続ける

(4)leave~ing:放置して~させておく

 

(3)は「僕を待ち続けさせないで」、(4)は「僕を放置して待たせないで」、というニュアンスになると考えられます。いずれにしても、去って行った人への思いが強く出ている歌詞です。

 

筆者の演奏

 

 

(今回も、私小山田が感じたことを雑多につづっていきます)

 

88. CarpentersのOnly Yesterdayの歌詞における倒置

 

2023年は、1970年代を中心に活躍したアメリカの兄妹デュオ・グループ、カーペンターズのヴォーカリストだったカレン・カーペンターさん(1950~83)の没後40年です。

今回は、1975年に発表したOnly Yesterdayの歌詞を取り上げます。この曲は、孤独に耐えた主人公が、ようやく巡り合った人によって悲しみを過去に捨てて前向きに生きようとする内容です。

 

その中で、「倒置」の用法が使われている歌詞があります。倒置用法とは、通常「主語+動詞+目的語か補語」の語順が、強調や長い主語を避けるために語順を変えることです(以下、通所の語順→倒置の語順)。

 

例1.All you need is love.

→Love is all you need.(愛こそがあなたが必要な全てのものです)

(~All You Need Is Love, The Beatles, 1967)

 

例2.The man who finds wisdom, the man who gets understanding is happy.

→Happy is the man who finds wisdom, the man who gets understanding.

(知恵を求めて得る人、悟りを得る人はさいわいである)

(~Proverbs 3:13)

 

例3.I never dreamed such a thing.

→Never did I dream such a thing.(そのようなことは決して夢に見なかった)

 

例4.A large tree is in the garden.

→In the garden is a large tree.(庭に大きな木があった)

(注1)

 

例5.If he had woken up earlier, he could have caught the bus.

→Had he woken up earlier, he could have caught the bus.

(もう少し早起きしていたら、彼はそのバスに間に合ったのに)

 

カーペンターズのOnly Yesterdayの歌詞には、次の3ヶ所に倒置用法が見受けらます(作:John Bettis and Richard Carpenter、訳:筆者)。

 

(1)Waiting was all my heart could do.

(私の心が出来たのは、待つことだけだった)(注2)

(2)Hope was all I had until you came.

(あなたが現れる前は、希望しか持っていなかった)

(3)No one else on earth I really rather be.

(この地上のどこにも、あなた以外に私がいる場所は無いでしょう)

 

(1)(2)は、主語が長いことから補語のwaitingとhopeが文頭に移動したもので、元の文はそれぞれ次の通りです。

(1)'  All my heart coud do was waiting.

(2)'  All I had until you came was hope.

(All I had was hope until you came.やUntil you came, all I had was hope.も可)

(3)も補語の文頭移動ですが、否定語が文頭に来ていることと強調による倒置だと思われます。

(3)'  I really rather be no one else on earth.

 

また、サビの

(4)Only yesterday when I was sad and I was lonely.

(私が悲しくて孤独だったのは、ほんの昨日のこと)

は、詩や歌詞に独特の用法で、名詞や名詞節の羅列ですが、

be動詞を補って

(4)' Only yesterday was when I was sad and I was lonely.

とすると、次の文の倒置とも考えられます。

(4)'' When I was sad and I was lonely was only yesterday.(注3)

 

こうした倒置用法によって、この曲の歌詞に込められた意図がドラマティックに表現されるという効果を生み出していると思いました。

 

(注1)通常は突然不定冠詞から始めるのは好ましくないので、There is a large tree in the garden.

(注2)実際の歌詞は、waitin'のように語尾のgが脱落しています。

(注3)It isを補って次のようにすれば、It is〜that…の強調構文で接続詞がwhenに変わった構文とも考えられます。

It was)Only yesterday when I was sad and I was lonely.

 

(今回も、私小山田が感じたことを雑多につづっていきます)

 

最近、サッカーや野球の掛け声で、Vamos!という言葉を聞きます。

これは、スペイン語の動詞ir(行く)の1人称複数形の活用で、「行くぞ」「頑張ろう」などの意味です。

活用は、1人称単数ー2人称単数ー3人称単数ー1人称複数ー2人称複数ー3人称複数の順に、

voy-vas-va-vamos-vais-vanとなります。

スペイン語やイタリア語などラテン系の言語は、主語や時制によって活用が変化するので、強調でもしない限り通常は主語が省略されます(生成文法では「pro-drop言語」という名称があります)。

 

英語も、西暦1000年頃の古英語では活用が豊富でした。例えば、goの活用は、

gā-gæs-gæð-gāð(複数形は共通)でした(ただし、主語は省略されません)。

 

その後、現在形では3人称単数のみにsがつく活用が残って、現在に至ったというわけです。