サマセット・モーム『人間の絆』 | 文学どうでしょう

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人間の絆〈上〉 (岩波文庫)/モーム

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サマセット・モーム(行方昭夫訳)『人間の絆』(上中下、岩波文庫)を読みました。Amazonのリンクは上巻だけ貼っておきます。

モームは以前『月と六ペンス』を紹介したイギリスの作家さんです。

世界文学を読みたいけれど、なにから読んだらよいかしら、という人は、モームが『世界の十大小説』(上下、岩波文庫)という本を書いているので、参考にされるとよいかもしれません。

さてさて、『人間の絆』ですが、ぼくは昔これが大好きで、読み直してまた感動しました。傑作です。なんだか毎回そんなことを言っている気もしますが、これは本当にいいです。

「もし無人島に一冊だけ持っていけるとしたら何の本を持っていく?」という質問がよくありますが、もしかしたら、ぼくはこの『人間の絆』を選ぶかもしれません。それくらい好きなんです。あっ、上巻だけ? とかいじわる言わないでくださいよ(笑)。上中下で持っていきます。

あらすじ紹介の前に、この小説の魅力を2つ先に書いておきます。

まず1つめ。なんといってもミルドレッドです。ミルドレッドという女性が出てくるんですが、本当に小説とは思えないくらい深く印象に残るキャラクターなんです。この女性以上にリアルに存在するキャラクターをぼくは未だ知りません。

もう1つは、主人公が平凡なごく普通の人間で、しかもコンプレックスを抱えた内向的な人格であること。

最近読んだ『赤と黒』のジュリヤン・ソレルには高い自意識と英雄的な志がありました。ぼくが本当に好きな小説『レ・ミゼラブル』の主人公ジャン・ヴァルジャンも屈強な肉体と不屈の闘志があるんです。

つまり物語の主人公は、共感できる部分があるものの、どこか常人離れした要素があると思うんですよ。

ところが『人間の絆』の主人公フィリップは本当に普通の人なんです。そこがとてもいいんです。

さてさてお待たせしました。あらすじの紹介です。フィリップが生まれるところから物語は始まります。でも両親が亡くなってしまって、伯父さん夫婦に引き取られる。

フィリップは片足が不自由なんです。これが彼にとってとても大きなコンプレックスになっている。

フィリップは色々なことを学びながら、成長していきます。伯父さんは牧師かなにかなんですが、神様は奇跡を起こせるというので、フィリップは足が治るようにお願いします。でも願いは叶わない。

いくつかの恋愛というか、フィリップと女性との関係が描かれます。ここら辺りは実際に読んでもらいたいので、ざっくり飛ばしますね。フィリップは絵を勉強しにフランスに行ったり、医者になるために学校に行ったりします。

そして運命の女性というか、宿命の女性ともいうべきミルドレッドと出会います。

ミルドレッドはカフェのウェートレスかなにかをしているんです。フィリップはなんだか気がつかない内にミルドレッドのことをすごく意識するようになる。

フィリップとミルドレッドはうまくいくようで、なかなかうまくいかない。そしてフィリップが人生を真っ直ぐ歩いていこうとする時、ミルドレッドが現れ、フィリップの人生をぐちゃぐちゃにしていくんです。

いや~、ミルドレッドは本当にどうしようもない女なんですよ。ダメ人間なんです。そしてこの小説の本当に面白いところは、フィリップは理性ではミルドレッドと関わっちゃいけないと分かっているところです。

どう考えたってダメだと頭では分かるんだけれども、心ではどうしようもないくらいミルドレッドに夢中なんです。この辺りが嫌になるくらいリアルで、もう本当にミルドレッドにうんざりしちゃいます。物語のキャラクターとかじゃなくて、現実の存在に近い形で嫌になっちゃう。

フィリップやめとけよ、とぼくらは思うわけです。フィリップ、ミルドレッドにはもう関わるなよと。でも、だってどうようもなく好きなんだ、と言われたらもう止めようがない。あわわわと思いながら、ページをどんどんめくっていくしかないんです。

そんな感じでフィリップの人生がこども時代から青年時代を経て、一人前になるまでの平凡かつ心情的には波瀾万丈な人生が描かれていく小説です。

もう1つ物語には面白い部分があって、フィリップは親しくしていた老詩人から、ペルシャ絨毯の切れ端をプレゼントされるんです。そこに人生のすべてを解く鍵があるというようなことを言われる。

人生とは何か? それを悟るフィリップの考えにも注目です。

この小説はぜひたくさんの人に読んでもらいたい小説です。難解ではないですし、すごく面白いです。ぜひ読んでみてください。かなりおすすめです。この想い伝わるのかなあ? 少しでも伝わるといいのだけれど。