スタンダール『赤と黒』 | 文学どうでしょう

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赤と黒 (上) (光文社古典新訳文庫 Aス 1-1)/スタンダール

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赤と黒(下) (光文社古典新訳文庫)/スタンダール

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スタンダール(野崎歓訳)『赤と黒』(上下、光文社古典新訳文庫)を読みました。

この光文社古典新訳文庫の訳は、読みやすさが評判になると同時に、誤訳が多いのではないかという指摘があがって、ちょっと話題になりました。

翻訳の問題に興味のある方は調べてみるとよいと思いますが、簡単に言って逐語訳と意訳のどちらがよいかということがあるんですよ。

原文に正確に翻訳して、日本語として難解なものにしてしまうか、それとも原文の忠実さは求めずに、日本語として読みやすい文章にするか。光文社古典新訳文庫は、どちらかといえば、意訳に近いものが多いような気がします。

多くの読者は、翻訳を通してしか他国の小説は読めないわけで、誠意ある翻訳が望ましいのは言うまでもありません。でもだからといって、翻訳にあれこれ文句をつけるのもどうかなあと思ったりもするんです。

なので、ぼくはあまりこだわらないで読んでいるというか、色んな訳で読んでます。

さてさて、スタンダールの『赤と黒』ですが、結論から言います。面白いです。すごく。かなりおすすめです。

世界文学というと、ドストエフスキーとかトーマス・マンとかテーマが重かったり、難解なものもあるんですが、『赤と黒』はエンタメとしても抜群に面白いんです。

主人公はジュリヤン・ソレルという若者。貧しい家庭に生まれたのですが、とても頭がいいんです。とにかく記憶力がいい。そこを認められて、町長さんのこどもの家庭教師になります。

フランス文学の特徴の一つとして、『三銃士』などでもそうですが、人妻と恋に落ちるというのがあるんです。

『赤と黒』では、ジュリヤン・ソレルは町長の奥さんである、レナール夫人と恋愛関係になります。

あまり説明して読む楽しみをなくしてもあれなので、レナール夫人のところは駆け足で通り過ぎますが、それからジュリヤン・ソレルは神学校に行って勉強します。

そして貴族の秘書になり、貴族の令嬢のマチルドと出会います。

まあそういう話です。話の楽しみ方としては、2層あって、まずは政治的なことが書かれていることがあげられます。ナポレオンを崇拝していたりします。

バックグラウンドでは政治のあれこれが描かれているわけです。そもそも、主人公のジュリヤンが成り上がろうとうする話でもあるわけですから。

でもそういった難しいテーマは読み流しても、もう一層の恋愛小説としてもかなり楽しめます。主にレナール夫人とマチルドとの恋愛ですが、ジュリヤンに比べて、相手の身分がとても高いんですね。

レナール夫人との恋愛のパートも勿論面白いんですが、特にマチルドのところが傑作です。マチルドは貴族の令嬢なので、プライドが高いんですね。

いや、ほんとにすごいんです。愛してると言った次の日に後悔して冷たくしたり。気まぐれなマチルドの心をつかむために、ジュリヤンは本当に苦労します。

ジュリヤンがマチルドの心をつかむために、どんな方法を使うのかは、ぜひ本編で確かめてみてください。

フランス文学全体の特徴とも言えると思うんですが、みんな自意識がすごく高いんですよ。相手に恋するのではなくて、恋するために恋するというか、どこか自然ではない感じがします。まるで恋愛というゲームをしているような。

すごく頭がよいけれど、身分の低いジュリヤン・ソレルが神学を通して成り上がろうとする話です。ジュリヤンの恋の行方はいかに? そしてジュリヤンはどこまで登りつめられるのか?

そういったことを考えながら、読んでみてください。かなり面白い小説なので、おすすめです。