今日もNHKホールのN響Aプロに来てしまいました。昨日のブロムシュテットの大名演は忘れられない公演になりそうですが、今月の3つの定演プログラムのうち、昨日と今日のAプロがもっとも聴きものと言えるでしょう。その理由や昨日の公演の様子の詳細は↓の昨日のブログで書きましたので、宜しければ、お読みください。

まずは、昨日の公演との違いを中心にダイジェストでコメントしたいと思います。カバー指揮者のマダラシュは2階1列目に座っていました。オネゲルの第1楽章では序奏部分で金管のアンサンブルの乱れがあり、Hrnのキズが少しあったのは残念でした。昨日のようなブロムシュテットが左脚を思いきり上がるシーンはありませんでした。第2楽章は美しすぎて、落涙ものでした。第3楽章のクライマックス部分ではブロムシュテットが左脚を少し上げて盛り上げていました。後半のブラームスの第1楽章は低音抑えめな点は昨日と同じでしたが、座席の影響か、昨日よりはオケの音が立体的に聴こえました。第2楽章のHrnパートは安定感があり、弦楽パートが美しく、第3楽章はブロムシュテットがノリノリで、この時も一度左脚を少し上げていました。この楽章ではコンマス・川崎さんとVc首席・辻本さんの化学反応が良かったです。最終楽章はコンマス・川崎さんが昨日より暴れていて、川崎さんの代名詞のような腰を上げて演奏するシーンが多かったです。ブラボーの数は昨日よりは少なく、会場の喝采の熱量が弱かったためか、ソロ・カーテンコールは1回だけでした。

昨日のブログでは細かいミクロな視点で書きましたが、今日は俯瞰したマクロ視点で本公演について考察したいと思います。今日のオネゲルとブラームスの21年8月のウィーン・フィルの映像を↓、今朝自宅で観ていると、今回のN響との演奏とは異なる点を感じました。

(2021年8月ザルツブルク音楽祭・ウィーンフィル公演)

昨日のブログではブロムシュテットのメッセージ性を感じたと書きましたが、この点について、筆者なりに整理して、考察したいと思います。オネゲルの第3番は戦争への怒りと平和への祈念が表現されていますが、この3年間で、ウクライナ戦争、中東での戦争が加わり、オネゲルの「怒り」の部分が増幅しているように思えます。昨日のブロムシュテットが左脚を上げてタクトを振りかざすシーンは、現在の戦争に対する強烈な怒りによるものだと解釈します。様々な都市のオケでプロムシュテットがこの曲は取り上げていますが、戦前生まれのマエストロが戦争の悲惨さと平和の重要性をエヴァンジェリストのように伝えかったのだと察します。ブロムシュテットの神レベルの美しいオネゲルでしたが(特に第2楽章)、マエストロの右手の長い指による指示は「神の手」によるものと言えるものでした。


ブラームスの4番は作曲家本人が「自作で1番好きな最高傑作」と述べていますが、作品としてのテーマ性は深いと考えられます。人生の苦悩・悲劇と幸福・開放感の両方が描かれており、こちらもコロナ禍や戦争との関連性があるので、マエストロの解釈が3年前より深いアプローチになっているのは、歴然とした違いとして認識することができました。このような意味では、ブロムシュテットがこの時期にこの交響曲を演奏することの意義が大きく、他のオケとは異次元の音が出ていることは確認できました。97歳のマエストロが「人生は苦楽あり」「人生はこんなもんだよ」みたいなことを、彼らしく軽やかなタッチでこの交響曲を通じて表現していたのだと個人的には考えております。本来なら、マエストロにはブルックナーを指揮して欲しかったのですが、それ以上の意義があっての選曲になっているのでしょう。


今月のブロムシュテットの演奏会は4回行くことにして、約4万円のチケットを事前に購入しましたが、来日できるかは直前まで、全く分からない状況でしたので、かなりのリスクでドキドキしていました。これについては、↓のブログで来日の可能性について事前に考察しました。

7月のバンベルク響やウィーン・フィルとの公演の映像ではマエストロの顔色は少し良くないので、ドクターストップにならないか心配でした。ヨーロッパからの日本への航路はウクライナ戦争後に長くなったので、ビジネスクラスでも疲れますし、日常とは違う空の上の空間では何が起こるか分かりません。ニュースにはなってませんが、先週金曜に某日系航空会社で東京到着前に(シートベルトサイン直前)に乗客が倒れて、着陸しようとしている機内で、客室乗務員が心臓マッサージとAEDで必死の蘇生を救急車が来るまで試みましたが、残念ながら他界されてしまったそうです。今、ウクライナ戦争の状況悪化で、日本からヨーロッパへの北回りルートの飛行時間がさらに長くなると聞いており、マエストロは命懸けで日本に3つのプログラムを届けに来てくれたと思うと頭が上がりません。「舞台で死ぬなら本望だ」という言葉がありますが、マエストロはこのような矜持で来日し、約3週間の日本滞在での公演は、命懸けで指揮をしているのだと思いながら、今日のオネガルを聴いていたら落涙してしまいました。来週末のCプロも楽しみです。今日の評価は昨日と同じ満点なので、両日合わせて1公演のカウントとします。本日は筆者の勝手な解釈論が多くなりまして、大変恐縮ではございますが、お読み頂きまして、ありがとうございます。  





評価)★★★★★ 今日もブロムシュテットによる圧倒的な名演でした!

*勝手ながら5段階評価でレビューしております

★★★★★: 一生の記憶に残るレベルの超名演 

★★★★:大満足、年間ベスト10ノミネート対象

★★★: 満足、行って良かった公演

★★: 不満足、行かなければ良かった公演 

★: 話にならない休憩中に帰りたくなる公演 

(★五つ星は年間10回以内に制限しております)


曲目
オネゲル/交響曲 第3番「典礼風」
ブラームス/交響曲 第4番 ホ短調 作品98

指揮 : ヘルベルト・ブロムシュテット
NHK交響楽団