今日はガランチャ目当てでMETオーケストラの来日公演に行きました。MET音楽監督のセガンのMETデビューは2009年の「カルメン」ですが、この時のカルメン役がガランチャ、ホセがアラーニャで、この時にNYで実演を鑑賞して、この2人については思い入れが深いです。ガランチャは2022年9月のウィーンでの「カルメン」、セガンは2018年6月のフィラデルフィア管(@エルプフィルハーモニー)以来になります。ガランチャは毎年のようにザルツブルク音楽祭に出演していますが、今年は出演していないので残念です。


前半の最初の曲は「オランダ人」序曲ですが、今日の後半が1幕ものオペラ「青ひげ」で、それに呼応して同じ1幕の「オランダ人」だと察しますが、結果的にはこの曲は必要だったのでしょうか。序曲が始まる前から、横の席の方が龍角散を3粒食べていて、昨日に引き続きunluckyです。龍角散はコンサートホールの中では臭い公害であることを認識した方が良いと思いますが、これだけでは伝わらないので、龍角散については別途、当ブログで闇の真相を取り上げます。軽快なテンポで始まったオランダ人ですが、序奏のホルンを始めとした金管セクションは調子が良かったですが、この序曲がシンフォニックに聴こえて、序曲としてオペラの情景が浮かびづらい演奏でした。要するに、昨日のマーラーと同じで「鳴らし過ぎ問題」(特にティンパニ)で、水夫のシーンや海のうなりのシーンなどが回想しにくいのです。前半2曲目の「パレアスとメリザンド」組曲は、「森」のシーンはドビュッシーらしい感性が繊細で描かれていて、情景が美しく表現されていて、聴き惚れるくらいでした。「庭園の泉」は引き続き、印象派のような曲想で、「城の地下」ではセガンが淡々と柔らかなタクトで仕上げていました。「城の一室」からはオーケストレーションが変わり、感情豊かな音楽になり、最後の「城の寝室」では天国のような情景をセガンが丁寧に描きながら、神秘的な音楽を経て、メリサンドが息を引き取るように終わりました。


後半の「青ひげ」はバルトークらしいクリアな音楽ではないので、基本的には美しい音楽ではありません。その為、このオペラを積極的に聴きたくはないですが、世界一のメゾ・ソプラノのガランチャが出演するので、食わず嫌いで今日は鑑賞することにしました。青ひげ役はヴァン・ホーンで彼は初めて聴きますが、青ひげのキャラクターとルックス的にはぴったり合っているような気がします。もちろん、ユディット役のガランチャは美貌と堂々たる存在感が役にはまっていて、今日のガランチャはスコアをあまり見ずに、演技を多く入れながら歌っていました。男性のPAの不気味な語りから始まり、演奏が始まると、上手からガランチャ、下手からホーンがステージに登場します。第1扉の「拷問室」になると、悍ましい音楽になり、ガランチャの歌唱は冒頭から狂気的で、精神的に正常ではないのに、「青ひげを愛してるから全て知りたい」と歌います。ホーンの歌唱は、青ひげらしい肝に据わったドスの効いた声で、説得力があります。第2扉の「武器庫」に入ると、ホーンが落ちつかない表情を出しながら、ガランチャはその風景を見て恐怖感に苛まれます。第3扉の「宝物庫」ではガランチャは至福感溢れる歌唱に一転しますが、財宝が血まみれであることを知ると、ガランチャの態度は急変します。第4扉の「秘密の庭園」になると、ガランチャとホーンが庭園を見回すように、ホールを一周して見渡して、(花が溢れる庭を見て)ガランチャが再度、幸せそうになり、ホーンは自慢げな顔になっていました。第5扉の「広大な領地」のシーンではホールのRCブロック前方にトロンボーン4人、LCブロック前方にトランペット4人がスタンバイして(全員、MET側のメンバーと思われます)、オルガンが加わり、このオペラの最高潮に達します。サントリーホールの1階に地響きの振動か起こりました。この時のガランチャの絶叫シーンは半端ない破壊力がありました。第6扉の「涙の湖」を見たガランチャは再び、懐疑的な感情になり、強烈なティンパニの音で不安さを煽ります。最後の扉を開くと「3人の女」がいて、それでもガランチャが愛の告白をする点が、このオペラが変態的だと再確認できます。ガランチャは女を見て、嫉妬心を露わにしますが、この時のMETの大演奏を乗り越える、超人的な歌唱が出てきました。ラストはホーンが満足げな顔で歌いながら、2人が無言のまま、演奏が終わりました。今日のMETオーケストラは鳴らしすぎ感がありましたが、このオペラの狂気的な部分をうまく描いていました。これほど、今日は完璧に近い青ひげのキャスティングは世界的にも稀で、かなりの名演だと思います。カーテンコールもスタンディング・オベーションで盛り上がりました。昨日と今日のMET来日公演を総括すると、METの豪華歌手に支えられての演奏会であり、オーケストラ単体ではそれほど実力のあるオケとは思えませんでした。今日の評点は青ひげは満点でしたが、前半が微妙な点がありましたので、4.5点と致します。次回のガランチャ公演は、来年、東京でリサイタルがあるようです。これも楽しみですね。


以前投稿した今年の5月から6月のスター歌手4人の来日公演は全て成功裡に終わりました↓。





(評価)★★★★⭐︎(4.5) 前半は微妙でしたが、青ひげは名演でした!

*勝手ながら5段階評価でレビューしております

★★★★★: 一生の記憶に残るレベルの超名演 

★★★★:大満足、年間ベスト10ノミネート対象

★★★: 満足、行って良かった公演

★★: 不満足、行かなければ良かった公演 

★: 話にならない休憩中に帰りたくなる公演 


出演
指揮:ヤニック・ネゼ゠セガン
メゾソプラノ:エリーナ・ガランチャ
バスバリトン:クリスチャン・ヴァン・ホーン
METオーケストラ
曲目
ワーグナー:オペラ『さまよえるオランダ人』序曲
ドビュッシー(ラインスドルフ編):オペラ『ペレアスとメリザンド』組曲
バルトーク:オペラ『青ひげ公の城』(演奏会形式)