今日は私が勝手に呼んでいるこの春の《海外スター歌手来日公演シリーズ》の第3弾で、18年ぶりの来日となるアラーニャです。アラーニャについては、過去のブログで、彼のキャラクターやブーイング問題について取り上げました↓。

今日はプッチーニ生誕200周年と言うことで、アラーニャにとって重要な作曲家なので、プッチーニの初期のオペラから時系列で全てのオペラ(間奏曲・アンコール含む)を取り上げているところが最大の特徴でかなり貴重な機会です。しかも、今回のプッチーニのアリアは難曲が多く、誤魔化ができないアリアばかりで、これらを全部制覇できるかポイントです。今日のサントリーホールは高校生の団体客が目立ちましたが、若い時に中途半端な歌手のコンサートに行くよりも、最初に世界的なスター歌手のコンサートに行く方が人生や価値観が変わる良い体験になると思います。また、1階席はほとんど埋まってますが、Pブロックが半分くらいしか埋まっていないのが、いつもと違う光景でした。東フィルのコンマスは三浦さんで、グレゴリアンの時のような3軍東フィルではなさそうです。


一昨日の6/7に誕生日を迎えて61歳になったばかりのアラーニャは白髪混じりで、白のタキシードと黒の蝶ネクタイで笑顔で登場しますが、ここで、会場からブラボーが入り、機嫌が良くなっていると思います。上述のブログで書いたようにアラーニャは感情的で人懐っこい性格で気分屋な人間です。前半1曲目の「妖精ヴィッリ」から高音域が安定しているものの、かつてのアラーニャらしい艶のある声は少し薄まっていました。しかし、冒頭の曲から顔を赤くしながら、必死に歌っているところが印象的です。平場のオペラ公演でアラーニャが時に手を抜くことはありましたが、今日は久しぶりの来日でプッチーニ記念のコンサートで、全てのアリアを丁寧に歌ってました。その証左として、例えば、彼が上手側を向いてましたが、常に指揮者のタクトを見ながら歌っていました。2曲目の「エドガール」は苦悩のアリアですが、アラーニャらしい個性のある声質で、絶叫のシーンはオケに負けない声量でした。3曲目から5曲目は「マノン・レスコー」ですが、特に《何と素晴らしい美人》は今日の白眉と言って良いほど、アラーニャの甘い声が際立っており、絶品のアリアでした。このアリアは家で再度聴いてみたくなります。前半のカーテンコールは、女性指揮者の三ツ橋をアラーニャがエスコートして、舞台袖に戻っていきました。アラーニャらしい人間性が出ています。ここまで間奏曲2曲含めて40分足らずですが、後半がかなりのボリュームになります。


後半1曲目の「ラ・ボエーム」はアラーニャの十八番で、彼のインタビューでは「ロドルフォと自分が重なる部分があり、アラーニャがパリに住んでいる時に最初の妻が30歳の時に亡くなり、当時はボヘミアン的な生活だった」と言うのです。今日のアリアでは多少の演技を入れながら、手慣れた感じで歌い上げていました。2曲目の「トスカ」は顔を真っ赤にして、気合いの入ったカヴァラドッシで、若い時のアラーニャを彷彿させる感じがしました。3曲目の「蝶々夫人」は伸びやかな声で、綺麗にうまくまとまっていました。今日のアラーニャは黒いハンカチをずっと持っていましたが、ここで「暑いよね!」と言ってました。4曲目の「西部の娘」はプッチーニらしい陰謀や死をテーマにしたアリアですが、ジョンソンの役にはまった形で気持ちの入った秀逸なアリアでした。最後の「トゥーランドット」の《誰も寝てはならぬ》は、アラーニャが来月の9,12,15日にミラノ・スカラ座で歌う予定となっています。準備万端のアラーニャは、高音域含めて安定の歌唱で危なげなく進めますが、最後の長い”Vincero”

だけは少し滑っていたのが残念です。これですと、ミラノ・スカラ座でブーイングが出る可能性がありますが、今日は全体的に素晴らしい歌唱で、会場はブラボー喝采とスタンディング・オベーションで、アラーニャの機嫌も良くなります。アンコールを始める前にアラーニャが「私はパリに住んでるから、「つばめ」のパリのアリアを歌うね」と言った後、オケがハッピー・バースデーの曲を演奏し、高校生2人が花束をアラーニャに渡し、サプライズのお誕生日祝いになりました。アラーニャは「自分の誕生日を日本で迎えるのは2回目なんだよ!」と言って喜んでました↓。

サプライズが終わった後は「つばめ」のアリア、「外套」のアリアと続いて、「トゥーランドット」の《泣くな、リュー》ではさすがに連続して歌い過ぎて、かなりきつそうでした。アンコールの最後はアラーニャが「プッチーニのオペラで今日歌っていないオペラは何でしょう?」と会場に問いかけて、「ジャンニ・スキッキは若い歌手が歌うものだけど、トライして歌ってみるよ!」と言って、見事なアリアを歌いきりました。これでアンコールが終わり、アラーニャが「来週からバルセロナのリセウ劇場でのオペラに出るので、今日の夜の飛行機に乗らないと行けないんだよ!」と言って、惜しまれながらステージから去っていきました。アラーニャの人生は波瀾万丈ですが、テノール歌手としては健在で、彼の出演するオペラをヨーロッパで観てみたいと思いました。また、今日の公演は収録してTVで観たかったですが、残念ながらTVカメラは入ってませんでした。会場で配布されたプログラム・ノートで、オペラ評論家の香原氏が執筆していて「リヌッチョとカラフを同時に歌い分け、それぞれの理想の味わいを提供する」とありますが、アンコールのリヌッチョのことを書いてはネタバレになってしまうのですが、この方のコメントは雑な表現が多いです。ステファン・ポップの告知チラシに「パヴァロッティの再来」と書いた方です。


(評価)★★★★ アラーニャの美声は健在でした

*勝手ながら5段階評価でレビューしております

★★★★★: 一生の記憶に残るレベルの超名演 

★★★★:大満足、年間ベスト10ノミネート対象

★★★: 満足、行って良かった公演

★★: 不満足、行かなければ良かった公演 

★: 話にならない休憩中に帰りたくなる公演 


出演
指揮:三ツ橋敬子
テノール:ロベルト・アラーニャ
東京フィルハーモニー交響楽団
曲目
プッチーニ:
  オペラ『妖精ヴィッリ』より「幸せにみちたあの日々」
  オペラ『エドガール』より「快楽の宴、ガラスのような眼をしたキメラ」
  オペラ『マノン・レスコー』より「栗色、金髪の美人の中で」
  オペラ『マノン・レスコー』より「何とすばらしい美人」
  オペラ『マノン・レスコー』より「ご覧下さい、狂った僕を」
 〜休憩〜
  オペラ『ラ・ボエーム』より「冷たい手を」
  オペラ『トスカ』より「星は光りぬ」
  オペラ『蝶々夫人』より「さらば、愛の家」
  オペラ『西部の娘』より「やがて来る自由の日」
  オペラ『トゥーランドット』より「誰も寝てはならぬ」
《アンコール》
プッチーニ:オペラ『つばめ』より「パリ!それは欲望の町」
プッチーニ:オペラ『外套』より「お前のいう通りだ」
プッチーニ:オペラ『トゥーランドット』より「泣くな、リュー」
プッチーニ:オペラ『ジャンニ・スキッキ』より「フィレンツェは花咲く木のように」