2月も今日で終わりですが、来月のサントリーホールは聴きたい公演が1つしかなくて、あとはあまり興味のない公演ばかりで、上野に通う回数が増えそうです。カーネギーホールのようにサントリーホールは公演内容を厳選した方が良いなと思う月があります。アマチュアの方が音楽の殿堂で演奏する機会は貴重ではありますが、あまりにも多いと、海外の良いオーケストラ公演が川崎や東京オペラシティに行ってしまうこともあるみたいです。10日間ほど鑑賞する公演がないので、今日は最近迷っているコンサートについて書きます。


先週あたりに、今年6月のロベルト・アラーニャのコンサートのチケットが発売されました。プッチーニ没後100年なので、全てプッチーニを歌う予定です。

アラーニャはかつてはポスト三大テノールの言われ、美声・美顔・演技力で魅了していましたが、今回の来日は18年ぶりだそうです。アラーニャはシチリア出身の両親のもとでフランスで生まれ、フランス語のオペラでは当代一の綺麗な発音で、カルメンのホセの台詞は当然ですが完璧です。アラーニャの絶頂期はアンジェラ・ゲオルギューと結婚して(1996年)、夫婦で一緒にオペラを歌っていた時期で、アンジェラと関係が悪くなってきてからは、声質が安定しない時がありました。その中で特に有名なのが2006年12月のスカラ座開幕公演「アイーダ」(シャイー指揮、ゼッフィレッリ演出)のブーイング事件です。筆者はこの公演のプレミエを観ているのでその時は素晴らしい歌唱でしたし、スカラ座のシェフを狙っていたシャイーの指揮も秀逸で、このプレミエは映像化されています↓。

しかし、このプレミエの次の公演で事件が起こります。

第1幕で《清きアイーダ》を歌っていた後、アラーニャが大ブーイング受けて、それに怒って、そのまま舞台から出てしまいます。音楽がそのまま続けますが、なんと代わりにカヴァー歌手が私服のままで登場し、上演を続いていました。

その時の衝撃的な貴重映像がこちらです↓

これを見ると、とんでもないハプニングです。筆者の経験では、バイロイトなどでの前衛な演出に対するブーイングはよく見ます。歌手や指揮者に対してのブーイングはあまり見ないですが、ミラノやバルセロナ、ナポリあたりでは、歌手や指揮者に対して容赦ないブーイングが天井桟敷あたりから出るのを何度か体験したことがあります。この事件以来、アラーニャはスカラ座にしばらく出演できなくなりました。その後、筆者が最後にアラーニャをオペラで観たのは、2010年1月のMETでの「カルメン」(ガランチャ出演)の時ですが、この時も、アラーニャに対して、軽いブーイングが飛びました。一瞬焦りましたが、ブーイングの後にアラーニャがアリアで滑ったラスト部分をもう一度1人で歌いあげるのです。かなり意地を張った感じですが、この方は少し感情の激しいところがあるのでしょう。↓の映像化されているものは筆者が聴いた公演ではないですが、このカルメンはかなりの名盤です(この公演は本来はアンジェラが出演予定でしたが、2007年からアラーニャとは別居状態でしたので、アンジェラの代わりにガランチャがカルメンを演じました)。

それ以来、アラーニャはかなり不安定な歌手だと思いましたし、ザルツブルクやウィーンなどで登場する回数も減り、22年9月にウィーンでアラーニャ出演の「ユダヤの女」に行く予定がありましたがこの公演がキャンセルになり、アラーニャのオペラを14年間聴いておりません。今回の来日公演にかなり興味があります。


彼はもう60歳になっているので、高音域は少ししんどいかもしれませんが、アラーニャを聴けるのは貴重な機会ではあります。彼の録音で気に入っているのは、↓のシチリア民謡をテーマにしたものです。彼の両親がシチリア生まれなので、この録音を出した時はご両親が喜んだそうで、このCDを聴くと、ゴッドファーザーのシチリア・ワールドに浸ることができます。

アラーニャは、若いころ、パリのナイトキャバレーで歌っていたので、この手の歌も上手いです。しかし、彼の感情の起伏が少し激しいのは、シチリアの影響でしょうか。