今日はN響定期Aプロのスクリャービンの交響曲第2番を目当てに行きました。この曲はあまり演奏されませんが、シンメトリー構造で、最終楽章の荘厳さにはいつも感動します。昨日も今日もロシア音楽ですが、NHKホールの周りでは「ワールド・ミュージック・フェスティバル」をやっており、筆者が歩いている時はコロンビア🇨🇴の音楽とダンスを強制視聴させられました↓。

今月のN響定期の3つのプログラムは日本人指揮者(原田・沖澤・優人)の3人によるもので、沖澤と優人は指揮姿から全く興味がなくパスしますが、今日の原田公演はスクリャービンの交響曲が選曲されているので、期待度が高まります。反田恭平によるスクリャービンのピアノ協奏曲もあるので、この2日間の定期演奏会は満席ですが、筆者は反田恭平目的ではありません(^^)。彼はピアニストと指揮者活動以外に、社長業とプロデュース業をやってますが、さすがにこれはやり過ぎだと思います。例えば、バーンスタインのように作曲家と指揮者の二刀流、バレンボイムのようにピアニストと指揮者の二刀流で世界的に評価されているケースはありますが、これらは巨匠による音楽的な活動で、若いアーティストがガチの社長業をやるのは厳しいと思います。社長となると、営業活動、株主総会、財務諸表分析、銀行との折衝業務などもあります。筆者の個人的な観察としては、反田はショパン・コンクール入賞後を頂点に、ピアニストとしての実力は衰えていて、例えば、昨年11月のNDRエルプフィルや12月の都響のコンサートではあまり感動しませんでした↓。どちらの公演も指揮者と合っていなくて、ギルバートは反田に激怒してたと聞いてます。


ギルバートはヨーロッパを拠点にしてますが、こういう風評がヨーロッパ中にも伝わっている可能性がありますので、気をつけた方が良いです。例えば、ポリーニのように、ショパン・コンクール優勝後に、勉強のために8年間活動休止するようなことも重要です。ポリーニはこの8年間で、ベートーヴェンやシューマン、ブラームスなどを勉強し、世界最高峰のピアニストになりました。カラヤン先生も戦後の活動停止期間にオペラを中心に研究する時間ができたと言ってました。おそらく、筆者が反田恭平のピアノを聴くのが今日が最後ですので、この点を強調しておきたいと思います。来シーズンの反田は読響との共演はありますが、他の在京オケや海外一流オケ来日公演での共演はないと聞いてます。


今日の曲目はオール・スクリャービンですが、最初の「夢想」は4分くらいの小品で、静かなロマンチックな曲想で、原田は丁寧に音を紡いでいましたが、緊張のためか、タクトが固すぎで、先日の山田和樹のような余裕のある柔らかでしなやかなタクトとは異なります。あっという間に終わる曲で、あまり印象に残らなかったです。スクリャービンのピアノ協奏曲は反田が初挑戦らしいのですが、本来は音の玉手箱のように美しい曲なのですが、イマイチでした。この曲は人によっては「ショパン風」と言われますが、今日のアプローチは反田のソロの影響か、原田の解釈の影響なのかは判定できませんが、かなりショパン風のアプローチです。第1楽章で、反田は前傾姿勢になってオケと合わないところが出てきて、原田が懸命に合わせていたところがありました。第2楽章の冒頭はスクリャービンが10代に作曲したとは思えないくらい美しいオケの演奏から始まり、ピアノのソロで第1変奏から第4変奏まで続きます。第4変奏のピアノのソフトなタッチとオケの伴奏は美しかったですが、第3楽章はかなりショパン風の演奏で、この曲が終わると、ブラボーもありましたが、ホールの下手側からブーイングが出てました。この曲の録音を10本くらい聴きましたが、今日の演奏は最もショパン風に聴こえました。例えば、ゲルギエフ指揮・トリフォノフによるスクリャービンは完全にロシア風のアプローチに仕上がっていて、個人的にはこちらの方が好みです↓。✳︎Apple Music Classicalでも聴けます。


アンコールは、そのままスクリャービンをやって欲しかったですが、近くのお客様も「なんで、グリークなの?」と言っていたのは納得がいきます。このアンコールのグリークの方が完成度は高かったと思います。


後半の交響曲第2番が始まるまで、今日の原田はコンマスの郷古さんと握手を交わしていません。1曲目の開始と終わりで握手しないのは緊張しているのかと思いましたが、ここまで来てコンマスと握手しないのは、関係性が良くないのではと穿ってしまいます。ラフマニノフとスクリャービンはモスクワ音楽院で同級生の関係でしたが、当時は作曲のラフマニノフ、ピアノのスクリャービンと言われていたのに、ピアノの卒業試験では首席がラフマニノフ、次席がスクリャービンになってしまいます。2人とも5歳くらいからピアノをはじめましたが、スクリャービンは10歳の時に自ら陸軍学校に入るものの、病弱などの理由で音楽学校に入ります。体が弱かったせいで、43歳の時に急死してしまいますが、彼が30歳手前に作曲したこの交響曲を聴くと、スクリャービンがもっと長く生きていれば、ラフマニノフのように多くの名曲を世に出していたのでは思われます。スクリャービンのピアノ協奏曲と交響曲の作曲時期はラフマニノフが交響曲第1番が大失敗して、スランプだった時と重なります。


第1楽章と第2楽章は連続していますが、冒頭はN響らしい太い骨格の演奏ですが、原田の指揮が力み過ぎていて、オケから開放感のある音が出てきませんでした。本来は壮大さのある曲なのですが、その見通しがあまり良く無かったです。リズミカルな第2楽章は原田らしいエネルギッシュな指揮で、アメリカのオケのように金管が目立っていました。中間の第3楽章はフルートのソロ・神田さんによる美しい旋律で始まり、自然の田園風景を描いているような曲想で、N響のソロパートが巧く決まって、ラストもフルートのソロで静かに終わります。第4楽章と第5楽章も連続していますが、嵐の風景のような第4楽章では原田がテンションを上げて、金管と打楽器を強調させますが、ややアンバランスな感じがします。最後のマエストーソ楽章は荘厳な曲想ですが、N響の自律的な演奏能力で整っていたような気がします。コーダ付近ではワーグナーを聴いているような感覚になりました。この曲らしい構成美はN響のおかげで、原田のタクトによるものかは疑問でした。終演後、やっと原田は郷古さんと握手をしたのでこちらも安心しましたが、この曲でもブラボーがありましたが、下手側からブーイングがありました。確かに、ムーティ指揮・フィラデルフィアによるスクリャービンの荘厳さに比べると、今日は物足りないです↓。✳︎Apple Music Classicalでも聴けます。

最近の国内コンサートで、当たり前のように見るソロ・カーテンコールは、今日はありませんでした。


先週からN響が例年の「最も心に残ったコンサート」の投票がスタートしてますが、6月の定期が全部終わってないのに、アンケート開始している点が面白いです。今日の公演が今シーズンのラストですので、筆者のベスト3とワースト1公演は昨年同様に来週あたりにブログします。


(評価)★★ 期待していたスクリャービンではありませんでした

*勝手ながら5段階評価でレビューしております

★★★★★: 一生の記憶に残るレベルの超名演 

★★★★:大満足、年間ベスト10ノミネート対象

★★★: 満足、行って良かった公演

★★: 不満足、行かなければ良かった公演 

★: 話にならない休憩中に帰りたくなる公演 


《出演》

指揮 : 原田慶太楼
ピアノ : 反田恭平

《曲目》


スクリャービン/夢想 作品24
スクリャービン/ピアノ協奏曲 嬰ヘ短調 作品20
スクリャービン/交響曲 第2番 ハ短調 作品29

《ソリスト・アンコール》

グリーク: 叙情小曲集 第8集 作品65-6 「トロルハウゲンの婚礼の日