今日はモンテカルロ・フィルを初めて聴きに、強風と豪雨の天気予報の中で、サントリーホールに行きました。このオケは、昨日のブログにも書いたように、実演で聴いたことがなく↓、録音をいくつか聴きましたがイマイチで、リスキーな公演だと思ってました。

さらに、過去の来日公演は2008年と2016年の西本智実指揮でしたので、これは興味が沸きませんでした。昨日の公演はベートーヴェンが入っていたので避けましたが、今日はオール・フランス音楽である上に、後半のサン=サーンス「オルガン付き」は筆者のお気に入りの交響曲のベスト5に入るので、かなり個人的に大事な交響曲なので、良くも悪くもきちんと記憶に残る曲です。前回は昨年3月のバッティストーニ指揮の東京フィルでした↓。

一方で、指揮の山田和樹は2021年12月のN響サントリーでの「英雄」で、見事にN響を制した指揮を鑑賞して以来になります。この時から2年半で、かなり成長した山田の指揮姿を観ることができました。公演前のプレトーク(18:45から)は山田だけがステージに出てきました。昨日は藤田真央と一緒に2人のトークだったようですが、今日は山田だけです。山田と藤田はベルリンに住んでいて、同じ音楽事務所なので、とても仲良しですが、山田のプレトークでは「藤田がラヴェルの協奏曲を弾くのが今日が初めてなので、緊張して出て来れなかった。ですが、アンコールは今日は2曲やりますから!」と笑いをとりながら、人懐っこい人柄が現れるトークをしていました。また、今回の来日公演は「RMF & 山田和樹 グローバルプロジェクト」の第1弾で、ローム・ミュージック・ファンデーション(RMF)のサポートにより、日本人ヴァイオリン奏者2名をモンテカルロに派遣して今回の来日ツアーで演奏していたり、日本人の副指揮者もモンテカルロに派遣するなど、音楽文化の底上げに貢献されていることも強調されていました。前置きがだいぶ長くなりがちなのが当ブログの特性なのですが、これから本編の話にします。


前半の1曲目のドビュッシーの「牧神の午後への前奏曲」は、プレトークで山田が言っていたような「官能性と色彩性」が満載でした。その立役者はフルートで、3人の女性フルート奏者が大活躍で、フルートのための協奏曲に感じるくらいでした。フルートとハープ2台が混ざるところはとても美しく、弦楽もフランスらしい音色で、これは日本のオケではなかなか聴けない演奏です。山田の指揮は堂々として手慣れた感じのタクトで、オケとの関係性の良さがこの時点で感じました。ラヴェルのピアノ協奏曲は藤田真央が今日が初披露で、筆者も藤田の公演をかなり聴いてますが、藤田のフランスものを聴くのが初めてです。ラヴェルのコンチェルトと言えば、アルゲリッチですが、今までアルゲリッチの実演を国内外で3回は聴いてますが、これらと比較すると別物です。第1楽章では山田はジャズ風の音楽をリズミカルに指揮し、素晴らしいオケの入り方でしたが、その後の藤田のソロが際立ってません。今日はとても緊張していたのでしょうか。ミスを警戒した演奏なのか、藤田らしい積極性がなく、オケの音に負けてしまっているシーンが何度もありました。第2楽章はピアノソロ中心ですが、藤田らしい柔らかい美音が出ていましたが、甘美性が欠けていたところがあります。この楽章でもフルートが良い仕事をしていました。急速な展開の第3楽章は、金管パートがきちんとした綺麗な音を出していましたが、藤田のソロが弱いです。「オルガン付き」第2楽章後半で出てくるピアノ存在感に似ている感じです。この協奏曲が始まる時のセッティングから、指揮台と1stVnの間に、ソリスト2名くらいが立てるくらいの空いたスペースがあるのでずっと不思議に思っていたのですが、この楽章で、山田が指揮台を降りて、1stVnに近づいて煽って指揮するシーンがあり、これを見て、山田の戦略的な意図が分かりました。演奏が終わると、藤田はあまり納得がいっていないような素振りで、山田と握手をしていました。ピアノのアンコールでは、山田がピアノの譜面台を持って藤田と一緒に現れて、2人による連弾が披露されて驚きました。

↓ジャパン・アーツのツイッター投稿にこの時の映像があります。

これは、日本最高のピアニストと指揮者による奇跡の連弾でした!アンコールのもう1曲は、藤田によるソロで、この時が真央節がきちんと出ていました。藤田のコンチェルトは正直、モーツァルトで良かったのではと思います。最近の藤田はブラームスやドヴォルザークなど公演の度にレパートリーを広げてますが、まだ時が早いと思われます。経験も大事でありますが、藤田の良さが最大限に曲に絞って欲しいところです。ここまでの山田の指揮ぶりや演奏を聴いていると、モナコの目と舌と耳の肥えた人々を満足させるようなエンターテイナーぶりを感じました。


後半のサン=サーンスの「オルガン付き」は来年6月の山田のベルリン・フィルのデビュー公演の曲で、彼がこの曲をかなり研究していると予想していました(ベルリンの関係者から山田という日本人指揮者がオルガン付きをやると、昨年末あたりに聞いていたので、今日の公演に行くことにしました)。また、海外のオケの来日公演で、「オルガン付き」を演奏する機会は珍しいと思います。山田はスコア無し指揮ですが、第1楽章の前半では、力の抜けた柔らかいタクトでスタートし、Tuttiになると弦楽セクションを煽りながら、フランス系のオケとは思えないくらいの爆音が出てきます。後半のオルガンが入ると、ホール全体が神聖な空間になり、最後は教会にいるような雰囲気で静かに終わりました。第2楽章での山田は軽快なステップをしながら、巧みな捌きでオケを引っ張りながら、オケは段々と熱くなってきます。後半の荘厳なオルガンが入り、弦楽のアンサンブルとピアノ演奏部分はこの曲の最も美しい部分ですが、ここが今日の白眉でありました。その後もオケがエネルギッシュになり、圧倒的なフィナーレでした。この曲はモンテカルロでは直近では演奏されていなく、今回の来日ツアーで今日が初めての演奏ですが、素晴らしい仕上がりで、バレンボイム指揮・シカゴ響の名盤レベルでした。今日の演奏は録音・収録されていませんが、いずれCD化して欲しいです。来年の6月のベルリン・フィルのオルガン付きも成功となるでしょう。オケのアンコールも2曲ありましたが、ビゼーのファランドールのラストでは、山田が客席の方を向いて、拍手を仕向けて、大団円となりました。今日はプレトークから山田の手慣れた指揮ぶりやエンターテイナーぶりが全開で出ていました。カーテンコール中に山田が弦楽奏者に握手する際に、楽団員がお辞儀して握手に応じる姿を見ると、オケのメンバーからの山田に対しての敬意を感じ取れます。モンテカルロには10年くらい行ってませんが、オーケストラの音やオーラなどからモンテカルロからのお土産を貰ったような気がしました。


次回の山田の公演はN響の11月の定期演奏会がありますし、来年の6月下旬には山田が首席指揮者のバーミンガム市響・来日公演によるマラ1などが予定されてますが、ソリストは藤田真央ではありません(真央不在でもチケットが完売するとの算段なのでしょう)。この時はベルリンフィル・デビューの約1週間後なので、マスコミからも注目されている時になります。次回の藤田真央が出演する海外オケの来日公演は来年9月のスカラ・フィル(ミュンフン指揮)で、こちらもどんな曲目になるのか楽しみです。


(評価)★★★★ 山田和樹の卓越したマエストロぶりを堪能できました

*勝手ながら5段階評価でレビューしております

★★★★★: 一生の記憶に残るレベルの超名演 

★★★★:大満足、年間ベスト10ノミネート対象

★★★: 満足、行って良かった公演

★★: 不満足、行かなければ良かった公演 

★: 話にならない休憩中に帰りたくなる公演 

出演
指揮:山田和樹
ピアノ:藤田真央
モンテカルロ・フィルハーモニー管弦楽団
曲目
ドビュッシー:牧神の午後への前奏曲
ラヴェル:ピアノ協奏曲 ト長調
サン=サーンス:交響曲第3番 ハ短調 Op. 78 R. 176 「オルガン付」
《アンコール》
矢代秋雄:夢の舟(ピアノ・アンコール)
矢代秋雄:24のプレリュードより 第9番(ピアノ・アンコール)
F.シュレーカー:舞踏劇『ロココ』より 第3番 マドリガル
ビゼー:『アルルの女』第2組曲 ファランドール