今日は私が勝手に呼んでいるこの春の《海外スター歌手来日公演シリーズ》の第2弾です↓。

今年の5月から6月の来日オケはモンテカルロ、ハンガリー・ブタベスト響、METオーケストラで世界のトップ20に入らないようなオケの来日しかありませんが、歌手で言うと上記のブログのように、世界最高峰のスター歌手が揃って来日して、どれも見逃せないもので、特にグレゴリアンのコンサートは必見だと思います。しかし、今日の客の入りがあまり良くない理由としては、今日のAプロとBプロの前半が同じ曲、会場が文化会館、平日夜の公演だからでしょうか。グレゴリアンは1981年のリトアニア生まれの歌手ですが、国際的に評価を得たのは、2017年のザルツブルクでの「ヴォツェック」でこの時は36歳で若干遅咲きですが、18年のザルツブルクでの「サロメ」で絶賛され、それ以降、「エレクトラ」(20年、21年)、プッチーニ「3部作」(22年)、「マクベス」(23年)とザルツブルク音楽祭の基幹オペラに毎年のように出演している売れっ子歌手です。21年はバイロイトでゼンダを歌っていて、バイロイトで終演後、8月下旬にザルツブルクのエレクトラに出演と言うと過密スケジュールだったそうです。筆者は17年のヴォツェックから全ての公演(20年のエレクトラは除く)を鑑賞しており、グレゴリアンの追っかけレベルになっています。日本では22年の東響との「サロメ」も素晴らしかったのは記憶に新しいです。その彼女が今回は初めて、ソロのコンサートをやると言うことで、期待が高まりますが、5/11までNYのMETで蝶々夫人を歌っていて、その後、東京へ移動ですから、早くて5/13東京到着で、リハの時間も限られて、ゆっくり身体を休める時間もない中で、グレゴリアンが今日のコンサートでどこまで実力を発揮してくれるのか見ものであります。東フィルのメンバーは知らない方ばかりで、コンマスは女性ですが、今日の楽団員は東フィルの正規団員なのでしょうか。今年は2回ほど東フィルを聴いてますが、見たことのないメンバーばかりで、このオケはどれだけの人数がいるのか不明です。チューニングの音は湿気の影響もありますが、少しぼやけた音です。指揮者のドゥルガリャンは脚が悪いようで、あまり卓越した指揮でないと思いました。3日前のドミンゴ公演ではマダムが会場の前方席を占めていましたが、今日はオッサン陣が前方席に多く座っていて、最前列のグレゴリアンの目の前には目障りなサスペンダー男もいました。グレゴリアンが可哀想です。


1曲目の「ルサルカ」の序曲の後に、黒いスタイリッシュなドレスを着たグレゴリアンが登場し、彼女の十八番の名曲「月に寄せて」を歌います。透明感のある美しい歌声で、いきなり魅了されますが、ホールの音響のせいか、やや声量不足を感じましたが、後半に向けてセーブしていたのだと思います。2曲目の「エフゲニー・オネーギン」より《手紙の場》のアリアの有名な旋律部分は、語りかけるような仕草で、綺麗に歌い始めます。これから”歌いますよ!”のような大袈裟な仕草がなく、セリフのような語り口から自然と歌い、徐々にボルテージを上げていく感じで、5階席まで見上げながら、見事に歌いきりました。3曲目は同じくチャイコフスキーの「スペードの女王」からのアリアですが、こちらも絶叫シーンが見事に決まっていました。前半最後のアルメニアの作曲家のティグラニアンによる歌劇「アヌッシュ」はグレゴリアンのご両親がアルメニアのテノール歌手、リトアニアのソプラノの歌手でしたので、そのルーツによる選曲で、初聴のオペラです。今日のアリアの中で最も悲壮感漂う短い曲ですが、声量のコントロールが秀逸でした。ここまででグレゴリアンは3カ国語を歌っていますが、後半はイタリア語、明後日のBプロ後半はドイツ語と5カ国語のオペラを歌いこなす言語能力は素晴らしいです。しかも、彼女のザルツブルクの楽屋を訪問した際に、英語で話しましたが、英語も上手でした。母国のリトアニア語含めて何カ国語話せるのでしょうか。今度、ザルツブルクで話してみたいと思います。↓の映像はMETの「蝶々夫人」でのインタビューです。


後半の1曲目は「トゥーランドット」ですが、主役のアリアではなくて、リューの《氷のような姫君の心にも》で、グレゴリアンは今やトップスター歌手なので、トゥーランドット役を歌ってますが、今日は、リューのアリアを聴けるのは貴重です。グレゴリアンは伸び伸びと、このアリアを歌いますが、オケの音が派手に大きすぎて、彼女の歌唱に集中できなかったです。この指揮者はあまり場数を踏んでない指揮者だと思われ、盛り上げ方や歌手の引き立て方などが弱かったのが残念です。指揮者とオケの選定間違いであると思います。2曲目の「マノン・レスコー」からグレゴリアンの本領が現れはじめました。このアリアの絶叫シーンでは、音量が大きいオケの音をかち割るような声量で会場を圧倒します。この曲のビオラ・ソロの滑りが目立っていたのが残念です。今日の白眉は「蝶々夫人」の《ある晴れた日に》でした。今日のグレゴリアンは演技をあまりせず、コンサート歌手として歌っていましたが、このアリアでは先週までMETで蝶々夫人を演じ歌っていた影響か、少し演技を入れながら、迫力のあるアリアで、今日1番のブラバー!が出ていた気がします。先日のMETでのインタビューでは「蝶々夫人の役作りはどのようにしていますか?」の問いに対して、グレゴリアンは「大した役づくりはせず、私の中にあるキャラクターを出しているのです」と答えていました。まさに役者歌手ですね。今日の歌唱は↓の映像とほぼ同じです。(このオーパス・クラシックの受賞ガラの03:05あたりからアリアが始まります)

最後の「ジャンニ・スキッキ」の《私のお父さま》はアンコールのように軽い感じで歌ってました。アンコールは「トスカ」でしたが、こちらも秀逸な歌唱でffからppまでの声量のコントロールが巧く、ppでの声のコントロールはかなりのハイレベルなテクニックを感じました。今日は長旅の疲れと連日の公演の疲れが少し出てはいましたが、やはり、グレゴリアンは期待を裏切らない、難曲を難なく歌いこなす、失敗しない完璧なソプラノ歌手でした。日本でのオペラ出演を切に願います。新国立劇場はこう言う歌手を呼ばねばならないと思います。明後日(5/17)のBプロをこのブログ読者の皆様にはおすすめしたいです。明後日は疲れが回復していると思います。


(評価)★★★★ グレゴリアンの秀逸な歌唱を堪能できました

*勝手ながら5段階評価でレビューしております

★★★★★: 一生の記憶に残るレベルの超名演 

★★★★:大満足、年間ベスト10ノミネート対象

★★★: 満足、行って良かった公演

★★: 不満足、行かなければ良かった公演 

★: 話にならない休憩中に帰りたくなる公演 


【第一部】

アントニン・ドヴォルザーク作曲

―歌劇「ルサルカ」

序曲

“月に寄せる歌”

 

ピョートル・イリイチ・チャイコフスキー作曲

―弦楽のためのエレジー「イワン・サマーリンの思い出」

―歌劇「エフゲニー・オネーギン」

タチアーナの手紙の場 “私は死んでも良いのです”

ポロネーズ

―歌劇「スペードの女王」

“もうかれこれ真夜中...ああ、悲しみで疲れ切ってしまった”

 

アルメン・ティグラニアン作曲

―歌劇「アヌッシュ」

“かつて柳の木があった”

 

【第二部】

ジャコモ・プッチーニ作曲

―歌劇「トゥーランドット」

“氷のような姫君の心も”

―歌劇「マノン・レスコー」

“捨てられて、ひとり寂しく”

間奏曲

―歌劇「蝶々夫人」

“ある晴れた日に”

―「菊」

―歌劇「ジャンニ・スキッキ」

“わたしのお父さま”


《アンコール》

プッチー二「トスカ」〜《歌に生き、恋に生き》


《出演》

アミスク・グレゴリアン(ソプラノ)

指揮: カレン・ドゥルガリャン

東京フィルハーモニー交響楽団