(演出のロバート・ウィルソンへの大ブーイングが出たMETの「ローエングリン」の舞台・1998年)


今週から来週前半まで沖縄におりまして、コンサートなどが無いので、公演感想と関係ないブログを連投にて失礼します。先週のブログで、今年6月に来日するアラーニャのブーイング事件を取り上げましたが↓、そこそこ反響ありましたので、今日は筆者のオペラでのブーイング体験を総括して書いてみます。

筆者がオペラにはまったのは、家庭用のVHSプレイヤー・レコーダーが普及した1980年あたりからで、その頃は、日本ではスカラ座やバイエルンなどの来日公演を楽しんでいたので、ブーイングとは無縁でした。ブーイングが出るのはコンサートではあまり出ませんし、1番ブーイングが出るのはオペラのプレミエ(初日)公演で、初披露のプロダクションに対しての評価として、演出チーム含めて、ブーイングの対象になりやすいです。勿論、通常のオペラ公演でも、歌手や指揮者に対してのブーイングはありますが、個人的な経験で言うと、ヨーロッパの南側の国(イタリア、スペインなど)でブーイングが起きやすいです。日本ではブラボー文化は定着してますが、ブーイングはマナー的な問題もある影響で、最近では少ないですが、一時期はブーイングが多かった頃もあり、その点も含めて、時系列に体験談を書いていきます。


先程、ブーイングが多いのはプレミエ公演と書きましたが、海外でのプレミエ公演に行くのは渡航タイミング問題とチケット入手困難問題があり、なかなかプレミエを体験できる機会は少ないと思います。

オペラの制作チームや指揮者、歌手、オケ・合唱団らからすると、オペラの初日は本当に大事な公演です。数週間前からの稽古(企画段階では数年前から)の集大成を初披露する場なので、出演者にとってはプレミエが終わるとホッとするらしいです。また、ヨーロッパではプレミエのチケット金額は通常公演よりは高く、かつては観客はタキシードなどの正装で鑑賞していましたが、近年はウィーンのプレミエでは正装感は薄れてきています。


最初に大ブーイングを体験したのは、冒頭の写真にある1998年のロバート・ウィルソン演出の「ローエングリン」(NYのMETオペラ)で、抽象的な造形物(白色の棒状の造作など)で構成されていて、カーテンコールで演出家のウィルソンが出てくると、人生最大級のブーイングになり、筆者も初めて参加しました(それ以来、ブーイング参加したことはありません)。この時の指揮はレヴァイン、歌手はヘップラーらが出ていて、彼らにはブラボーでした。この時代のMETは、イタリアものはゼッフィレッリ演出、ドイツものはシェンク演出が人気を得ていたので、ウィルソンの前衛的な演出は全く評価されなかったのでしょう。最近のNYタイムスでもこの事件は取り上げられてますが↓、この時の映像は見当たらないです。


この公演を観た後、ウィルソン演出のオペラは避けようと思いましたが、2005年の愛知万博でウィルソンは夜のステージ演出をしました↓。これを観たことありますが、前述のローエングリンと比べて、作風が全く異なり、親しみやすかったです。


日本で初めてブーイングを体験したのは、前述のMETの翌年の1999年1月のグスタフ・クーン演出「カルメン」(新国立劇場)でした。この演出も白を基調とした舞台が意味不明で、日本で初めて本格的なブーイングを体験しました。このプロダクションは再演されず、新国立劇場は3年後にカルメンを新制作しました。



1997年に新国立劇場がオープンしてから、プレミエでのブーイングが定着してきた時がありました。

先程のカルメンの3ヶ月後の1999年4月、勅使河原三郎演出「トゥーランドット」(オーチャードホール)です。この演出もやはり評価できるものではなく、歌手や指揮者にはブラボーがありましたが、勅使河原さんが登場するとブーイングの嵐が始まりました。その時の勅使河原さんは、観客に対して子供のように舌を出して対抗していました。このオペラ映像は残っていますが、ブーイング部分はありません↓。オペラ演出に慣れていない方が演出する難しさを感じましたが、例えば、演劇や他の舞台芸術の初日にブーイングが出るのでしょうか。


ここまで、初日の演出家に対してのブーイングでしたが、通常公演で指揮者に対して、5分間のブーイングで幕が上がらない体験もしました。2000年2月のジャック・デコラート指揮「ドン・カルロ」(バルセロナのリセウ大劇場)で、第3幕で指揮者が登場すると、拍手の中、ブーイングの嵐で5分間以上、演奏が始まりませんでした。このオペラはスペインを舞台にしたオペラなので、地元のスペイン人観客がフランス人指揮者のデコラートを厳しく評価したためでしょう。筆者としては特段悪い演奏とは思えず、ここまでブーイングする必要があるのかと感じました(新国立劇場の東フィルの方がはるかに酷いです)。デコラートは新国立劇場ではカルメンを2度指揮していますが、あまりインパクトがない音楽でしたが、この点をスペイン人がブーイング攻撃したのだと思われます。


歌手に対しても、体調などが悪いとブーイングが飛ぶ時はよくありますが、プレミエの演出ほどではないです。歌手に対しての酷いブーイングは1999年3月の藤原歌劇団の「ラ・ボエーム」(新国立劇場)でのマゼッタ役の五十嵐麻利江さんに対してです。この公演のキャストは、フレーニ、アローニカ、ギャウロフと豪華ですが、ムゼッタ役の五十嵐麻利江さんの父親が五十嵐監督なので、その影響力によるキャスティングに対するブーイングが起こりました。

ブーイングする1階席の観客に五十嵐監督本人が注意するシーンも見ました。これ以来、五十嵐麻利江さんが出演するオペラを観たことがありません。

歌手は体調管理は本当に大変で、体調次第で、声が滑ることはよくあります。2022年11月の「トスカ」(ベルリン州立歌劇場)ではマルセロ・アルバレスが当日体調が悪いことがアナウンスされ、それでも歌ってくれるのはファンからするとありがたいのですが、やはり歌唱の調子が悪く、アルバレスのカーテンコールでは観客の1人からブーイングが出ました。アルバレスはその観客に対して「正しいよ!」とジェスチャーで送っていたのは印象的でした。

(2022年11月の「トスカ」ベルリン州立歌劇場)


これまで筆者のブーイング体験談を振り返りましたが、ブーイングとブラボーが交錯する熱狂的なカーテンコールを体験するには、やはり、ミラノ・スカラ座のシーズン開幕公演でしょう。この日は必ずイタリア大統領ほかVIP招待者らが鑑賞しますが、天井桟敷を中心としたブーイングとブラボーが容赦なく出てきます。筆者が体験したのは、2009年のエンマ・ダンテ演出「カルメン」(スカラ座)です。歌手のカウフマンや指揮のバレンボイムにはブラボーでしたが、ダンテら演出チームが登場するとブーイングとブラボーが爆発します。ダンテを庇うバレンボイムの人間性が素晴らしいですが、スカラ座のブーイングは本物感があります。この時の映像がこちらです↓。


これほどのブーイングはコロナの影響やマナー問題で、今では日本では見られませんが(筆者が新国立劇場のプレミエを観てないからかもしれませんが)、直近の23年12月のスカラ座開幕公演「ドン・カルロ」(シャイー指揮、パスカル演出)では、豪華な歌手陣(ネトレプコ、ガランチャ、メーリ、サルシ)にはブラボーが飛ぶものの、演出チームにはブーイングが飛び出します。この映像はまだNHKで放映されてませんが、このビデオを観る限り、そんな悪い演出とは思えません↓。

しかし、↓のカーテンコールの映像では、演出チームにはブーイングが出てきます。もはや、ブーイングを楽しんでる客もいるのではと感じてしまいます。

これを観ていると、本場のオペラのプレミエを観にスカラ座に行きたくなりました。本日は長文にて失礼しました。最後までお読みになられた方に感謝申し上げます。