先程、来シーズンの新国立劇場オペラのラインナップが発表されました。新制作は3作品(1作品プラス)で、再演含めて合計9作品と今シーズンと同じ本数です。今、詳細を読んでるところですが、パッと見ると行きたい公演があまりありません。今回のラインナップでまず気づいたのは、ヴェルディのオペラがない点です。これは新国立劇場が開館してから、はじめてのことですし、かなり異例です。ワーグナーが経費節減の理由で無しであれば、新国立劇場オペラはかなりのオワコンです。

https://www.nntt.jac.go.jp/release/press/lineup-opera-2024-2025.pdf

大野監督は新制作の「ウィリアム・テル」と「ナターシャ」(細川作曲)の指揮でかなり意欲的です。「ウィリアム・テル」はかなり長時間なので、ヨーロッパでもあまり公演されることはなく、筆者は1999年のウィーン国立歌劇場(トーマス・ハンプソン主演)以来、観たことがないですが、飽きるシーンが多いので、このキャスト陣で大丈夫でしょうか。長時間オペラでもワーグナー・レベルの凄みのある音楽の連続であれば良いのですが、このオペラはそうではありません。アルノール役のルネ・バルベラは来月の小澤征爾オペラの「コジ」を急に健康上の理由で降板しましたが、この人が4時間を歌いきれるか疑問です。演出面ではオリエ演出の「カルメン」が、コロナ禍の制限下でも、前回の舞台が良かったですし、演出の一部が改善されるようですので、かなり興味がありますが、ゴリンスキー以外は知らない歌手でやや小粒感があります。全体としてスター歌手があまりいないのですが、「さまよえるオランダ人」のストリッド、ストートン、ニキティンが歌手面では注目公演かもしれないです。今シーズンで唯一行きたいと思っていたのが、歌手陣のレベルの高い「トリスタンとイゾルデ」ですが、トリスタンもイゾルデも当初予定から変更で、先週発表されたトリステン・ケールが降板したのはかなり痛いです。例えば、4年前のMETオペラの「蝶々夫人」のシャープレス役がドミンゴだったのを見たことがありますが、新国立劇場のキャスティングにはこれくらいのパンチが欲しいですね。今シーズンでは「こうもり」、「トリスタンとイゾルデ」、「コジ・ファン・トゥッテ」でキャストが既に変更になっていますが、病気などの理由は仕方ないにしても、キャスト変更が少し多いので、来シーズンもこの点は不安があります。こう言う不安を払拭するには、演出と指揮者を充実する手しかないですが、指揮者では「夢遊病の女」を担当するベニーニが安定感があります。日本人指揮者は大野監督以外では、沼尻さんが今シーズン開幕公演に続けて「フィレンツェの悲劇/ジャンニ・スキッキ」(18/19シーズン新制作)を指揮しますが、大野監督(2025/2026シーズンまで)の後任は日本人であれば、文科省の天下りのロジックからすると、新国立劇場の登場回数の多い沼尻さんの可能性が高いでしょう。来シーズンの新国立劇場も歌手、演出、指揮者が三拍子で揃っている公演があまり見当たらないです。歌手や指揮者に関しては「東京・春祭」の方がキャスティング能力ありますが、上野が会場なのが困る点です。今年4月にルネ・パーペらスター歌手が来日しますが、新国立劇場と春祭で連携して良い歌手での公演をお願いしたいです。三拍子揃ったオペラ公演は、例えば、昨年8月のザルツブルク音楽祭の「マクベス」ですが、カーテンコールの盛り上がりが半端ないです。これが本物のオペラでしょう(グレゴリアン出演、P.ジョルダン指揮、ワリコフスキ演出、ウィーン・フィル)。

日本の製造業や農林水産業は世界最高峰ですが、日本発の舞台芸術はなかなか世界基準には達していないですし、新国立劇場オペラは年々劣化しているのがとても残念です。余談ですが、ドラマ「半澤直樹」や「VIVANT」などの監督をした福澤克雄さんは、作家の山崎豊子さんから「日本のモノづくりは素晴らしいのに、コンテンツ力は二流。日本のドラマは恋愛、医療、警察、弁護士ものばかりでつまらない。あなたが日本が誇れるようなドラマを作りなさい」と叱咤激励を受けて、銀行をテーマにした「半澤直樹」が生まれました。これは新国立劇場オペラ関係者に矜持を持ってもらいたいと言うメッセージなのですが、筋やセンスの悪い制作部や営業部の体質はなかなか解消しないでしょう。パワハラしていた部長がやってるくらいですから(^^)。話が脱線しましたが、「魔笛」と「セビリアの理髪師」は初めてオペラ鑑賞される方には良い公演かもしれません。昨年のシーズン発表時には当ブログでは新国立劇場オペラの「終わりの始まり」の書きましたが↓、今日の発表を見ると、終わりに向けての「黄昏」の第1幕のような気がします。


最近、どなたかのブログで新国立劇場のクロークなどの会場内サービスの手際が悪いと書いていらした方がいましたが、私も同感します。サントリーホールと新国立劇場は同じサントリー系の会社が担当しており、一軍がサントリーホール、新国立劇場には二軍が派遣されているか、新国立劇場の運営部の日々の指導が良くないのかのどちらかでしょう。


今シーズンからチケット料金が上がったので、公演のクオリティを上げていかないとならないのですが、円安・コスト上昇(製作費・人件費・渡航滞在費など)で制作費が増える一方なので、クオリティは今シーズンと比べて上がっておらず、チケット収入が減り、採算面ではかなり厳しいシーズンになると思います。完売になりそうなオススメ公演が見当たらないです。新国立劇場の30周年前後に全館改修があると思いますが、その際、いっそのこと新国立劇場の財団は解体して、貸館施設にした方が良いと思います。その分、NBSや二期会などの民間に助成すれば、世界的なオペラハウスや歌手を招聘できます。2025年にウィーン国立歌劇場来日公演の噂があるので、こちらに期待したいです。