新国立劇場オペラの2023/2024シーズンのラインナップが発表されました。

https://www.nntt.jac.go.jp/release/press/lineup-opera-2023-2024.pdf

大野監督就任以降、「紫苑物語」や「アルマゲドンの夢」のような日本人作曲家による新制作オペラが話題を呼んでいましたが、来シーズンはいわゆる名作オペラばかりのラインナップです。紫苑物語やアルマゲドンの夢は新国立劇場の個性を打ち出すような素晴らしいプロダクションでありましたが、来シーズンに日本人作曲家ものが無いのは、とても残念です。大野監督はオケの仕事などで忙し過ぎて、新作オペラの制作への創作時間や意欲が無くなってしまったのでしょうか。大野監督の都響のラインナップの方が企画面では秀逸ですね。


肝心の名作オペラのラインナップを見ると、2019年から年々、魅力的が落ちてきている新国立劇場オペラですが、来シーズンは、新国立劇場オープン以来、過去最低の魅力度と言えるでしょう。例えば、2019年のオリエ演出の「トゥーランドット」や2021年の同じくオリエ演出の「カルメン」は、世界基準と言えるプロダクションで、時代設定の読み替えがあっても説得力のある素晴らしい演出でありましたが、昨シーズンに続き、来シーズンも期待度の高い新制作プロダクションは無さそうです。新制作が年間で2作品、レパートリー入れて9作品しかないのも、過去最低記録でしょう。ハンブルク州立歌劇場の新制作は9作品ありますから、新制作が2作品しかないのは、かなり重症と言えます。しかも、全ての公演で、指揮者や歌手のレベルが小粒感満載で、パンチの弱いキャスティングです。例えば、21年のトスカには、世界最高峰のテノール歌手であるフランチェスコ・メーリが出演していて、この公演は入国制限のあるコロナ禍で本当に素晴らしい名演でしたが、来シーズンのトスカの歌手陣はイマイチ。歌手陣で期待できるのは「トリスタンとイゾルデ」ですが、小生はワーグナーはヨーロッパで鑑賞することに決めたので、パスします。ましてや、「こうもり」のようなウィーンものは、日本人の合唱団や東京フィルでは、聴いてられないレベルなのは、過去の経験則が証明しています。「エウゲニ・オネーギン」はマリインスキーとドレスデンでしか聴いたことがないですが、日本人歌手と合唱団のロシア語発音は難しいでしょう。と言うことで、本当に行きたいレベルの演目がほとんどない新国立劇場オペラは、この劇場オープン以来だと思われます。かつてのフランコ・ゼッフィレッリやミヒャエル・ハンペのような世界的な演出家によるものも無く、マリア・グレギーナやフランチェスコ・メーリのようなスター歌手があまりいないシーズンは初めてと言えると思います。これでは、世界の三流から四流劇場レベルであり、ヨーロッパの数十万人くらいの街のオペラレベルに近いです。一方で、二期会は国内のオペラカンパニーとして、演出にこだわって、戦略上の差別化しているので、努力点として評価できると思います。


新国立劇場の予算の半分以上は国の税金なので、お金の使い方などの点で、国民としてもっと注視すべきなんだと考えます。予算が民間団体より恵まれている分、演出や歌手にこだわって、顧客満足の高いレベルものを制作してもらわないと困ります。今日のラインナップ記者発表会で、記者から「公共劇場としての役割など」についての質問がありましたが、もっとこの点は追求されるでしょう。今年2月の小粒な歌手ばかりの「タンホイザー」や「ファルスタッフ」を連日連夜公演していても、客が入らないので、赤字の垂れ流しが続くだけです。これは制作部のマーケティング・センスがないからでしょう。この劇場の制作部は残業問題で労基署が入ったことがありますが、人材リソースをきちんとマネジメントすべきでしょう。顧客満足の点で言うと、近年の新国立劇場の営業部と支援業務室の職員の態度もアウトに近いでしょう。これらのセクションは顧客からお金をもらっている営業部署なのに、客商売に向かないような偉そうな営業スタイルで、不親切で親方日の丸感が感じられます。例えば、企業スポンサーは年間3000万円らしいですが、スポンサー企業の最寄りの駅には必ず新国立劇場の広告を年間通じて出していて、これはさすがに、お金の無駄遣いだと思います。他にも、年間のセット券・バリエーション券・会員先行販売をいまだに郵送で案内し、郵送で申込・抽選という人件費と印刷費の無駄がかかることをやってます。こういう無駄を削減すれば、年間で数公演は世界のスター歌手を招聘できるでしょう。今日の記者会見で「財政難を理由に、チケット代の値上げおよび一部の演目が延期された」との説明がありましたが、この財団のお金の使い方をきちんとモニタリングした方が良いでしょう。例えば、新国立劇場の収支予算書では無駄な郵送費・印刷費などが含まれる「一般管理費9.5億円」、職員数が百数十人しかいないのに「福利厚生1.8億円」(日本の福利厚生平均額は1人あたり約11万円)など、高額の支出のイメージがあり、内容・用途を吟味した方が良いでしょう。今回、高騰したチケット代で、この低レベルのプロダクションだと、ヨーロッパに行った方が満足感のある充実したオペラ鑑賞ができると思います。むしろ、今回のチケット代の値上げで、来シーズンは有料入場率は間違いなく下がり、劇場の財政がより悪化することが確実視されます。


話が少し変わりますが、新国立劇場の休憩の終わりを告げる時に(1ベル)、会場内の照明を点滅させますが、これは台北とバンコクなどの文化後進国のコンサートホールでしか見たことないんですよ。台湾人に「なんで照明を点滅させるんだ?」と聞いたたら、「会場の声がうるさいから、点滅させないと分からないでしょ」と台湾人に当然のように言われました。これは本当に毎回、見てて恥ずかしいですが、新国立劇場の運営は他にも日本独特の変わったものが散見されて、休憩時間には神社のお祭りのようなお土産屋台や余興コーナーが出てきます。幕が上がって演奏が始まっているのに1階や2階席後方に遅参者を座らせるので、足音などの音が響き、舞台に集中出来ません。世界基準からすると、このような滑稽なことが多いですが、これは新国立劇場の劇場支配人が世界基準のオペラに接したことが少ないからだと断言できます(多分、名古屋の音大からそのまま新国で働いているからでしょう)。今までのような新国立劇場の体質が変わらない限り、世界の四流劇場のままでしょう。ちなみに、四流と言うのはオペラ部門のことで、バレエ部門は吉田都監督になって、かなり優れていると思います。バレエ部門の来シーズンは新制作無しなのは、さすがに可哀想です。吉田都監督就任以降、バレエ部門が絶好調で頑張っていると思うのですが。今回のオペラ部門のラインナップを見て、来シーズンもヨーロッパに行く機会が増えそうです。今のような新国立劇場がこのまま続くようなら、近いうちに新国立劇場の財団自体を解散し(ハコとしての新国立劇場は残すと言う意味です)、文化庁は民間団体に補助金を出して、世界基準の公演を興行・招聘して欲しいです。この財団の理事長は文科省からの天下りですが、2017年の文科省の天下り問題で、文書厳重注意相当をくらっているのに、いまだに理事長をされてるのが不思議です。経営とマーケティングセンスのあるトップに立たないと、この財団の未来はないでしょう。来シーズンは新国立劇場の終わりの始まりを感じる公演ラインナップでした。