昨年の2/14のバレンタイン・デーも紀尾井ホールでフルートの工藤重典さんプロデュース・コンサートに行きましたが、明るくなる素敵な演奏会だったので、今年も来てしまいました。

マイクを持って工藤さんが登場すると、いつものように落語家のような笑い話をするのかと思っていました。工藤さんは長年、小澤征爾指揮のサイトウ・キネン・オーケストラの首席フルートでしたので、小澤さんの追悼曲として「G線上のアリア」を演奏するので、終わっても拍手をしないでくださいとのことでした。工藤さんはフルートを持ちながら、指揮をし始めて、一部の主旋律のみフルートの演奏をし、工藤さんの小澤さんへの思いを込めたG線上のアリアは「天国への入口」を描いているような美しさでした。2/6に小澤征爾さんが他界されてから初めての追悼曲を聴けただけでも、今日は本当に良かったです。


前半・1曲目のパッヘルベルのカノンでは、工藤さんは指揮のみで、柔らかい指揮で指使いなどが少し小澤征爾さんの指揮姿と似ていました。工藤さんの指揮は昨年より、指揮技術が上がっているように思えました。力が抜けていて、自然な指揮姿でした。2曲目のC.P.E.バッハのピッコロ協奏曲は、本来、フルートのために作曲されましたが、今日はピッコロの第一人者であるボーマディエさんによる演奏でした。ボーマディエさんは難しい曲をスマートに完璧に吹いていますが、この曲の主旋律がなかなか捉えづらい部分が多かったです。ピッコロはオーケストラで最も小さい楽器ですが、オケの音をかち割る鋭い音が出るところがとても好きです。3曲目のブランデンブルク協奏曲第5番は、やや遅いテンポで始まり、ソロVnの森下さんは主張の強い鋭い音を出しているのに対し、フルートの工藤さんは柔らかい音で演奏していたのが対象的でした。第1楽章のチェンバロの長いカデンツァは、シーゲルさんによるソロですが、5分間くらいシンプルな音型で安定感のある演奏でした。プログラム・ノートを執筆した秋山氏によると「バッハにとって、フルート・ヴァイオリン・チェンバロの組み合わせは、弦楽四重奏やピアノが出現する以前の室内楽の理想の形態」だったそうです。この曲はもう少し軽快な方が良かったと思いました。


後半はモーツァルト特集になりますが、1曲目の「アンダンテ」では、工藤さんはフルートに集中していて、カデンツァも巧かったです。2曲目の「ロンド」は華やかな宮廷に入ったような心地よい旋律で、フルートソロに超絶技巧がありました。この時点で既に20:45になっていて、ここから最後のフルート協奏曲の大名曲です。69歳の工藤さんには、ここからは大変だと思いますが、フルートを指揮棒のように使って指揮をし、全身を動かしながら、一生懸命にフルートを演奏していました。工藤さんの吹き振りはここでも昨年より進化していると感じました。第1楽章のカデンツァは今日一番で難しいところですが、何とかクリアして、第3楽章のラストはユーモアたっぷりの演奏でした。工藤さんは相当きつかったと思いますが、アンコール2曲を披露して終わりました。次回の工藤さんプロデュースのコンサートは、紀尾井ホールではなく、2025年の2/17にサントリーホールで開催するそうです。人気があるので、サントリーホールに変更するのでしょうか。


(評価)★★★ フルートとピッコロによる明るい世界のコンサートでした

*勝手ながら5段階評価でレビューしております

★★★★★: 一生の記憶に残るレベルの超名演 

★★★★:大満足、年間ベスト10ノミネート対象

★★★: 満足、行って良かった公演

★★: 不満足、行かなければ良かった公演 

★: 話にならない休憩中に帰りたくなる公演

《出演》
*ピッコロ : ジャン=ルイ・ボーマディエ 
フルート : 工藤重典
チェンバロ:リチャード・シーゲル
ソロ・ヴァイオリン : 森下幸路

《曲目》
J.S.バッハ
G線上のアリア ~小澤征爾氏追悼曲〜
パッヘルベル
カノン ~J.Fパイヤールへのオマージュ~
C.P.E.バッハ
ピッコロ協奏曲 ニ短調(原曲 フルート協奏曲 ニ短調 Wq.22)*
J.S.バッハ
ブランデンブルク協奏曲第5番 ニ長調 BWV1050 
モーツァルト
フルートと管弦楽のためのアンダンテ ハ長調 K.315 
モーツァルト
ロンド ニ長調 K.Anh184
モーツァルト
フルート協奏曲第2番 ニ長調 K.314
《アンコール》
グルック:精霊の踊り
イベール:2つの間奏曲より