今日は「秋の海外オーケストラ来日公演シリーズ」の15日目でペトレンコ指揮・ベルリンフィル(Bph)の東京公演の5日目(Aプロ)で、Bphの来日公演の千秋楽かつ天皇陛下の行幸コンサートです。オケのメンバー全員が乗った後、陛下がご着席され、ペトレンコがステージに入ってきました。



ペトレンコはインタビュー嫌い・サイン嫌い(来場者全員にサインするネルソンスの真逆)で有名ですが、ペトレンコの神経質な性格によるものだと思われます。過去のBphの音楽監督のカラヤン、アバド、ラトルはスコア無しで指揮するタイプ(協奏曲や現代音楽など除く)でしたが、ペトレンコは何度も指揮している有名曲でも楽譜をちゃんと見ながら指揮をする点が過去のBphの指揮者との大きな違いだと考えます。ペトレンコのスコアにはかなり細かくメモが書いてあり、カラーのペンを駆使しながら、立体的な構造としてスコアを分析・解釈しているようです。それがペトレンコの指揮にも反映されます。

ベルリン(左:定期演奏会)とバイエルン(右:パルジファル)の楽屋で頂いたペトレンコのサイン


ペトレンコは指揮台の上ではエネルギッシュで存在感がありますが、ベルリンやミュンヘンでプライベートでお見かけした際は普通のおっさんみたいな感じで、ラトルやティーレマンのような大物オーラ感がないです。ザルツブルク音楽祭の休憩時間にワインを飲んでいたら、隣のふわっといたおっさんがよく見たらペトレンコで奥様とご一緒だったこともありますし、クロークの前にいたおっさんがペトレンコでした。そんな不思議なオーラのペトレンコですが、今週、Bphのメンバー5人と食事をしに行きましたが、団員からのペトレンコへの評価は別れていますね。以前のブログにも書きましたが、ペトレンコが定期演奏会でマニアックな曲ばかり取り上げるので、スコアの読み込みと練習が大変だとか、色んな意見がありました。また5人のメンバーのうちの4人が「最近は、ソヒエフが良いね。この前のショスタコ4は素晴らしかったよ」「ソヒエフの指揮はマジシャンのように良い音が自然と出るよ」などと言っており、Bphメンバーの中でもソヒエフの評価は高いようです。


さて、本題の今日の感想の方ですが、コンサートの流れとしては、前回と同じ部分もありますので、宜しければ、前回のブログをご一緒にご覧ください。今日は前回のAプロとの違いを書きます。


前半1曲目のモーツァルトの第1楽章は、前回はクライバーのような指揮姿がありましたが、今日は本来のペトレンコの指揮ぶりでした。陛下がいらしている為か、楽団員の多くが笑顔で楽しく演奏してます。特にチェロ首席のマニンガーさんが笑顔で演奏しているのは珍しいです(彼は常に真面目で、IQが高くビジネス実務能力も素晴らしいです)。第2楽章はかなり丁寧に音楽を紡いでいきます。第3楽章は軽快にさらに楽しそうな演奏でした。また金管と木管は今日は良かったです。最終楽章ではペトレンコはかなり大きな唸りで指揮を始めましたが、今日の指揮の気合いが感じられます。Bphらしく、楽団員が身体を揺らしながら、引き締まった演奏でした。


前半の2曲目のベルクの第1楽章ではペトレンコは指先を細かく動かしながら、繊細な音を出そうとしていました。第2楽章は今日もコンミスのヴィネタさんのソロが大活躍で、ホルンなどの掛け合いもうまくいっていました。第3楽章は行進曲風の曲調から狂乱のようなアンサンブルになり、第1世界大戦時の世界の崩壊を予告するような不気味な音の洪水が出てきて、最後は強烈なハンマーの1発と共に終わります。


後半のブラームスは、これも陛下の行幸のおかげか、一昨日のブラームスとはパワーアップしており、迫力がかなり異なります。第1楽章でペトレンコは唸りながら指揮をし始めます(今日ほど唸りが出るペトレンコを見るのは初めてです)。ペトレンコはさらに両腕を縦に大きく振るシーンがあり、この曲に対する半端ない音をオケに出させようとしていました。第1主題はチェロの主旋律がとても美しく、第2主題でのチェロとホルンは最高の音色を出していました。この楽章でベルリン・フィル=ブラームスのオーケストラの矜持が保たれた感がありました。第2楽章では指揮棒なしで、再現部ではかなり濃厚で渋い音が出ていて、これもBphならではの音です。第3楽章は快速で筋肉質のペトレンコらしい指揮で進みます。コーダではボクサーのような指揮ぶりで、ティンパニを強調し、猛烈な大轟音で終わります。第4楽章でのBphの弦楽セクションの前傾姿勢での全力の演奏が素晴らしいです。やっと本来のBphらしさを感じ、アドレナリンがマックス状態になりました。コーダでもBphの身体のうねりが半端なく全力疾走で、ペトレンコの最後のひと振りは、パワー全開で出し切った感がありました。今日の来日公演最終日は本当に素晴らしかったです(今日は龍角散・のど飴臭も無く、幸せでした)。次回はマーラーなどの大曲を聴いてみたいです。


(評価)★★★★★ 今日はやっとベルリン・フィルの本領が発揮されていました!

*勝手ながら5段階評価でレビューしております

★★★★★: 一生の記憶に残るレベルの超名演 

★★★★:大満足、年間ベスト10ノミネート対象

★★★: 満足、行って良かった公演

★★: 不満足、行かなければ良かった公演 

★: 話にならない休憩中に帰りたくなる公演


指揮:キリル・ペトレンコ
ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団
曲目
モーツァルト:交響曲第29番 イ長調 K. 201
ベルク:オーケストラのための3つの小品 Op. 6
ブラームス:交響曲第4番 ホ短調 Op. 98