今日は「秋の海外オーケストラ来日公演シリーズ」の13日目でペトレンコ指揮・ベルリンフィル(Bph)の東京公演の3日目(Aプロ)です。Bプロ(R.シュトラウス)はやや不満足な部分がありましたが、AプロはブラームスがあるのでBプロよりは人気があり、サントリーホールのLAとRAブロックの後ろにある補助席10席ずつが埋まるほどでした。やはり、ベルリン・フィル=ブラームスのオケのイメージがあるのでしょうか。また、NHKによる収録もありましたので、これは後日のお楽しみになります(このコンサートは24年1月24日の21時からEテレで放映されます)。今日は女性コンミスのヴィネタさん、隣が大進さんでしたが、ヴィネタさんのリーダーシップによって、昨日のBphが生まれ変わったように素晴らしかったです。このヴィネタさんは世界一の女性コンミスと言っても良いくらい堂々たる姿でオケをリードをしていました。しかもお歳はまだ36歳くらいらしいですので、これからますます活躍されるでしょう。


今回の来日公演プログラムはAプロ(ブラームス)とBプロ(R.シュトラウス)の2つですが、この2つのプログラムをつながりとしては、前半はモーツァルトの交響曲と生誕150周年のレーガーのモーツァルトの変奏曲、後半はR.シュトラウスとペトレンコが音楽監督を務めたマイニンゲンの楽団で、ブラームスが交響曲第4番を初演し、初演時の第3楽章のトライアングルはR.シュトラウス(当時19歳)が担当した点などが挙げられるでしょうか。ペトレンコは今回の曲目編成について直接語ってないので、真相は分からないですが、ここ数年、ペトレンコはR.シュトラウスのオペラなどをイースター音楽祭などで集中的に取り上げていて、R.シュトラウスは絶対に入れたかったのでしょう。


前半のモーツァルトはかなりペトレンコ独自の発想によるもので、第1楽章は楽天的に始まりますが、スフォルツァンドをつけたり、独特の強弱を何度も入れて、聴いていて楽しくなります。特に第1楽章では音楽の旋律と関係ない指揮ぶりで、まるでクライバーのようにあまり拍をとらない流れるような指揮姿も見られました。ペトレンコの自由自在な指揮にきちんと対応するBphも素晴らしいですが、ホルンが第1楽章と第4楽章で転んだのは残念でした。第2楽章は緩徐楽章でもやや早めのテンポですが、第1楽章に比べるとオーソドックスなアプローチで、クライバー感は弱まります。第3楽章のメヌエットは溌剌と明るいですが、展開部からは強弱を付け出していきます。ここでのペトレンコの指揮はややコメディアン的な姿でした。第4楽章へはアタッカで始まり、筋肉質な引き締まった演奏です。モーツァルトの対位法をうまく活かしながらの演奏は、さすがペトレンコとBphらしさを感じます。


前半2曲目のベルクは、今回の来日公演で最大のオーケストラ編成で、ステージ全体にオケが配置されます。ベルクの曲は20分間程度で終わってしまいますが、これだけの人数が来日しているのであれば、マーラーなどを取り上げて欲しかったところです。

第1楽章「前奏曲」はこの曲の特徴である不気味なテーマで始まります。この曲が作曲されたのは1915年で第1次世界大戦が始まった頃で、当時の不安や恐怖が表現されています。Cbの低音が不気味さを拡張しながら、不協和音による短い演奏で終わります。第2楽章「輪舞」はコンミスのソロが活躍しますが、ハープなどとの掛け合いが巧くて、秀逸な演奏でした。この楽章は幾分、明るさがある曲で、ドビュッシーのような曲想が感じられました。不安な時代の束の間の幸せが表現されているのでしょうか。第3楽章「行進曲」は行進曲的要素を感じられますが、不安や恐怖感がさらに滲み出てきます。ホルンなどの金管の演奏やハンマーを使う部分などでは、マーラー的な要素を感じます。ペトレンコはフィナーレにかけて、鬼気溢れる指揮でオケを煽りながら、地響きがなるようなハンマーの1発含めて演奏が終わります。


後半のブラームスは、解釈の自由度が高いので、好き嫌いのわかれる曲だと思います。ペトレンコはコロナ禍でこのブラ4をディスタンスを取った無観客の演奏をしましたが(2020年8月)、コロナがあけて、「真っ先に取り上げたかったのがブラ4」と言ってました。第1楽章は、優しいタッチで始まり、徐々にCbが低音が効いてきて、Bphらしい濃厚な演奏になります。ペトレンコはマイニンゲンのスコアを研究したと語っていましたが、前半のモーツァルトとは異なり、比較的オーソドックスなアプローチで、アコーギクなどはあまり出てきません。このブラームスでも、コンミスのヴィネタさんの動きは素晴らしく、オケをうまく纏めているように思えます。コーダにかけては、アクセルを踏んで、圧巻のパワフルな演奏で終わります。第2楽章はゆったりとしたテンポで、オーソドックスな演奏で始まりますが、再現部から劇的に筋肉体質な演奏になりました。第3楽章は比較的穏やかな曲ですが、ペトレンコは引き締まった演奏を試みます。この楽章でも終結部に向けて、テンションを上げて演奏していきます。第4楽章はバッハのカンタータの主題と多くの変奏から構成されています。ペトレンコはかなり豪快に1stVnにもっと音をだけと言わんがばかりの指揮をするシーンが印象的でした。コーダではオケメンバーが緊張感を高めて、最大のテンションで全力疾走で大団円で終わりました。終演後のブラボーは少なく、カーテンコールはイマイチ盛り上がってませんでした。私も少し物足りないと感じたので、この点は皆さんも共通の印象だったのでしょうか。先月のパーヴォ指揮のブラームスのように、もっと濃密かつ引き締まった演奏を期待していましたが、次回のラスト公演でのブラームスは全力でお願いいたいです!


(評価)★★★★ やっとベルリン・フィルらしい音が出てきましたが、まだベストのベルリン・フィルではなかったです。

*勝手ながら5段階評価でレビューしております

★★★★★: 一生の記憶に残るレベルの超名演 

★★★★:大満足、年間ベスト10ノミネート対象

★★★: 満足、行って良かった公演

★★: 不満足、行かなければ良かった公演 

★: 話にならない休憩中に帰りたくなる公演


指揮:キリル・ペトレンコ
ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団
曲目
モーツァルト:交響曲第29番 イ長調 K. 201
ベルク:オーケストラのための3つの小品 Op. 6
ブラームス:交響曲第4番 ホ短調 Op. 98