ニコライ・ホジャイノフ日本ツアーのこと | クラシック♪インド部のブログ

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西洋クラシック音楽とインドというどうにも関係のなさそうな二つの事柄を中心に語るフリーライター&編集者、高坂はる香のブログ。
ピアノや西洋クラシック音楽とインドというすばらしい文化が刺激しあって何かが生まれる瞬間を妄想しています。

ニコライ・ホジャイノフが来日しましたね。
本日の兵庫公演をスタートに、全5公演。

 

 

2013711() 19時 兵庫県立芸術文化センター 神戸女学院小ホール(兵庫県)

2013712() 1830分  コラニー文化ホール小ホール (山梨県)

2013713() 15時 ノバホール(茨城県)

2013717() 19時 静岡市清水文化会館(マリナート) 大ホール(静岡県)

2013719() 19時 浜離宮朝日ホール(東京都) ※完売
チケットぴあのサイトはこちら

 

[プログラム]

ベートーヴェン:ピアノ・ソナタ 第31番 変イ長調 Op.110

ラヴェル:夜のガスパール

ショパン:舟歌 嬰へ長調 Op.60、子守歌 変二長調 Op.57

リスト:ピアノ・ソナタ ロ短調

 

 

雪のような白い人なので、この暑さで溶けてしまうのではないかと心配した人も多いと思いますが、

いろんなところを旅行してるから湿気の多い暑さがどんなかなんてわかってる、と来る前から自信満々でした。

実際、この暑さの中しっかりジャケット着用で移動中の写真がアップされていましたね。たくさん着ていてもタンクトップでも暑いもんは暑くて、変わらないんだって。

 

それにしたって今回のプログラムはかなり聴きごたえのある内容ですよねぇ。こうしてみると、こっちの世界とあっちの世界の境目を表現するような作品ばかりが並んでいるような気がします。

演奏にはいろいろな要素があると思います。情感を切々と訴えかけてくる要素、忠実に作曲家の意図を再現する要素などなど…。私がニコライ君の演奏を聴いていて一番強く感じるのは、“未知の世界をチラ見させる力”のようなものです。この世に本当にあるのかないのかわからない世界について、まるでそれを一度見てきたかのように語ってくれる。なんといいましょう、丹波哲郎的な? ちょっと例えがいかがわしい&古すぎるでしょうかね。

今回のプログラムに入っているリストのロ短調ソナタなど、私は正直ピアニストがこの作品を弾きたがる理由がよくわからないと思うこともわりとあったりするのですが、この前クライバーンでニコライ君の演奏を聴いたときは、ああ、この人がこの曲を弾きたがる気持ちが分かるなと思いました。一度向こうの世界にいって、こちらの世界を俯瞰したことがある人の語りのような。人生、楽しいことばかりじゃなくて辛いことばっかりだよ。でも、その一見辛いと感じることもけっこう輝いているんだよ、と言われているような。あとでご本人にこの作品について話を聞いたら、「この作品は生と死についての音楽。この作品からは、聖書の冒頭にある『神の霊が水の面を動いていた』というフレーズが思い浮かぶ。そのイメージが、作品の最初から最後まで、一貫して音楽の上を浮遊していると感じる」と言っていたので驚きました。イメージを限定することはしたくありませんが、そんなことを頭の片隅に想いながら演奏を聴くと、新しい発見があるかもしれません。

先のクライバーンコンクールでいろんな人と世間話をしていたときに、“ホジャイノフは間違いない才能だから、5年後、彼が人生経験を重ねて音楽に深みが出てきたときにまた聴きたい”というコメントをときどき聞きました。でもそれ、なんか違うようなぁと思うわけです。この人の場合は、伝説や神話の世界から得る感性ですでにひとつの何かが出来上がっているような感じがするんですよね。もちろんそこに彼の人間的なものが加わって、味わいを増しているのだけど。

とはいえ、ここ数年の演奏で、暗さと破壊力(?)がやわらいだかわりに、ちょっと人間らしい優しさを感じるようになったように思うのは気のせいでしょうか。この人、作品やそのときの演奏によっての印象もけっこう違う。でも一度あのすごい瞬間を聴いてしまうと、ずっと聴き続けていればまたあれが訪れるんだろうなぁと思うわけです。

 

去年ニコライ君にしたインタビューで印象的だった言葉があります。これ、自分もこういう仕事をしているから、「気持ちが強いなぁ」と思うピアニストにはつい聞きたくなってしまう質問なんですが。“批判を恐れず独自の道を貫くことは多くの人間にとっては勇気がいることだけれど、どのようにご自身のやり方を築いてきたのか”と尋ねてみまして、するとこんな答えが返ってきました。

「僕は批判を気にしません。作曲家が自分の強烈な個性を音符で残すことを恐れたならば、新たな音楽は生まれ得ません。画家が心の中に秘めているものを絵具で描くことを怖いと思えば、すばらしい作品は生まれません。これは芸術界に身を置く者すべてに言えることだと思います。演奏家にとっても、何かを隠したり恐れたりというのは、ばかげていると思います。作曲家は音符と記号で音楽を書き残しました。それをどう表現するかは演奏家の自由で、何百万もの方法があります。演奏に真の心がこもっていれば、批判などは細かな出来事にすぎないと思えるでしょう。音楽のわかる優れた聴衆は、どのような解釈も聴き入れる大きなスケールを持っています。そういう方々の心に伝われば、それでいいと思っています」

とはいえ、本当は気にすることも落ち込むこともあるんだと思いますけど。でも、彼らがこういう気持ちをつらぬいてくれるからこそ、私たちはすばらしい何かが生まれる瞬間に出会えるんですよね。大変だけどがんばってほしいです。と、たいへん幼稚なエール。しかしこういうこと、二十歳でいいますかねぇ、普通。すごいな。

 

さて、そんなわけで、東京にお住まいのみなさん、上記公演中、東京公演は早々に売り切れてしまったそうですが、同プログラムの713() 15時のノバホール公演はつくばエクスプレスにのればすぐですし、 717日(水)19時の清水公演も日帰りできますので、ぜひ、この機会にお聴き逃しなく! ちなみにこの17日でニコライ君は21歳になるみたいです。

こちらはテキサスのホライバーンコンクール中に撮った写真。ホームステイ先にて、ソファで本を読んでいるふりをしてくれているニコライ君。