「あ~、いたいた、お~い」
車の50メートル先ぐらいに、自転車に乗った母娘が見えた。
近づいて行って、今から代々木公園のタイフェスティバルにいくことになったから一緒に行こうぜ、とまくしたてているHさんの話を聞きながら、前後の事情がつかめない奥さんはポカンとしている。
「なんで?」
『今帰ってきたばかりで、何でこれから代々木公園に行くの?そして車の後ろに乗っている人は誰?』
という無言の視線を感じた。
そりゃそうですよね、得体のしれない女が車に乗っていて、いきなり代々木公園に行くなんていう、やぶからぼうな話に乗ってこれないのは無理もありません。
『すみませんね。ご迷惑をかけて、でも決して怪しいものではございません。単なる不動産の客です』
と無言で誤っていたら、
「え~、家に入った?え~、掃除していないのに」 という声が聞こえた。明らかに怒っている。
家に入ることは承諾なしだったんだ。これはまずい。私が奥さんだったら、相当頭に来るはず。
『あの、部屋はきれいでしたよ。スコーンを焼いてもらって、不動産投資を教えてもらっていただけで、何も怪しいことはしていないし、問題ないですから…、すみません』
と無言で言い訳しながら、(なぜ私が言い訳しなきゃいけない?) 大丈夫かなと見守っていたら、どうやら話がまとまって、一緒に代々木公園に行くことになった。
『あ~、やれやれ』
夫婦喧嘩にならなくて良かったよ。全く…
続く