「バリアフリー」「ユニバーサルデザイン」という言葉、どこかで聞いたことがある方も多いのではないでしょうか。
「バリアフリー」とは、障がい者や高齢者の生活に不便な障害を取り除こうという考え方です。身近なところでは、駅の階段にスロープやエレベーターを整備したり、触れただけでシャンプーとリンスの区別がつくよう、ボトルにデコボコをつけたり、といった工夫があります。一方「ユニバーサルデザイン」とは、高齢や障がいの有無などにかかわらず、すべての人が快適に利用できるよう、製品や建造物、生活空間などをデザインすることです。(以上『大辞泉』より)
12月3日は、国連が定めた「国際障害者デー」でした。
これに伴い日本では、12月3日から9日を「障害者週間」と定め、障がい者の権利についての意識啓発に関わる様々な取り組みを展開しています。
今回は、日本の障がい者の置かれた状況とダイバーシティの推進について、考えてみましょう。
【日本人の約3%は何らかの障がいを持つ】
日本の障がい者数は、身体に障がいを持つ身体障がい児・者が366.3万人、知的機能に障がいのある知的障がい児・者が54.7万人、精神疾患を有する精神障がい児・者が302.8万人となっています。これを1,000人あたり人数にすると、身体障がい児・者が29人、知的障がい児・者が4人、精神障がい児・者が24人となります。1人で複数の障害を持った方もいますが、国民の約3%が障がいを持っていることになります。
また障がいが発生した年齢を見てみると、17歳以下で障がいが発生したのは、身体障がい児・者では14.9%、精神障がい児・者では41.0%です(知的障がいは先天性のため、発生年齢別データはありません)。つまり半数以上は18歳以上になってから障がいを持った生活になっているのです。
「障がい児・者」というと何となく他人事のイメージが大きいかもしれませんが、実際は「明日、自分も障がいを持つ可能性がある」のです。
【働くことが難しい障がい者】
次に障がい者のワークスタイルを見てみます。
年齢階層別就業率を見ると、障がい児・者は、非障がい児・者とは異なる興味深い数値が見出されます。
最も驚くのは、非障がい児・者より障がい児・者のほうが、就業率が高い年齢層があります。それは15~19歳です。非障がい児の就業率が14.9%であるのに対し、身体障がい児は26.5%、精神障がい児は25.0%、知的障がい者での24.4%が仕事を持っています。
背景には、「高校・大学・専門学校に進学する障がい児が少ない」ことが挙げられます。日本の高校進学率は90%を超える中、19歳以下の障がい児の4人に1人は、すでに社会人として働いているのです。
一方非障がい者でいえば最も働き盛りである45-49歳。非障がい者の就業率が83.1%であるのに対し、身体障がい者は55.3%、知的障がい者は52.1%、精神障がい者は19.7%まで落ち込みます。
ここには、一般企業の障がい者雇用が進まない現状があります。
「障害者の雇用の促進等に関する法律」では、障害者雇用率を定め、一定数以上規模の企業等に対して、その雇用している労働者に占める障がい者の割合を定めています。民間企業の場合は1.8%ですが、2007年6月時点での実雇用率は、1.55%にとどまっています。たとえ法定雇用率を達成したとしても、全人口に占める障がい者は約3%ですので、半数以上は一般企業に就職できない状況なのです。民間企業で働くことのできない障がい者は、福祉工場(作業能力があるにも関わらず、対人関係や健康管理等の面で一般企業への就労が難しい障がい者が働く場)や、授産施設(心身上の理由で働くことが難しい方に、就労や技能習得のための機会を提供する場)で、雇用されることになります。政府は法定雇用率を満たさない企業への罰則規定等を強化していますが、急激な改善までは至っていません。
【働いても生活できない障がい者】
では障がい者は豊かなライフスタイルを送るだけの収入を得ることができているのでしょうか。
民間企業の非障がい者の賃金・工賃の平均月額は28万円。一方民間企業で働く障がい者は、身体障がい者が25万円、精神障がい者が15.1万円、知的障がい者は12万円まで下がります。
これでも、障がい者の中では高額なのです。
福祉工場で働いた場合、身体障がい者は18.6万円、知的障がい者は8.9万円、精神障がい者は3.8万円です。さらに授産施設となると、身体障がい者は3.2万円、知的障がい者は1.3万円、精神障がい者は0.9万円です。0.9万円といえば、学生のアルバイトが1日で稼ぐこともできてしまう額ですよね。1ヶ月必死に働いて、ようやく得られる賃金が、これだけなのです。
さらに2006年4月から施行された「障害者自立支援法」では、障がいがあるために受けることが必要なサービスの、費用の一部を負担することになりました。その結果「働くために利用するサービスが、賃金を上回る」状況も多く発生しています。
【働くことが権利】
フリーターや非正規雇用者以上に、「働いて生活できるだけの収入を得る」ことが難しい状況に置かれているのが、障がい者です。「賃金UP」の前に「雇用者」となることも難しい障がい者にとっては、「働くこと」自体が、勝ち取らねばならない「権利」なのです。
「ダイバーシティ」とは、「外見上・内面的な違いを受容し、その個性を活かし能力を発揮できる環境をつくる」ことですが、「能力の発揮」どころか「生きていく」ための環境も整備されていない障がい者の状況は、早急に改善せねばならない課題ですよね。
※注
本文では、通常「障害者」と表記するところを、「障がいは『害』ではない」という考えから、制度・法律以外の表記は「障がい者」としています。また、通常「健常者」と表記するところを、「障がい者ではないことが『常に健康』であるというわけではない」という考えから、「非障がい者」と表記しています。
内閣府障害者施策HPはこちらをクリック
http://www8.cao.go.jp/shougai/index.html
厚生労働省「障害者自立支援法」はこちらをクリック
http://www.mhlw.go.jp/topics/2005/02/tp0214-1.html