326、アリスの誕生日 | 阿蘇の国のクララ

 

アリスはぼくのいちばんの親友でした。

 

悲しみと不安に押しつぶされ、

とても乗りこえられない

と思った最悪の時期...

 

ぼくはただアリスに寄りかかっていました。

 

「パパ、どうしてほしい?

どうしたら気分がよくなる?

隣にいるよ。私はここにいる」

 

アリスはほんとうの友達だけが与えてくれる

無条件の愛をいつも与えてくれました。

 

「ソフトくれ!」

 

ある日、

日本三大秘境の椎葉の午後のこと、

釣り場を探して林道を歩いていると、

猟犬が3頭近づいてきました。

 

それを見ていた小学生が

向こう岸から叫びました。

 

「その犬は危ないです!」

 

アリスは一瞬で移動し、

猟犬に向っていきました。

 

ぼくを守ろうとしているのがわかりました。

 

旅先でのアリスは常に全身全霊をもって

ぼくを観察しています。

 

だからぼくに危険が及んだら

見逃したりなんかしません。

 

「アリス戻れ...」

 

ぼくは小声で言いました。

 

明らかにアリスは劣勢でした。

 

次の瞬間、ぼくは割って入っていました。

 

「退けー!」

 

相手の猟犬はぼくの迫力にあきらめました。

 

恐ろしかったにもかかわらず、

ぼくの心は落ち着いていました。

 

アリスのためなら死んでもいい...

 

翌年、

アリスは病気になってしまいました。

 

悪性の脳腫瘍です。

 

アリスの顔には、

救いようのない絶望が浮かんでいました。

 

今度は、ぼくが言いました。

 

「アリスは、どうしてほしい?

どうしたら気分がよくなる?

隣にいるよ。ぼくはここにいる」

 

誕生日というのは個人的なものです。

 

それを特別な日にするのは、

他の誰でもなく、

ぼくしかいません。

 

3月26日はアリスの誕生日。

 

おめでとう、アリス。

 

それからアリス...

 

ぼくはアリスが死んでから

5年ものあいだずっと、

気がつくと涙を流しているよ。

 

クララといっしょにアリスを探すんだけど、

きみはどこにもいない。

 

でも、わかってるんだ。

 

きみは、ぼくの隣にいる。

 

ママの隣にいる。

 

今も、これからも。

 

3人、...

 

4人は、ずっと一緒。

 

「クー」