【23市町村賠償の指針】評価、不満真っ2つ 「中通りありがたい」「県民全員が被害者」
文部科学省の原子力損害賠償紛争審査会が6日に決定した東京 電力福島第一原発事故の新たな賠償指針に対する住民や自主避難者の反応は複雑だ。避難区域以外の23市町村が対象となったことを歓迎する一方、対象外と なった白河市や会津地方などの住民は「県民全員が被害者なのに...」と憤った。「むしろ除染を進めてほしい」との声も。賠償額の根拠に疑問を投げ掛ける 人もいた。
■不安は残る
二本松市の会社役員安斎淳さん(35)は10月から、5歳、3歳、1歳の子ども3人と妻を秋田県にある妻の実家に避難させた。原発事故後、外では子ども
を遊ばせなかった。家族と離れるのは嫌だったが、子どもの将来を守るため苦渋の決断だった。それでも、自分が賠償対象になるとは思っていなかったという。
「中通りまで賠償してもらえるのはありがたい」と素直に喜ぶ。
相馬市の水産加工業小野芳征さん(51)も今回の決定を好意的に受け止める。「事故直後はガソリンや食料が手に入らず、誰もが被害を受けた」と語った。
賠償の範囲を広げることに慎重な見方もある。比較的放射線量が低い石川町の農業小湊保さん(80)は「賠償を受けるのは申し訳ない気持ち」とポツリ。生
活に大きな変化はなく「ここより線量の高い地域への賠償に力を入れるべきでは。東電や国の財政を考えると、収まりがつかなくならないか」と懸念する。
一方、中学1年生と3年生の息子を持つ郡山市の会社員平田美紀さん(40)は「心配なのは生活費などではなく、子どもたちのこれから。放射線量がゼロに
近づくよう除染対策にお金を使うのが先」と指摘する。福島市渡利の会社役員男性の自宅周辺は放射線量が比較的高く、毎日線量計で測っている。「賠償ではな
くむしろ除染してほしい」と求める。
川俣町の自営業八巻大さん(36)も「一時的なばらまきより、税金の優遇措置を講じてほしい」と注文した。
田村市船引町の写真店経営柳沼信太郎さん(54)は、1月以降の賠償方針が明確に示されなかったことに疑念を抱いている。「原発事故が収束しない限り放射能の不安は残る。今回の賠償で幕引きとするつもりなら、もらわないほうがいい」とくぎを刺した。
■全域を対象に
賠償の対象地域にならなかった市町村の住民からは、不満の声が相次いだ。白河市はPTAや町内会などが学校敷地や通学路の除染活動を繰り広げるなど、多
くの住民が放射線への危機感を持つ。同市の中学校PTA会長(49)は「もう白河では子どもを育てられないと、県外に避難した家族は少なくない。審査会は
一体何を見ているのか」と憤る。
矢祭町の会社役員宗田浩一さん(39)の妻は原発事故当時、妊娠中で、放射線の影響を心配し震災直後から8月まで子ども3人と生まれ故郷の大阪に避難した。「二重生活で家計の負担は大きかった。対象地域外でも苦しんでいる人は多い」と首をかしげた。
無職大竹きよ子さん(63)が住む会津若松市は福島第一原発から100キロ圏。それでも食べ物をはじめ放射線への不安は尽きない。「精神的苦痛を距離で線引きできるのか」と審査会の方針に疑問を抱く。
■実態に合わせて
賠償対象に含まれることになった自主避難者は安堵(あんど)の一方、一律の賠償額に疑問を投げ掛ける。福島市渡利から仙台市の民間マンションで夫と子ど
もと3人で暮らす主婦中村香さん(29)は長野県、神奈川県と避難先を変え、3カ所目となる。「数10万円かかった引っ越し代くらいは賠償してほしかった
ので良かった」とほっとした様子。
いわき市から家族4人で東京都に自主避難している女性(52)は「賠償はあてにしていなかったので対象になったことはありがたい」と評価した。
福島市南沢又から山形県米沢市に妻と自主避難する無職男性(70)は福島市の持ち家の手入れのために米沢市を行き来する二重生活を送る。「一律の金額では本当の賠償とはいえない。避難者の生活の実態に合った賠償額を設定すべき」と不満を漏らした。
【背景】
文部科学省の原子力損害賠償紛争審査会は東京電力福島第一原発事故の賠償範囲の指針や紛争の当事者による自主的な解決のための一般的な指針を策定する。
8月には政府指示による避難などへの賠償方針を打ち出した中間指針を決定した。自主避難をめぐっては判断を先送りし、対象となる市町村や期間、賠償金額な
どが課題となっていた。
なぜこの金額 「妥当」「疑問」 説明求める声
■さまざまな思い
賠償額について評価する声もあった。須賀川市の自営業男性(31)は3月、妻(31)と長男(2つ)を大阪府にある妻の実家に自主避難させた。妻と長男
は本県と大阪を飛行機で5往復し移動費は20万円以上かかったが、「40万円は移動費が賄える妥当な額」と歓迎した。ただ、「もし子どもの健康に何かあっ
たら、賠償してもらえるのか」と心配は尽きない。「子どもが一番かわいい時に会えないのはつらい。失った時間は金額に代えられない」と嘆いた。
福島市で年金生活を送る無職菅野一男さん(76)は「将来への不安はあるが、周囲に比べ原発事故の影響が少なかった方なのでありがたい」と納得した。
一方で、2人の子どもを持つ本宮市の自営業大内貴志さん(40)は金額の根拠に疑問を投げ掛ける。「なぜその金額になったのか分からない。県民が納得で
きる理由が必要だ」と詳細な説明を求めた。伊達市の会社員佐藤健一郎さん(35)も「子どもが40万円で大人が8万円なのはどうしてなのか」と首をかしげ
た。いわき市の3人の子どもを持つ会社経営の男性(50)は「子どもが結婚し、孫ができて、原発事故前の安全、安心な生活を過ごせるのか考えると40万円
が妥当なのか分からない。金額に不満というよりも不安だ」と語った。
■対象にならない自治体に考慮を 瀬戸県市長会長
県市長会長の瀬戸孝則福島市長は今回の賠償指針に対して「避難せずにとどまった人が賠償の対象になったのは前進だ」とした上で、「今回対象とならなかった自治体の実情を考慮する必要がある。十分な賠償額などの課題について引き続き検討してほしい」と求めた。
■県民全員を賠償対象にすべきだ 佐藤県町村会長
県町村会長の佐藤正博西郷村長は「対象区域の基準があいまい。程度の差はあれ、県民は全て被害を受けている。県内全域、県民全員を対象とすべきだ」と指摘した。