日本人はなぜ株で損するのか? | Passのブログ (情報部屋)

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株式取引もリーマンショック以前と以後ではその儲けるやり方がかなり変わってしまったような気がします。現在のような「乱高下の時代」は、従来型の継続投資手法を行い続けるファンドマネージャーが必ずしも有利というわけではなく、自分の投資スタイルを貫いて、下落タイミングや個別マイナー株・商品市況などで一気に勝負をかける個人投資家に軍配があがることもあります。

以下の藤原氏の記事は今後の株式投資の考え方に一石を投じるものだと考えられます。株式投資もいわゆる「軍隊」的組織化の時代から個人行動的「テロリスト」の時代に移行してるものと考えられます。

(以下引用)

○日本人はとかく今現在しか考えない――『日本人はなぜ株で損するのか?』を書いた藤原敬之氏(著述家、元藤原オフィス・アセット・マネジメント代表取締役)に聞く(週刊東洋経済)

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日本人はなぜ株で損するのか? (文春新書)/藤原 敬之

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過去25年で日本株5000億円を運用してきた「カリスマ」ファンドマネジャーが、長年培ってきた株式投資術を公開した。社会科学を駆使する異例の方法論に基づくという。

──なぜ、日本人は株で損をするのですか。

日本人にはしたたかさがない。しかも、今のことしか考えない。

歴史小説を書くために、このところ明治・大正・昭和の歴史を調べている。「表」がもてはやされている日露戦争は、実は「舞台裏」もすごい。高橋是清は戦費17億円のうち8億円を海外起債でかき集めた。日清戦争は全戦費4億5000万円で、うち1億円が海外起債だったから、その8倍を成功させている。軍資金がなければ艦艇の調達もままならない。そこにはしたたかさがあった。

──したたかさ?

自らを、あるいは物事を客観的に評価する覚めた目だ。それで、物事のあり方や自分自身を分解して見る。投資下手も、その最大の原因をしっかり見つめ直すことによって、次の成功につなげることができる。25年間にわたり株と格闘し、第一線でやってこられた最大の理由は、その覚めた目で自分の「切り口」を作れたからだと思っている。

毎年のように起こる詐欺事件を見ていると、日本人は今がいちばん大事と思っているという「普遍的な事実」に気づく。運用対象は、牛であったり森であったり、訳のわからない金融商品といわれるものであったりするが、要は確定利回り・元本保証・半年複利の商品だ。そうあってほしいという、いわばその「空想の張り子」に引っかかる。

──欧米の考え方は違う……。

欧米では、自分たちと違う神の世界があると、子供の頃から教えられる。この神の世界を将来や未来、あるいは目標と置き換えて考えることは、彼らにとってたやすい。将来や目標から逆算して、今何をしなければいけないか、と動く。そしてステップアップしていく。視点の置き方が日本人と違う。日々の行動でもギャップをどう埋めるべきかと腐心する。投資でいえば、株価を考えるのに、保有したことで得られる配当を現在価値に割り引いたものの総計としてとらえる「割引配当モデル」など、その典型だろう。

──ご自身も、彼我の違いを認識するのにけっこう時間がかかったようですね。

米国や英国に日本株のプレゼンテーションに行って連戦連敗に陥った。問題は英語力ではない、自分の考えを伝えていないから相手の心に響かないのだと気がつくまで、かなりの時間を浪費した。ほかの人の成功例をつまみ食いしてシナリオを作っていたので、説得力がない。それに気づいてから真剣に勉強した。

──勉強した?

森羅万象の鏡であるといわれる株価だ。株価はすべての要素を凝縮して表している。この最も難しいものにアプローチをしていくのだから、人間の思考を総動員せざるをえない。そのため自然科学、人文科学、社会科学を問わず、世界の名著を濫読した。日本人でいえば、丸山眞男、小林秀雄、そして埴谷雄高には誰もが触れてほしいと思う。日本人の思考はすごい、と思うようになる。たとえば、丸山眞男には、「日本人とは何か」の本質を教えてもらった。

──岩井克人さん、青木昌彦さんにも学んだと。

このお二人は極めてオリジナル性が高い。岩井さんは経済の本質を、アダム・スミス並みに一言で「差」だと述べている。差異をどう作り出していくか。そこに運動が生まれていくと。これが、岩井経済学の核だ。『ヴェニスの商人の資本論』を読んだときに、これはすごいと。

青木さんの場合は、日本の企業をどう考えるか。日本人は連続的な需要変化に対応するのには強いが、ジャンプしたような思考ができないと教えられた。彼は、例のJ企業やW企業という類型化で分析している。投資において、長期投資に堪える企業かどうかのメルクマールとして、この考え方は極めて有益だった。

──原理的な分析をする際に、2項対立を多用しています。

アカデミックなものをどうやって現実のビジネスに展開させていくか。モチーフ(投資動機)をとらえなければならない。企業の本質を知るため、株価を四つの要素に分けて考えた。その要素を「株価素」と命名した。定性的な要素に分解すれば、企業がどういう状況になれば株価はどのように動きうるか、そのイメージを自分の頭の中で作ることができる。

その株価素とは「原理の過大評価」「原理の過小評価」「内的否定」「外的否定」の四つ。たとえば東京電力がとんでもない株価になるのは当たり前と理解できる。原理が変わってしまったのだから。四つの要素のうち三つはネガティブだが、そのネガティブなものがポジティブに好転するときに、株価は大変化をする。

──この株価素はレヴィ・ストロースの神話研究に啓発されたとか。

神話には明快な共通性があり、民族が違ってもみな似ているというのだ。洪水に加え、怪物、英雄、それに心身障害者が必ずいる。神話は原始以来、「共有幻想」として持たれ、しかも何代も伝えられる。それだけ、神話的な要素は人間の作り出す何事にも宿っていると考えられ、これを応用して株価素を編み出した。

──ソブリン危機は従来の株価通念をも壊していませんか。

リーマンショック以降、何が起こったか。ソブリン危機で国債のリスクフリーレートという概念が崩れ、それをベースに価格づけをするという体系が成立しない。国債への信頼が崩れてしまったからだ。これでは、従来のような量的なクオンツを使ったアプローチで株を考えることは本来的にできない。株価素のような考え方がむしろ必要になる。

──一般の個人投資家はどうしたらいいのでしょう。

ファンドマネジャーより個人投資家のほうが投資には向いていると思っている。私は現役時代に660銘柄を毎日チェックしていた。個人はこれを1銘柄に絞ることができる。たとえばトヨタ自動車を徹底的に研究する。

とにかく、分厚い大きなノートを買ってきて、毎日、日経新聞の関連する記事を切り抜き張り付け、株価も書く。これを半年続ける。そうすれば、その企業について並のアナリストよりずっと詳しくなっているはずだ。まず一つの銘柄に詳しくなり、企業に何が起こって、株価がどうなるか、を知る。株価だけを見ようとせず、その株式を発行している企業をまず見る習慣をつけることが第一歩となる。

◆藤原敬之(ふじわら・のりゆき)

1959年生まれ。一橋大学法学部を卒業。農林中央金庫、野村投資顧問、クレディ・スイス投資顧問、クレディ・スイス信託銀行を経て、数年後の独立を前提に日興アセットマネジメントで個人名を冠した「藤原オフィス」において投信運用を担当。現在は文筆活動、教育に従事している。

(聞き手:塚田紀史 撮影:尾形文繁 =週刊東洋経済2012年1月21日号)