1%の富裕層はどんな人たちか | Passのブログ (情報部屋)

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アメリカで話題沸騰中の1%と99%の超・格差社会。では、その1%の人たちはどんな人たちなのか?超・富裕層に対する怨嗟と嫉妬が渦巻く際どいアメリカ社会の今の横顔が見えてきます。日本はこのようにならないためにはどうしたらよいのでしょうか?(やっぱりハイパーインフレしかないか?)

○シャンパンに革張りソファ——富裕層とは、どんな人たちか(ウォール・ストリート・ジャーナル日本版)

http://jp.wsj.com/US/node_380585

津山恵子(つやま・けいこ) フリージャーナリスト
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女友達が集まり、年末年始に何をしていたのか、話をした。

私は、反経済格差運動「オキュパイ・ウォール・ストリート(ウォール街を占拠せよ)」の活動家がカウントダウンをしていたウォール街の公園に行って新年を迎えた。すると、ある友人がこう言った。

「ケイコは99%の人と新年を迎えたのね。私は1%の人とルーフトップでシャンパンを飲んでいたわ!」

そして、全員で爆笑した。99%とは、就職難、失業、賃金カット、住宅差し押さえなどに苦しむ庶民を指し、オキュパイのデモがあると、みなが「We are the 99%!(ウィ・アー・ザ・ナインティナイン・パーセント)」と叫んでいる。反対に1%は、高給取りで99%が抱える問題とは無縁の、ごく一握りの人々だ。

その友人は脚本家として昨年、小さな劇場でデビューしたのをきっかけに、人間関係ががらりと変わった。大晦日は、ウォール街の金融マンに誘われて、食べ放題・飲み放題の洒落たクラブのパーティーに参加した。その後、別のウォール街トレーダーが自宅に一行を招待し、彼の高級マンションで新年を迎えたという。

「見たこともないような家だったわ。冷蔵庫にはソーダとオレンジ・ジュースしか入っていないけど、食器棚を開いたら、500個ぐらいワイングラスとシャンパングラスがあるの。ルーフトップのテラスには、白い革張りのソファに、プールとシャワーがあって、彼が開いたパーティーでこれまでに26組のカップルが誕生しているんだって」

当然、女友達の質問はその友人に集中した。誰もウォール街の寒い公園での年越しの様子など聞きもしない。冷蔵庫にオレンジ・ジュースしかないのは、料理はせず、レストランからのケイタリングしか食べないからで、ルーフトップに瀟洒な革張りソファがあるのは、自分が読書に使うのではなく、1%が集まるパーティーのためだけにある——など、聞いたこともない話が続く。

つまるところ、1%に対する下世話な興味は尽きない。なぜ、そんなにお金があるのか、一体どんな暮らしをしているのか——。

そんな女友達との会話に呼応するかのように、最近、「1%とはどんな人たちなのか」という報道をよくみるようになった。

ニューヨーク・タイムズは、ニューヨーク近郊のチャーター航空会社経営者を紹介し、当然、所得水準は「1%組」だが、1%として攻撃されるのにうんざりしている様子を描いた。彼はチャーター機へ顧客の荷物運びもするし、「24/7(1日24時間・週7日開店営業という意味)」どころか「26/9」働くと主張する。

1%と世間から見られても、裕福な家庭に生まれたのではなく、労働階級の出身で立身出世した人もいる。タイムズによると、1%の方が99%よりも労働時間はずっと長い。

一般的に99%が攻撃する1%は、金融マン、弁護士、医者、不動産会社ブローカーなどの職業だが、所得水準だけで単純に切り取れば、99%だと思われた警察幹部やセールスマンでも1%級の人がいないわけではない。

それでも「格差」に対する嫌悪感は、増幅している。オキュパイ・ウォール・ストリートのデモに接していると、毛皮のロングコートを着て犬の散歩で通りかかっただけで、若者から「恥を知れ!」と怒鳴られている人々がいる。

そして、大統領選挙の今年、まさに「格差」が焦点となる。再選を狙うオバマ大統領は、労働階級の代弁者であることを強調し続けている。一方、対立する指名候補を選ぶ共和党の予備選挙も、所得や格差が焦点となっていることを浮き彫りにしている。

21日のサウス・カロライナ州の共和党予備選挙は、ニュート・ギングリッチ元下院議長がトップで勝利した。しかし、同予備選挙投票日に先立って、2番目の妻マリアンヌさんがABCテレビに出演、「オープン結婚(婚外交際を黙認する結婚)」を約束させられたと証言し、ギングリッチ氏を批判した。

ところが、同州予備選挙まで優位にあったミット・ロムニー・前マサチューセッツ州知事も、「高所得者でもあるにかかわらず、納税の際の連邦税率は15%」という報道で、対立候補から攻撃された。

いわば、競り合うライバル同士が、傷を負っての投票日だったが、蓋を開けるとギングリッチ氏が圧勝。コアな保守層が多いサウス・カロライナ州で、ギングリッチ氏の元妻の証言は痛手かと思ったが、一方で同州は失業率も全米平均よりも高い。

元コンサルティング会社経営幹部で、所得よりもキャピタル・ゲインの割合が高く、1%の「代表格」のようなロムニー氏に対する「ノー」の方が膨らんだ。

こうして、共和党の指名候補選びが混迷しているのも、1%と99%間の分断が原因ともいえる。1%を含む穏健派が多い州ではロムニー氏が有利で、99%が多い強硬派の州ではギングリッチ氏が優勢といった具合だ。

女友達の会合が終わりに近づいたころ、脚本家の友人がこう言った。

「ウォール街の人たちの話をすると、なんでそんな人たちを知っているの?と聞かれて困るのよね」

脚本家とはいえ、復職も持ち、小さなアパートに住む彼女は毛玉だらけの帽子をかぶって、去って行った。

目に見える金銭的、物理的格差だけでなく、1%と99%をこうして隔ててしまった「心理的壁」は、米国をますます複雑な国にしてしまっている。

◆津山恵子(つやま・けいこ) フリージャーナリスト

東京生まれ。共同通信社経済部記者として、通信、ハイテク、メディア業界を中心に取材。2003年、ビジネスニュース特派員として、ニューヨーク勤務。 06年、ニューヨークを拠点にフリーランスに転向。08年米大統領選挙で、オバマ大統領候補を予備選挙から大統領就任まで取材し、AERAに執筆した。米国の経済、政治について「AERA」「週刊ダイヤモンド」「文芸春秋」などに執筆。著書に「カナダ・デジタル不思議大国の秘密」(現代書館、カナダ首相出版賞審査員特別賞受賞)など。