沈まぬ太陽 | にゃ~・しねま・ぱらだいす

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ドコにもダレにも媚を売らずに、劇場・DVDなどで鑑賞した映画の勝手な私評を。

沈まぬ太陽 スタンダード・エディション(2枚組) [DVD]/渡辺 謙,三浦友和,松雪泰子


【監督】若松 節朗
【主演】渡辺謙、三浦友和、松雪泰子、鈴木京香、石坂浩二
【オフィシャルサイト】行方不明

山崎豊子原作の大作を、豪華キャストを擁してこれまた3時間22分もの長編として映画化。
予算20億は『ヤマト』と同じ制作費だが、衣装・美術の細部にまで気配りが行き渡った
豪華な絵面は到底同等とは思えない。カネはこう使うべし、との見本のような作品。

ナショナルフラッグである国民航空の労働組合委員長として経営陣と対立した恩地は、
その強硬な姿勢が仇となり、開発途上のカラチ支店へと転勤させられる。
その後もテヘラン、ナイロビと単身赴任の海外勤務は足掛け8年に渡り、苦悩の日々を送る。
一方、恩地と共に副委員長として活躍した行天は専務に取り入り、出世街道を歩むこととなった。

それから10年。帰国した恩地に待っていたのは、御巣鷹山で発生したジャンボ機墜落事故だった。
500人強の人命を奪った過去最悪の航空機事故の中、遺族係としてと彼らと向き合う恩地は、
後処理を事務的に済ませようとする会社側に猛烈な反発を抱く。

痛ましい事故から4ヶ月。利根川首相は、関西の紡績会社会長・国見を会長に就任させ、
国民航空の再建を目指す。東京に呼び戻された恩地は、国見が新設した「会長室」の部長に抜擢。
改革に奔走する国見と恩地サイドとそれに反目する行天サイドの対立が明確となっていく-。

長い間映像化が待望されていたものの、モデルとなった日本航空の反発やスケールから
幾度も頓挫したようで、こうして完成の暁を見た日には、太陽が沈んでしまうという皮肉な話となった。
会社経営陣と労働委員会の対立、事故の痛ましい記憶、遺族らとの事務的な交渉、
社内の権力争い-幾ら『フィクション』と弁解しても、誰の目にも『そういうことはあっただろう』と映る
骨太な内容は、見ごたえ充分であると共に事故の記憶など幾つかの感傷も呼び戻してくれる。

時間が経った所為もあるが、1985年8月に発生した日航機墜落事故を題材にしたものが増えてきた。
アプローチは様々だが、当時の状況を知っている者にとっては、胸に帰来するものがあるものばかり。
『絶対安全を謳っていた日本の航空機が落ちた』という現実は、その後数年にわたって利用者の
空路離れを促したほど衝撃だった。当時まだ飛行機に縁遠かった自分にもショックな事件だった。

しかし直接関係のない我々と違って、遺族にとっては記憶が風化することはない。
この映画を観るまでもなく、彼らにとって今なお悲しみの日々は続いている筈なのだ。
日本航空が弱体化したことによって日の目を見た待望の映像化ではあるが、
立ち位置自体は微妙であることには違いない。その配慮はエンディングも現れているが、
自分のようにあらためてあの事件を思い起こし、心あらたにする鑑賞者もいるので、
その意義は十二分にあったように思う。

しかしこの作品は、スゴイ。渡辺謙あっての作品ではあるのだが、脇を固める三浦友和らの
演技力を超えた人間力が、画面越しにもビシビシ伝わってくる。『俳優』『女優』と安易に名乗る
タレント崩れが恥ずかしくなってしまう程の圧倒的な存在感は、この作品に対する熱意や思い入れが、
本来の実力は勿論、それをさらに恐ろしい程に昇華させてしまうという稀有な例を見た思い。
そしてそれを支えるしっかりとした美術。飛行機を筆頭としたCG表現は陳腐で頂けないが、
現地でのロケセット、小道具や衣装の細部まで行き渡っている拘りにも、熱意や思い入れが
俳優部だけでなかったことを裏付けているように思う。

3時間を越える作品は『赤ひげ』をスクリーンで見て以来だったが、正直それほど長くは感じなかった。
各部で展開や人間模様に変化に富んでいる所為もあるが、全編に渡って統一された重みと深みが
流れていたこともあるかと思う。
かといって、この手の作品は世の映画ファン万人にお薦めできる傾向のモノでもないので、
好きなヒトなら3時間強見る価値は十分にある、という推薦に留めておきます。

でも、久しぶりに骨太な邦画ではない、ちゃんとした『日本映画を観たな』という印象。

【評価】
★★★★☆