007 ノー・タイム・トゥ・ダイ  2021年 英・米 163分 ★★★★★ | 新作映画の評価 どれを観ようか? ネタバレなし

新作映画の評価 どれを観ようか? ネタバレなし

映画が大好き。都内千代田区在住です。

評価は5段階で
★★★★★ 最高! 面白い! もう1回見たい!
★★★★  オススメ 見ておくべき1本です
★★★   普通かな? 見て損はない
★★    うーん、ちょっと微妙かな?
★     つまらん

原題 No Time to Die
007シリーズ25作目。監督はキャリー・ジョージ・フクナガ。
ダニエル・クレイグがJB007を演じる最後の作品となる。

冒頭。子供時代のマドレーヌ・スワン。「スペクター」のミスター・ホワイトにより家族を殺害されたサフィンの復讐で彼女は母親を殺害される。マドレーヌは逃げる途中で凍った湖に落ちてしまうが、サフィンにより助けられる。

現役を退いたジェームズ・ボンド(ダニエル・クレイグ)は、マドレーヌ(レア・セドゥ)とイタリアで暮らしていた。ボンドがヴェスパー・リンドの墓参をした際、スペクターの一味に襲撃される。ボンドは追跡者たちを撃退するが、マドレーヌと決別する。
5年後。ボンドはジャマイカで平穏な日々を過ごしていた。が、CIAのフェリックス・・ライター(ジェフリー・ライト)が現れる。誘拐されたロシアの細菌学者オブルチェフを救い出してほしいとの依頼である。現役に復帰したボンドは危険な生物兵器を操る敵との闘いに身を投じるのだったが・・

僕はこれまでダニエル・クレイグが演じる007作品については、最初の「カジノロワイヤル」以外は辛い評価をしてきたのだが、本作はとても楽しめた。クレイグボンドの5作品の中では「カジノロワイヤル」と本作、すなわち入口と出口が良い。15年に及ぶシリーズの締めくくりに相応しい見応えのある一品だ。

上映時間は実に163分。シリーズ最長である。が、構成と脚本に優れているため、その長さを全く感じさせないのだ。2時間以下にしか感じない。実はもう少し観ていたかったというのが本心である。

ボンド映画の3要素。悪役・ボンドガール・秘密兵器(特にボンドカー)について解説する。
敵のサフィンを演じるのは「ボヘミアン・ラプソディー」で主演だったラミ・マレック。彼は冒頭のシーンの能面といい柔道着のような衣装といい日本テイストの人物として描かれている。終盤の舞台となる島は北方領土と思われるエリアにあるし、彼とボンドが対峙する部屋は畳敷。さらに植物園には盆栽も見られた。彼は007「ドクター・ノオ」のノオ博士へのオマージュあるいは現代版ノオ博士なのかもしれない。もっともジョセフ・ワイズマン演じたノオ博士はドイツ系中国人という設定だったが。

ボンドガールはやや寂しい。レア・セドゥは前作に引き続きの出演だが、もはやボンドの内縁の妻の位置付けだからセクシーさも希薄。セクシー要員としてはCIAエージェントのパロマを演じるアナ・デ・アルマスが担っているが、ボンドと恋仲になるわけはない。特筆すべきは引退したボンドの後を継ぐ「新007」としてノーミ(ラシャーナ・リンチ)で出てくること。本来なら彼女もボンドガールの一翼を担う必要があるはずだが、何故アフリカ系なのだろうか? ボンドの上司M(レイフ・ファインズ)の秘書であるミス・マネペニー(ナオミ・ハリス)がアフリカ系なのだから、「またか・・」という気がする。しかもノーミはマネペニーよりも魅力度で劣るし・・

秘密兵器は強力な磁場を発生するオメガの時計くらい。あとはボンドカーだが、これも不満。イタリアでの愛車はアストンマーチンのDB5。こんな古い車を日常使っているなんてあまりに現実離れしている。ちなみに英国車なので右ハンドルのままである。さらにアストンマーチンのV8という70年代のモデルも出てくる。これまた十分にクラシック。いいと思ったのはマドレーヌの愛車であるトヨタ・ランドクルーザー。ボンドが乗り、敵のレンジローバーの群れを撃退するシーンは見応え満点だ。

肝心のボンドについて。本作ではダニエル・クレイグの加齢を感じた。引退している設定なのでこれでいいと思う。激務から解放されて一気に老いが進んだという感じが良く出ている。クレイグは歴代ボンドの中では一番小柄(178cm)なこともあり、これまでも見映えという点では他のボンド俳優に見劣りがしたが、今回はさらにしぼんだ感じだった。だがそれ故にリアル感があったのも確か。

僕が気に入らなかったのはバトルシーン。ガンファイトが主体だが、大勢の敵と撃ち合ってボンドの撃った弾はよく当たるのに、敵の弾は一発もボンドに当たらないというご都合主義の極み。こんなシーンは今時マンガでも馬鹿にされると思う。齢を取ってもはや肉弾戦は厳しいという設定なのかもしれないが・・

さらに本作ではボンドの子供が出てくる。5歳の女の子。名前はマチルド。マドレーヌとの子である。ちなみに原作では、ボンドの子を宿すのは日本人女性なのだ。
ボンドも50歳過ぎていい感じで枯れてきて、娘もいて、「わが人生に悔いなし」という心境だろうか。そして彼は最後の闘いに赴く。


ここから先はネタバレになるので、未見に方はご注意いただきたい。

ボンドはサフィンの島に乗り込み、マドレーヌとマチルドを新007のノーミに託し、自身はサフィンと対決する。彼の生物兵器の工場を叩くため、イギリス海軍にミサイル発射を要請。サフィンを倒すが、もう脱出の時間は無い。ミサイルの着弾があり、彼は工場もろとも還らぬ人となる。歴代シリーズのなかで「JBの死」が描かれたのはもちろんこれが初めてである。ダニエル・クレイグ主演の5部作を1つの独立したシリーズと考えれば納得できる幕切れである。ボンドは天涯孤独でなければならない。守るべき妻や子供がいてはならない。そうでなければ過酷な任務を冷徹に遂行できないから。だから妻と娘の存在に安堵しつつ彼がこの世から消え去ったのは正しいのだ。

次の007俳優は誰なのだろうか? 数年先が楽しみである。