監督・脚本 リサ・ジョイ。製作はクリストファー・ノーランの弟のジョナサン・ノーラン。ちなみにリサ・ジョイはジョナサンの妻である。近未来のアメリカ。温暖化による海面上昇でマイアミは水没。日中は日差しが強すぎるため、夜しか活動出来ない街となっていた。退役軍人のニック・バニスター(ヒュー・ジャックマン)は、相棒のワッツ(タンディ・ニュートン)と一緒に、顧客が望む記憶を追体験させるという職業に就いている。ある日、メイ(レベッカ・ファーガソン)という女性が客としてやって来る。失くした鍵を探して欲しいという依頼だったが、それを機にバニスターとメイは恋愛関係となるのだったが・・ノーランファミリーの作品であることを宣伝でも強く前面に押し立てているので、鑑賞前は「インセプション」や「TENET」のような作品なのかと思っていたが、実は恋愛モノだった。確かにノーラン色を感じさせる部分は随所にあるものの、別カテゴリーの作品なのである。しかも壮大なスケールの話とはほど遠く、狭い地域の少数の登場人物によってストーリーが進行するスケールの小さいお話だった。もちろん、それがダメだというわけではなくて、そこが本作の魅力なのである。世界観が魅力である。ディストピアの新しい描き方だ。舞台がNYやロスアンジェルスではなく、マイアミというのも目新しい。庶民が住む水浸しの世界と金持ちが住む乾いた世界の対比。近未来でありながら、全体的にクラシカルなテイストで統一されているのは「ガタカ」にも似ている。宣伝では主人公は記憶に潜入する捜査官ということだったので、ブレードランナーのデッカードのような男なのかと思っていたら、ちょっと違った。確かにニックは犯罪捜査にも協力しているのだが、話の主眼はあくまでメイの秘密を知ること。レベッカ・ファーガソン演じるメイが魅力的。彼女は所謂ファム・ファタール。美しいのだけど崩れた感じが最高で、ニックが一目惚れするのもよくわかる。彼女は姿を消してしまうのだが、ニックはマシンの力を使って真相を暴こうとする。本作は主人公のモノローグが多い。また登場人物のセリフの量も全体に多目だ。ストーリーもわかりやすく構成してあり、後半~終盤の謎解きについても丁寧に解説される。おそらく難解という評価を避けるためにこのような構成となったのだろうが、全部を説明せず、謎の部分を残しておいても良かったのでは?と思わせる。