オススメ最新作(※ネタバレあり)
個人的に、完璧な一作でした。
"映画の登場人物"と"映画を観ている我々観客"との距離感が抜群に心地良く、適切な作品だと感じます。
『PERFECT DAYS』
(2023)
本作、年末駆け込みで2023年のベストに入ってきました。
この映画の空気感やテンポが好きです。
40代に近づく中で、「日常」を描いた作品に強く心惹かれることが増えました。
近年ですと…
『日日是好日』
『SABAKAN』
『ベルファスト』
『スーパーノヴァ』
『この世界の片隅に』
『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』
『きのう何食べた?』
『銀平町シネマブルース』
『水は海に向かって流れる』
『せかいのおきく』
『食べる女』
『オットーという男』
『メタモルフォーゼの縁側』
などなど。
「コトを描く」映画ではなく「誰かを描く」映画でありつつ、その日常風景が作品のベースになっている映画にここ最近特に魅力を感じます。
そんな自分の目にはこの映画が完璧な形で映りました。
「…」
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■全体評
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役所広司の演技を堪能する一作でもあります。
彼が演じる平山が想像以上に喋らない。寡黙である。
基本的にずーーーっと役所広司、否、平山さん。
出ずっぱり。
そんな彼を取り巻く何人かの登場人物もまた魅力的。
でも、どの人物も絶妙に背景や過去が掴みきれない。
なんとなく分かるんだけどはっきりとは描かれません。
言葉にされてません。
それって、まさにドキュメンタリーを超えて、自分たちの人生における人との関わり方や距離に非常に近いものを感じました。
映画やドラマや小説って、ある意味登場人物に寄りすぎる媒体ですよね。
登場人物の考えてることに肉薄し、ドラマチックな出来事を通してその人の内面を暴き深掘りし、誰かとの距離感が変わることをエンタメとしている媒体。
でも、人って生きてく中で年がら年中他人や自分の内面に触れてる訳ではないはずです。
自分自身も、本音や心情や自分の深いところを吐露する瞬間って決して多くないですよね?
そう考えると、この映画の観客と登場人物の距離感ってすごく適切な気がするんです。
なんとなくこの人はこういう人かもしれない、こう考えてるかもしれない、とは思うけども本当のところは分からない。
でもその程度でお互い人生生きていく上で問題ない。というか、ちょうど良い。
そういう描き方をされた人物たちを観るのはとても心地が良かったです。
平山さんを中心に、架空の人物達だけど、ドキュメンタリーとして撮りたいと言った監督の意図や狙いが効いてるのかもしれません。
本作の様々なレビューを読んでてポイントになっていたのが、平山が「選択的没落貴族」であるという点。
平山は質素な暮らしをしているけれども、必要に迫られた訳ではなく、そういう暮らしを自ら選んでいる点を考慮して見るべき、そのまま受け取る訳にはいかないetc.
それによってこの生活の様子や平山という人物への好感度や印象が変わることもあろうと思います。
心に余裕があるからこそ、こういう生活が送れるし好人物として居ることができるという見方もできます。
それは確かにそうだよな、、、と思います。
個人的には、だからといってこの映画の印象や評価は変わりません。
慎ましくも小さな幸せ、触れて感じることができる幸せって大切では?という価値観を描くのであれば、一つの目指す形としてこれはアリだと思うのです。
じゃあ平山が豪奢な暮らしをしてればその価値観を描ききれたか、というとそうではないはずです。
それでは伝わるものも伝わらない。
様々な層の生活があれど、どんな人でもこういうのを目指せたら良くないですか?という提示に感じたのが、個人的に評価が変わらなかった所以かもしれません。
平山という人物は分かりやすいようでいて、その反面、「そこは怒るんだ」というところや、「そこで笑顔なんだ」と意外さを感じる不思議な箇所がいくつかありました。
後輩社員でいい加減な後輩に振り回されて古いカセットテープ屋という発見ができたのはいいものの、お金を後輩に貸すハメになり、ガス欠になってその時になって自分のお金が足りなくなるなど踏んだり蹴ったらはの最中、にんまりと笑う平山さん。
笑った笑顔がとても可愛いかったんですが、結構踏んだり蹴ったりの中だったけど、そこで笑うのねーという意外性がありました。
その後輩社員がバックれて全部のトイレの清掃を自分がやらなければならなくなり、一日終わってヘトヘトで本社シフト担当に電話する時、「毎日は無理だからね!」と怒る平山さん。
平山さんなら「いいよいいよ」と言って静かに受け入れそうと思ってたら、そうではなかった時にも同じく意外だなと感じました。
その意外性の度に、「この人を知った気になってた自分」にハッとさせられ、映画の続きが気になってしまうのです。
本作において映画の続きが気になるとは、それ即ち平山さんをもっと知りたいということ。
本作の虜です。
比較的起伏の少ない映画の、クライマックス。
突然転がり込んできた姪っ子を親元に送り返し、落ち着いた日常が戻ってきた平山さんは翌朝もいつも通り出勤します。
仕事先までの道中、高速を走る車内で、Nina Simonの「Feeling good」をかけながら、平山さんはひとり咽び泣きます。
あの泣きは日常が戻ってきた喜びなのか、家族と繋がれた喜びなのか、ひとりの自分の生活への哀れみや憂いなのか───笑泣きとも取れるそれは、いろいろな感情が読み取れる泣き顔でした。
そこで映画の幕が下ろされるのですが、とても良い映画的な余韻だったなぁと感じます。
ひたすらドキュメンタリーテイストではありつつ、最後に感情のカタルシスが描かれてました。
平山さんは、毎朝必ず上を見ます。
家の外に出る時、空を見上げます。
見上げて笑う様が良い。
こちらも心が洗われました。
最近普通にしてると下向きがちなんですよね。
ただでさえスマホ見て下の方向いてるのに、なんだか色々考えなきゃいけないコトが多くて。
考え事してるとつい下向いちゃう。
まぁ、ずっと上向いてる人もそれはそれで上の空感あったり大丈夫かしら?と思うかもしれないので、なんとも言えませんが。
でも。
なるべく真っ直ぐ。
たまに上を見るようにしたいと思わせてくれた作品でした。
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■サントラ
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いやーーー、音楽がいい!
サントラという意味でBGM的なスコアはほぼないんですが、その代わり平山さんが毎朝出勤の車でかける古いテープが、そのまま本作のサントラになってます。
♪♪楽曲リスト
- ヴェルヴェット・アンダーグラウンド「Pale Blue Eyes」
- オーティス・レディング「ドック・オブ・ベイ」
- ルー・リード「パーフェクト・デイ」
- パティ・スミス「Redondo Beach」
- ローリング・ストーンズ「めざめぬ街」
- 金延幸子「青い魚」
- ヴァン・モリソン「ブラウン・アイド・ガール」
- キンクス「サニー・アフタヌーン」
- ニーナ・シモン「Feeling Good」
「(良い曲・・・)」
オールディーズの楽曲達が作り出す雰囲気がこの映画にあってるんですよーーー。
またそれらを仕事に向かう道中の車で、カセットで聴くというのがまた、ね。
たくさんカセットがあるように思いましたが、平山さんがそれらをいつどう集めたのか、とかに想いを馳せるのもまた楽しかったです(^^)
最後のNina SimonのFeeling goodとか最高でした。
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■あとがき
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穏やかでルーティンがあり、マイナスをゼロに戻すことを生業とする平山という人の人物像と生活。
…ここまでレビュー書いてみて気づきました。
多分、この映画で描かれてる多くが、いま38歳の自分にとっての「憧れ」そのものなんだと思います。
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■予告編
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