シネフィル倶楽部

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洋邦ジャンル問わず最新作から過去の名作まで色んな作品ついて、ライトな感想や様々な解釈・評論を掲載orつらつらと私「どい」こと井戸陽介の感想を書く場にしたいと思います!観ようと思ってる作品、観たい過去の作品を探す時とかの参考書みたいに活用してもらえればと♪

NEWオススメ最新作(※ネタバレあり)

 

これはもはや製作者達もだんだん戸惑いの方が大きくなってるのでは?!、と思えるほどの全世界大ヒットを記録してる作品が遂に日本公開となりました。

 

なんてったって、『アナ雪2』などを抜き、興行成績を塗り替えてアニメ作品の全世界No.1になってるのが本作ですから。

なんなら実写含めても『アベンジャーズ(1作目)』を抜いて、全世界10位になってるほど。(2024/8/4時点)

 

実はわたくし、一作目はまったく刺さりませんでした。

なんとなーくその大枠の展開は覚えているものの、ほぼ映画について覚えてるシーンやセリフが無いです。

 

なので、今作も自分には刺さらない可能性高いかもなー、でも世界的大ヒットになってるから観ておこー、くらいの感覚で観に行きました。

 

そしたらまぁびっくり。

 

始まって5分くらいで泣いてました…笑

 

(いまこれを書くのに、自分のハズカシが盛大に司令部で操作をしていた気配)

 

『Inside Out 2』

[邦題:インサイド・ヘッド2]

(2024)

 

いやー、消化のために観た作品の冒頭5分で泣くとか…びっくりどころじゃないです。自分にビビりましたw

 

 

しかも、なんで泣いてるのかイマイチ分からないけど涙が流れる、って感じだったんですw

 

なんか自分病んでる?疲れてる?!とか思いましたが、決してそんなことはなく。

 

作品の世界観や表現、描かれていることが秀逸であることの証左かと思います。

 

 

ちなみに、これから本作をこれから観る方、鑑賞を検討されている方にお伝えしたいのが、1作目を観ていなくても今作は十分楽しめますということ!

 

「1作目を観てないからなぁ」という理由で、本作を観ないのはひじょーーーーーーに勿体無いですよ^^

 

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■『インサイド・ヘッド2』あらすじ

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どんな感情も、きっと宝物になる―ディズニー&ピクサーが贈る、あなたの中に広がる<感情たち>の世界。 

 

 

少女ライリーを子どもの頃から見守ってきた頭の中の感情・ヨロコビたち。ある日、高校入学という人生の転機を控えたライリーの中に、シンパイ率いる<大人の感情>たちが現れる。

 

 

 「ライリーの将来のために、あなたたちはもう必要ない」―シンパイたちの暴走により、追放されるヨロコビたち。

 

巻き起こる“感情の嵐”の中で自分らしさを失っていくライリーを救うカギは、広大な世界の奥底に眠る“ある記憶”に隠されていた…。

 

 

(映画『インサイド・ヘッド2』公式サイトより)

 

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■全体評

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全体を通してクライマックスのところでも泣けてしまったのですが、そこはなんとなく理由は分かっていて。

 

今回の続編は素直でストレートな感情達と、思春期の複雑な感情達のぶつかり合いと、その共生を描くといったような内容ですよね。

 

 

それって今の自分のライフステージからすると、自分の子供がこれから体験するのかなぁという視点と、かろうじて覚えてる自分の思春期との、両面を重ね合わせて映画を観ることができたのだなぁと。

 

なので、そのふたつの体感の交差点みたいなものに立つことになった故にクライマックスにとても感動できたような気がしています。

 

 

そして多部未華子!!!!

 

いやー、これ言われなきゃ彼女が「シンパイ」の声を担当してるとか分からん!

 

 

すごいです。天晴れです。

 

もちろん彼女が声優をつとめるのは知ってたんですが、「シンパイ」の初登場シーンから最後まで多部未華子がやってるとは信じられないくらい。

 

 

でも、じゃあ彼女じゃなくてもいいじゃん、とはならなくて。

 

圧倒的に今回のキーマンとなる「シンパイ」。

そのビビリで不安定な感じと、未来をリスクヘッジしてる頼もしさと、愛嬌と奇抜さとを絶妙なバランス感で表現してました。

 

 

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■あとがき

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「1」で登場した感情たちって、ヨロコビ・カナシミ・イカリ・ビビリ・ムカムカなど「」に反応するキャラクターなんですよね。

 

それに対して今回の感情たちは、シンパイ・ハズカシ・イイナー・ダリィ(・ナツカシ)という「未来(や過去)」に反応するキャラクターになっています。

 

それって、未来を予想したりそこから逆算したりすることで起こる感情達がメインってことですよね。

 

それは正に、頭の中で捉えられる時間軸が長くなったり、想像力が鍛えられているなど、「思春期」という成長過程の大きな特徴を捉えている気がします。

 

 

描きたいことと物語、物語を推し進めるキャラクター造形と世界観、それらが非常に一貫しておりブレずに映画が進むので鑑賞する側も迷う余地がありません。

 

一直線に物語に没入することができました。

 

幅広く届けられる娯楽性は一貫させつつ、大人だからこそ理解できるメッセージ性、逆に子供だから体感で理解できる(頭ではなく心と身体で理解できる)表現とのバランス感覚を持った非常に優れた作品だなぁと感じました。

 

あー、もっかい劇場で観たい。

 

 

最後に。

 

続編でヨロコビの声を務めた小清水亜美さんへの賛辞と共に。

 

R.I.P.竹内結子さん。

 

 

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■予告編

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NEWオススメ最新作(※ネタバレあり)

 

歌が上手い人のライブに行くと、自分も歌がうまくなったと錯覚する。

 

スポーツの凄いシーンを観ると、自分もできるような気がしてくる。

 

ノーランの作品を見終わった帰り道は───自分の頭が良くなったのでは?と錯覚します

 

彼の映画は難解なことが多いです。

映画鑑賞に留まらず、知的体験の領域に踏み込みつつあります。

 

だからこそ2回目が楽しい。

 

1回目はひたすら圧倒され、翻弄されるまま

真に娯楽として享受できるのは2回目以降。

(自分の理解力に比例してではありますが…汗)

 

是非、2回以上劇場でご覧ください。

 

さて、公開前からいろいろと物議を醸した世界的な話題作『オッペンハイマー』。

 

科学的な偉業と、その恐ろしさ───それらを天秤にかけながら、本当に作るべきだったのかを論じきれずに手を出したことを、諌めているように感じました。

 

『OPPENHEIMER』

[邦題:オッペンハイマー]

(2023→2024)

 

本作は伝記映画です。

 

原爆の恐ろしさや影響については多く言及されておらず、観了後はどちらかというと科学者の苦悩・栄光・挫折、原爆を世に放った側・者を中心にしたビフォー・アフターの出来事───アメリカ国内の政治劇としての印象が強く残ります。

 

もちろんそれが悪いというのではなく、『オッペンハイマー』という人物の生涯を描く伝記物としてはこの上なく秀逸な作品であることには違いありません。

 

特に被爆国日本においてはセンシティブなテーマですが、そのテーマにどれだけ向き合った作品かというと、痛烈な批判や怖さは感じにくいものの、事の重大さや重さみたいなものは十二分に伝わる深遠な作品だと感じました。

 

あくまでオッペンハイマーの生涯を通して↑のテーマを内包した作品と捉えると良いのではないかと。

 

 

これまで圧倒的なイマジネーション・世界観の構築・ビジュアル構築といったところがベースにあってキャリアを積んできたノーラン監督ですが、今作では史実という制約があり、自由な発想で世界を構築することも無ければ、圧倒的なビジュアルやキャラクターを作り出すことも難しいわけです。

 

正直、彼のこれまでのフィルモグラフィーの中でも同じく史実を扱った『ダンケルク』はあまり見返すことの無い作品だったり、実話ベースの作品にはあまり魅力を感じにくいというのもあり、今作の公開前に一抹の不安を抱えていたのも正直なところ。

 

 

しかし。

 

蓋を開けてみれば、これがまた全体的にひじょーーーにサスペンスフルな仕上がりになっており、その圧巻の語り口に惹き込まれました

 

ここまで惹き込めるのは、やっぱりノーランの手腕。

 

 

伝記物で且つアーティストではない人なので「音楽」という付加価値も付けにくい真実を、映画にしてこれだけ売れてしかも評価も得られちゃうなんて(過去の監督の実績や名声の影響も多分にあるとは言え)凄いことです。

 

それが出来たのは、ノーランが得意とする時間を使ったマジックというか演出の賜物ですね。

 

それではその辺りも含めたいくつかの本作の魅力ポイントをピックアップして紹介しつつ、本作をお薦めしていきたいと思います。

 

 

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■『オッペンハイマー』あらすじ

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一人の天才科学者の創造物は、

世界の在り方を変えてしまった。 そしてその世界に、

私たちは今も生きている。

 

第二次世界大戦下、アメリカで立ち上げられた極秘プロジェクト「マンハッタン計画」。

 

これに参加した J・ロバート・オッペンハイマーは優秀な科学者たちを率いて世界で初となる原子爆弾の開発に成功する。

 

しかし原爆が実戦で投下されると、その惨状を聞いたオッペンハイマーは深く苦悩するようになる。

 

冷戦、赤狩り―激動の時代の波に、オッペンハイマーはのまれてゆくのだった―。

 

世界の運命を握ったオッペンハイマーの栄光と没落、その生涯とは。

 

今を生きる私たちに、物語は問いかける。

 

 

(映画『オッペンハイマー』公式サイトより)

 

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■全体評

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前述の通り、原爆や核について事の重大さや重さみたいなものは十二分に伝わる深遠な作品ではあるものの、直接的な反核のメッセージ性は薄めだと個人的には感じました

 

もちろん、この映画をしっかり理解すると、反核というメッセージがありありと浮き彫りになるんですが、直接的な被害の映像は皆無なので、その恐ろしさに観客全員が辿り着く訳ではない事を考えると、果たしてこれをどう日本人として受け取ると良いのか考えあぐねました。

 

───と、いう感じに1回目鑑賞後はなっていたのですが、これはもしかしたらノーランから人々への挑戦なのかも?と2回目の鑑賞で思いました。

 

オッペンハイマーのセリフで「われわれ科学者は理論の先に怖さを想像できる。しかし普通の、一般の人々は理解しない──それが使われるまでは」というものが出てきます。

 

ロスアラモス内で雨の中行われた討論会に、飛び入りでオッペンハイマーが参加するのですが、その時の「本当に投下する意味はあるのか?ドイツ・日本の敗北は見えているのに?人命を奪う理由に?」などの議論に彼が放り込んだ言葉です。

 

 

ここがオッペンハイマーが明確に核を落とすことを(その時は)容認していた場面であり、物理学者としてのエゴが頂点にあった時のように思えるのです

 

怖さを想像させる努力をし、理解のための努力をすべき世界へ舵を切らなかった瞬間とも取れる訳で。

 

そのシーンを提示しながら、今作でも明示的な恐怖を描かずに難解な内容で反核のメッセージを込めたのは、「もう、今の皆なら分かるよね?分からないとダメだよね?」というメッセージに聞こえました。

 

ただ、技巧故に、また描こうとした側面故に、遠回しであるため、予告のナレーションにあった「我々は今も、彼が変えた世界に住んでる」ということを実感はしにくいのはあると思います。

 

よくよく考えるとすごい怖いんだけどね、という。

 

 

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■映画としての『オッペンハイマー』

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物理学の話だったり政治の話が絡みつつ、時間軸も行きつ戻りつするので、難解な作品です。

 

しかも3時間w

 

事前にキャラクターと相関図を予習しておくのと、そもそも史実をある程度理解しておくと、より本作を堪能できると思います。

 

個人的には↓のような物理学や量子力学とは?という触りの触りを少し覚えてみる、みたいな事をしたのですが、それも鑑賞に役立ちました。

 

♪♪事前予習にオススメの動画

 

 

↓こちらはネタバレの解説記事となります。鑑賞後にお読みください。

 

【ネタバレ】映画『オッペンハイマー』複雑なストーリーを時系列ごとに徹底考察 | FILMAGA(フィルマガ)

 

 

そしてそして。

 

映画としての特徴といえば───『プレステージ』『ダークナイト』以降で特に顕著な、ラストシーンに用いられる編集のマジック(演出)、"ノーランタイム"。

 

時系列をシャッフルし、ラストに観客の感情を揺さぶる起爆剤(映像やシーン)をギュッと集める手法は今作でも健在。

 

劇中で起こることの全てが終わり、ストローズの不正が暴かれオッペンハイマーが後世で名声を回復したシーンを観てもなお、爽快感は皆無

 

妻のキティによる痛烈な一言や、アインシュタインの「こちら側へようこそ、地獄の門を開いた者よ」といったような死神的な発言を挟み、オッペンハイマーの自省の言葉で我々がいま住んでるこの世界の恐ろしさを提示して物語は幕を閉じます。

 

この余韻にむかって今作の全てが作られたと言っても過言ではない訳で。

 

観られた皆さんはどう感じ、何を考えましたでしょうか?

 

 

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■『オッペンハイマー』の"音"

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今回は過去作に比べても音響がすごく印象に残りました。

 

史実故に映像でトリッキーなシーンはあまりなく、どちらかというと「音」の演出が目立ったからかもしれません。

 

無音という音を効果的に使うことで原子爆弾が初めて爆ぜる瞬間の怖さを表していたり。

 

 

大歓声と共に鳴らされる賞賛の足踏みが、オッペンハイマーの心に重圧をかける不快な轟音に聴こえたり。

 

 

ルドウィグ・ゴランソンの変化球すぎるリズムの楽曲(たった数分の間に4回も5回もリズムが変わる!!)と、その音量の大小でぐっと観客をスクリーンに惹きつけたり。

 

そちらの演出の方が印象に残った映画でした。

 

 

そして、本作のサントラについて。

 

ハンス・ジマーとの名タッグから、ルドウィグ・ゴランソンとのタッグに移行して早くも2作目

 

TENET』のサントラも好きでしたが、オープニングの曲以外はあまりリピートして聴くくらいにはなれず。

 

今回のサントラはメロディアスなスコアが多かったですね。

 

 

あとは、どれか一曲が突出して、というよりは全体を流して聴いて雰囲気を堪能する仕上がりになってる気がしました。

 

それもあって全体を聴けるアルバム的なサントラになっています。

(とはいえ、めっちゃ分かりやすいメロディがある!って訳でもありませんがw)

 

その中でも比較的繰り返し聴いてる一曲をご紹介。

(これがまさに楽曲の中で何度もリズムが変わってる曲ですw)

 

 

 

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■歴史としての『オッペンハイマー』

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モノクロで描かれるFusionのパートは「水爆反対」を契機に対峙したストローズ氏の策略を中心としたパート。

 

ある意味このパートの主役はロバート・ダウニー・Jr.演じるストローズです。

 

 

Fusionで語られたことの根っこにあった出来事が、高等研施設近くの池のほとりで交わされたオッペンハイマーとアインシュタインの会話。

 

その会話に被害妄想を抱き、執着し、拗らせたそれを勘違いしたストローズ。

 

 

ストローズは所謂政治家であり策略家ですが、そんな彼が見ている個人の目先のエゴや嫉妬なんて軽く飲み込む恐怖──そしてそれはFissionのパートを経てオッペンハイマーやアインシュタインが気付いてしまった世界の終末──を予見させて映画は幕を閉じます。

 

 

ストローズの存在が現代の我々の暗喩で、そんな目先のことを見てる場合じゃないよね?と言われてる気がしました。

 

 

国務長官など含めて、投下目標地の選定会議のシーンは、不思議なほどモヤモヤしている自分がいます。

 

長崎や京都、東京や広島とどこに落とすか=どこの人間を殺すかという議論です。

 

これなんかよく考えると、否、よく考えなくても本来あってはならない議論ですよね…。

 

そうなった背景に旧日本軍の問題や、太平洋戦争に至るまでの日本人の取ってきた選択や行動もおおいに問題があり、すべてが連綿と繋がっていますが、それでも市井の人を誰かが平然と殺すための打ち合わせをしてたかと思うと、心がザワザワする自分がいました。

 

これがいわゆる愛国心と言われる気持ちなのか、人命が数字で扱われ軽視されてるように見えることへの反感なのか違和感なのか、未だに判断がついていません。

 

 

本作中、唯一救いというか気持ちが落ち着いたシーンがあります。

 

オッペンハイマーの盟友で、彼が去った後の原子力委員会の委員長も務めたイグジラード・ラビ氏

 

彼が、マンハッタン計画に参加するかしないかの際にオッペンハイマーに対して言います。

 

長年紡いできた物理学の行き着く先が、大量破壊兵器なのか?」と。

 

この言葉や態度が一番ぐっときました。

 

彼が言うこの問いが、本作中で唯一、且つ明確にこのプロメテウスの炎を生み出さんとする人や世相に背を向けるものだったからです。

 

 

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■あとがき

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それにしても、2023年から今年にかけて、映画界には不思議な縁が見えてましたね。

 

ゴジラ-1.0』と『オッペンハイマー』が同年公開となり、同じ年のアカデミー賞で賞賛を浴びた訳ですから。

 

オッペンハイマーがいなければゴジラの成り立ちは違った可能性もあるわけで。

(というかそもそも存在してなかった可能性もある訳で)

 

そんな両者が同じ年にアカデミー賞の受賞をして同じ舞台に立つというのは、歴史の皮肉とは思いたくないものですね。

なるべく長く永く平和が続き娯楽を享受できる世を願う、という人の気持ちが結実した結果と捉えたいです。

 

 

日本はアメリカとの距離は変わらないどころか近づいてる節があり、ロシアが戦争を仕掛けてる世の中です。

 

自分の子供の世代で自衛隊が軍に、隣国のように徴兵が義務化されるなんて世の中でないように、この両者が脚光を浴びてることを歓迎し慶びたいと思います。

 

 

最後に改めて。

 

長年ファンとして追いかけてきたクリストファー・ノーラン監督が初めてのアカデミー賞作品賞と監督賞などに輝いたこと、本当に本当に嬉しく思います!

 

え?まだ獲ってなかったんだっけ?!という驚きの声がたくさん聞こえてきた今回の受賞。

 

いやー、感慨深い

 

名実ともに現代の大巨匠となったノーラン監督、次は是非オリジナルの物語を!

 

 

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■予告編

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NEWオススメ最新作(※ネタバレあり)

 

“たゆたう”

 

この映画を観ながら、そんな感覚になりました。

 

映画を観るというより、作品の中に、空気に、物語の中でたゆたう。

 

それはなんとも言えない、得難い心地良さに溢れてました。

 

今年のランキング上位に入りそうな作品に出会えました。(嗚呼、嬉しい。幸せだなぁ)

 

奇をてらわず、丁寧な物語と人物描写でここまで人を魅きつけられるという事を大きく示した一作です。

 

『夜明けのすべて』

(2024)

 

 

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■『夜明けのすべて』あらすじ

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PMS(月経前症候群)のせいで月に1度イライラを抑えられなくなる藤沢さんは、会社の同僚・山添くんのある行動がきっかけで怒りを爆発させてしまう。

 

転職してきたばかりなのにやる気がなさそうに見える山添くんだったが、そんな彼もまた、パニック障害を抱え生きがいも気力も失っていた

 

 

職場の人たちの理解に支えられながら過ごす中で、藤沢さんと山添くんの間には、恋人でも友達でもない同志のような特別な感情が芽生えはじめる。

 

やがて2人は、自分の症状は改善されなくても相手を助けることはできるのではないかと考えるようになる。

 

 

(映画.comより)

 

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■全体評

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温かく、そして救いのあるお話

 

その救いや希望が押し付けがましくなく自分も手の届きそうな感じがするのがいい。

 

また、それがゆったりと提示される感じも心地いい。

 

会話のトーンや、言葉の尻切れ感がとても地に足が着いており、昨日や今日に同じような会話を自分がしたかもしれないと思える。映画との距離感を近く感じられる作品です。

 

 

ちなみに本作、ラブストーリーではありません

 

タイトルやポスターだけだとそう捉える人も多いかと思いますが、生きにくさを感じながらも自分の人生を歩んでいくふたりの主人公がいて、彼らの日常をゆったりと描いたヒューマンドラマです。

 

 

最初は距離があったふたり。

 

それぞれ事情を抱えながらも生きていた。

365日ずっと辛い訳じゃない。

でも生きにくさの方が勝ってしまう、そんな人生。

 

そんな二人が、自分を助けることはできないけど、自分の近くにいる人なら少し助けられると、ベクトルを変えることで物語がグッと色づいていく感覚があります

 

※画像

 

少しずつ同僚として気心知れた存在になっていくその過程、やはりそこに本作の魅力が詰まってます。

 

そんな本作の魅力的な描写やポイントを、たくさんあるうちからいくつか切り出して紹介したいと思います。

 

 

■大好きなシーン:やっちまった藤沢さん

これは映画観た人の多くが好きだと思いますが、映画が動き出すシーン。

 

パニック症候群のため電車に乗れず、美容院や床屋に行けないので家でひとりで髪を切ろうとしてた山添くん。

そこに居合わせた藤沢さんが切ってあげようとするものの、案の定失敗しちゃうという一連の流れ。

 

ここが良かったなぁ。

何かが始まりそうな、いい方向に変わっていきそうな予感やワクワクを感じました

 

 

いやー、それにしても藤沢さんの不思議な人物像。

 

距離のある後輩の家に行って自転車をあげると言って、さらには自分できるの大変だから髪切ってあげるよと言って家に上がるというw

 

この辺りの大胆さや過ぎた老婆心みたいなものが、この藤沢さんという人物をよく表していますよね。

(映画の後半で山添くんの彼女にバッタリあった時も、初対面なのにお守りをどうぞって言えるあたりとかも正にそう)

 

 

でも、そのおかげで髪バッサリ事件が起きて、二人の人としての心の距離がグッと縮まる訳です。

 

こういう起爆剤ってあるよなーというか必要だよなーと思います。

それがたまたまあることで、並行線を辿っていたかもしれない人同士が思わぬ関係性への扉を開いたりするものです

(というか基本的には他人って何かきっかけがなければ流れていってしまうものですよね)

 

こういうのっておそらく形を変えて、多くの人の人生や日常で起きていることではないかと思うのです。

 

なので体感や体験として理解できる展開な気がしています。

 

 

■大好きなシーン:描かない描き方

藤沢さんが体調悪くなって早退した際、山添くんが忘れ物を届けにきてくれます。

 

好きなのはその後。

 

藤沢さんはほんのちょっぴり元気になってベランダで伸びをし、山添くんはもらった自転車で会社に再び戻っています。

 

その場面で(LINEなどでしょうか)お互い何かスマホで連絡しあうんですが、どんなやり取りをしたのかは描きません。

 

でもそのスマホを観るそれぞれの表情でそのシーンは完結しています。

 

この詳細を映さないのがいいんですよね〜〜〜。

 

詳細は分からないけど、きっと気の置けないやり取りをしたのだろう、というのが表情でわかります。

 

 

このような、こちらの想像力に委ねてくれる演出が一部あると、自分にとってその作品が豊かになるような気がします

 

 

■大好きなシーン:イジり合い ならぬ イジり愛

映画の後半、気心しれたふたりが、お互いにPMSとパニック症候群をイジり合うシーンがあるのですが、そこがきゅんきゅん来るんですよねぇ。

 

「いや、自分パニック症候群なんでw」「パニック症候群の人って土日も働きたくなるの?」etc.

 

当事者で且つ気心知れた仲だから言えるジョークとなっており、ユーモアあり温かみあり、ドラマが進んでいることを示すとても良いシーンだなと感じました。

 

 

 

■音楽

映画冒頭からかかるBGMが素晴らしい!

 

おそらく本作のスコアとしては、その冒頭の1曲しかないのではないでしょうか

劇中で繰り返し繰り返しかかります。

 

映画を観終わった後、脳内にその音楽がずっと流れてる、それくらい印象に残る楽曲でした。

 

決してメロディアスなものでもないし、どちらかというとヒーリングミュージック的な側面もありそうなスコア。

 

それでも映画の雰囲気を的確に捉えて音にしており、映像や物語との相乗効果もあって、観客の耳と心を捉えて離さないサントラになっています。

 

あー、iTunesにもYouTubeにもないのが残念・・・。

 

公式ではないですが、同じくこの楽曲に魅力を感じた方が完コピされている動画を見つけたので貼っておきます。

 

 

未見の人には、この映画はこういうリズムのこういうテンポの作品ですと言うのが一番伝わるかもw

 

 

■キャスティング

いやー、脚本と演出の上にこれだけ巧い役者さんたちが乗ったら、そら名作になるわな、という感じです。

 

藤沢さんを演じた上白石萌音、本当に稀有な存在ですよね!

 

少なくとも見えてる範囲で、本当に素敵な人柄なんだろうということ。

歌ウマすぎ

演技もうますぎ

ビジュアルや存在感、空気感含めて唯一無二

 

最強だわ。。。

 

 

気を使いすぎるほど気を使う人なのに、PMSで突然の感情の爆発を抑えられず、ずーっと周囲との関係値のチューニングをしている。

気を遣いしぃなのに抑えられない感情をぶつけてしまって、またさらに気を遣い萎縮する。

そんな負のスパイラルに陥りながらもがく藤沢さんを、まさに”体現”していたと思います。

 

 

そして山添くんを演じたのは松村北斗

私個人は今回この作品でほぼ初めましてとなりました。

 

いやー、役柄についての理解が深くて、脚本からの再現度とか表現度が高いんだろうと想像させる役者さんです。

 

 

「今のような職場にいるのも本当はプライドが許さない。

しかもそこにいる同僚の女性から自分の病を同列のような捉えられ方をするのも少し癪に障る。」

 

言葉にはしていないけど、確実にそう思っているであろう態度を、台詞の言い方一つ、表情ひとつで表現し切っていました。

 

お見事でした!

 

 

そのほかのキャスティングも完璧!

 

こんな職場あったら良いなーと思わせる「栗田科学」の社長は安定の光石さん

 

 

山添くんをつかず離れず見守る元の職場の先輩役に渋川晴彦さん

 

 

PMSの症状が出た時に柔らかく藤沢さんのケアをし、後日、本人から周囲へのお詫びの品の申し出に「こういうのは決まりになっちゃうと良くないからいいのよ」と気遣いつつ、でももらえて嬉しいと前向きなリアクションをしてくれる副社長で経理の住川さんを演じた久保田磨希。名脇役すぎました…!!

 

 

出てくる子役たちもよかったですねぇ。

 

前述の住川さんのお子さん・ダンくんと、彼と同じ部活の柳沢さん、渋川晴彦演じる辻本さんの息子さん。

彼ら全員がこの親にしてこの子あり、の雰囲気を纏って主人公ふたりをとりまく温かい空気を形成してました。

 

 

改めて、役者さん全員素晴らしかったです。

 

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■あとがき

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物語のラストに、藤沢さんは故郷に戻って働く選択をしますが、その転職が決まったことを山添くんに伝えてサラッと「お、よかったっすね」と返すやり取りがすごくジーンと来ました。

 

なんとなくそこまで頼れる相手がいると、今度はその存在がなくなった時のダメージの大きさや、前の状態に戻ってしまうのでは?というのを危惧してしまってました。

 

 

物語中盤から藤沢さんが転職活動をしている様子が差し込まれるのですが、それを伝えた後にショック受けて…というひと波乱が待ち受けているのでは…とすこしドギマギしながら観ていた自分がいます。

 

でも、藤沢さんという存在がいなくなったとしても、山添くんにとっては「栗田科学」が拠り所や「場」になってるという、彼自身が一歩前に進んで生きやすさを手に入れてるというのを、あの「あ、よかったっすね」というカラリとした温度感が伝えてくれてました。

 

 

いやー、好きです、この映画が

 

ワタクシ、なんとなーく癒しが欲しい気持ちになった時に『海街diary』を観るのですが、この度、そこに今作が加わりました♪

 

 

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■予告編

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