№17
日付:2022/5/22
タイトル:マイスモールランド
監督・脚本:川和田恵真
劇場名:小田原コロナシネマワールド SCREEN7
パンフレット:あり(\900)
評価:6点

 

埼玉県在住のクルド人一家に突如下った難民申請不認可の通達。日本での在留資格を失うことを意味するこの決定により、その日から県外への外出も就労も禁じられた(「仮放免」と呼ばれる、収監されない代わりにあらゆる公的サービスを受けられない生殺しのような措置)一家の受難。

小中高と日本の学校に通い、大学進学も目指している長女サーリャの視線を通して、日本という国の不寛容さと排他性を浮き彫りにしながら、この国の住民として普通に生きていこうとしているだけの彼女たちの差し迫った日常を描いた本作。

 

一家を支えつつ、自分の夢に向かって努力を続けていたサーリャ。そんな彼女に特段の悪意を持った日本人は1人も登場しない。そこにいるのは1%の理解者と、99%の悪気なく彼女たちの居心地を悪くする老若男女。

これが長編映画デビューとなる川和田監督は、この問題を題材にしながらも、家族と共に日本に身を寄せるクルド人高校生サーリャの身に起こった日常として描き切ることで、社会問題を扱った作品以前に人間ドラマとして成立させている。

 

同じ境遇の同胞としか付き合えない父親とは異なる、子供たちのこの国での生活。サーリャは仲良しのクラスメートと過ごし、クルド人と地域住民の仲介役を果たし、亡き母の代わりに弟妹の世話もしながらバイトで学費を稼ぐ日々。劇中で友達が吐く「私も色々あるんだよ」という一言の軽さが、観客にも跳ね返る。

 

これが映画初出演となる、サーリャを演じた嵐莉菜ちゃんの存在感が本作の世界観を支えている。彼女が淡い恋心を抱く、真っ直ぐで偏見のない聡太(奥平大兼)との交流が、救いようのないお話の中で一服の清涼剤のように効いてもいる。ありがちなエピソードの積み重ねを、そう感じさせない鮮度を保つ演出とカメラワークで魅せる。

 

全てが八方塞がりの中で、父が下す決断と娘の覚悟。

監督も出演者も、海外にもルーツを持つ人たちだからなのか。クライマックスの父と娘のやりとりが真に胸に迫る。そしてラストショットが物語る彼女の決意。サーリャに明るい明日が訪れる事を願わずにはいられない。

 

 

日本の難民認定者数が少ない問題について改めてネットで調べてみると、目にするのは感情的な論調の支援弁護士の主張と、心の籠らない国側のお役所答弁ばかり。説明不足で統一感のない数字は情報の誠実さを毀損し、この問題に後ろ向きな国の姿勢を糾弾する事例も論理性と説得力に欠ける。UNHCRのサイトですら、どこか親身になっていない気がするのは私だけ?

戦火を逃れたウクライナの人々を受け入れると表明する一方で、長年にわたり進展しないこの問題。外ヅラと内ヅラを使い分けているかのような国の姿勢に嫌気が差す。この映画を観終わった後だと余計にじれったさを感じてしまった。

 

 

この一家、全員本当の家族です

 

 

 

パンフレット

チラシ