№12
日付:2022/3/27
タイトル:ベルファスト | BELFAST
監督・脚本:Kenneth Branagh
劇場名:TOHOシネマズ小田原 SCREEN5
パンフレット:あり(\880)
評価:6点

 

北アイルランドの首府ベルファスト(Belfast)は、かつては造船の街としてあのタイタニック号をはじめ歴史的な船がいくつも造られたらしい。今も北アイルランド最大の観光都市として栄えている美しい街並みから、半世紀前に時計の針が戻される。名優ケネス・ブラナーが自身の幼少期の記憶を映像化した、自伝的物語なのだそう。

 

生まれ育った街ベルファストの平穏な日常に、ある日突然暴力と破壊が押し寄せてくる冒頭は、連日報道されるウクライナの惨状とどうしても被って見えてしまう。

ただこの作品で監督が描こうとしたのは、生まれ故郷への望郷。街は荒み失業率は上昇し生活が苦しくなろうとも、バディ少年の日常は、恋心を抱くクラスメイトへの微笑ましいアタックであったり、当時のアメリカのTV番組や映画に目を輝かせ、お爺ちゃんに可愛がられ、お母さんに怒られる毎日。

オスカーにノミネートもされた爺ちゃん役のキアラン・ハインズ、ノミネートこそジュディ・デンチに譲ったものの、生活を守ろうと奮闘する母親役のカトリーナ・バルフ(「フォードvsフェラーリ」でもクリスチャン・ベイルの妻役で存在感を発揮していましたが、本作も素敵です)、そしてこれが映画デビュー作とは思えないバディ少年役のジュード・ヒル、、、英国とアイルランド出身の名優たちによるユーモアに溢れた会話劇が本作の魅力。

9歳のバディ少年の視線を通して当時をある意味懐かしく振り返る監督の望郷の念は、故郷を離れた経験のある者の心に等しく沁みてくる筈。

 

そのクライマックス、隣人や身内と共に地元のパブ?で弾けるお父さんの歌声とお母さんのダンス("Everlasting Love"最高!)。プロテスタントでありながら反カトリックではない父親がバディに言ってきかせる言葉。祖母役のジュディ・デンチが息子一家に手向ける最後の言葉。ベルファスト出身のヴァン・モリソンが奏でる劇中曲。どれもこれもが実にイカしていてスマート過ぎるぐらいスマート。監督の故郷愛に溢れた作品でした。

 

こういうご時世なのだから、本作にオスカーあげてもいいじゃないかと思いながら、在宅勤務の合間に授賞式の模様を眺めていた(ウィル・スミスがキレた瞬間見損ねた!)。

キネマ旬報年間ベストテンにおいても当時「東京物語」は第2位で「七人の侍」は第3位。名作が真の評価を勝ち取るのは、時を経てからで一向に構わないのだ。

 

 

 

 

 

 

 

パンフレット