映画の記憶・・・と記録-抵抗
  
昔の映画ってお勉強モードで観に行って、お勉強モードで終わってしまう場合が結構あります。「天井桟敷の人々」という、キネマ旬報の日本公開映画外国映画史上ベストワンに選ばれた作品なども、うちの父親は20回以上観たらしいのですが(青春の1ページだそうです)、私はそのスケール感にこそ圧倒されたものの、ただそれだけの作品でした。

 

1957年に初公開された本作品。

ナチ占領下のリヨン。捕えられ、死を待つばかりの青年の脱獄への執念を、彼のモノローグと共に延々と描き続ける。閉塞感と諦めが充満する牢獄の中で、一人ひたすら自由を求め淡々粛々と準備作業を遂行する姿を、彼の隣りに座っているかのような目線でカメラが追う。

 

彼の脱獄に向けた準備の周到さをネチッこく追う事で増すリアリズム。その一方で悪化する周囲の状況に追い詰められていく青年。計画の完璧性か、スピードか・・・

捕えられた"同僚"達との交流を求める彼の行動と、密告者の存在に怯える我々観客。あたかも彼の傍らに居る"隣人"の一人として、息詰まる展開を共有する事に。

 

最後の最後まで目が離せない緊迫感。ラストに訪れる脱力感。"FIN"の文字が唐突に流れる余韻の無い終わり方などは古臭さも感じますが、些細な事。50年以上前の作品が未だに失わずにいるフィルム力(ぢから)に感服しました。

 

映画の冒頭に、

「これは実在の話である。私はこの物語を飾ることなくありのままに提示する」

という監督の言葉がテロップとして流れます。ナチの蛮行がこの作品のバックボーンとして大きな意味を持っているのは事実。

そして職業俳優を排し、素人を起用しての映画作り。映画制作としては異端な姿勢と手法で臨むこの監督の作品が(自身自らの作品を「シネマトグラフ」と称し差別化を図っていたらしい)、輝くスターも、記憶に残る名シーンもないままにこれだけの時を経て凄味を失わない点が更に興味深い。

この作品と双璧をなすと言われる、ジャック・ベッケル監督の「穴」も是非観てみたくなりました。

 

時代を超えて映画という表現手段の存在感を証明してくれる本作品に敬意を表して。

 

№10

日付:2010/4/1

タイトル:抵抗 | UN CONDAMNE A MORT S'EST ECHAPPE OU LE VENT SOUFFLE OU IL VEUT

監督・脚本:Robert Bresson

劇場:岩波ホール(閉館)

パンフレット:あり(\600)

評価:★★★★★

 
映画の記憶・・・と記録-抵抗(パンフレット)
パンフレットは前回上映「海の沈黙」とセット
映画の記憶・・・と記録-入場チケット
入場チケット