「足無し禅師 本日ただいま誕生」(※)。

これは、若い頃私が勤めていた出版社で出した本の題名です。

「本日ただいま誕生」という言葉を、私は大事に、生きる力にして生きていたのですが、心理学で「再決断療法」を学んだ時、「本日ただいま誕生」とは、まさに「再決断」のことだと思いました。再決断とは、その名の通り、「もう一度、決断し直す」ことです。再決断をして、新しく人生を生きていくことです。

 

まずは、本の紹介をしますね。

「本日ただいま誕生」は小沢道雄禅師の自叙伝です。

小沢氏は山梨県生まれ。昭和15年に20歳で招集され、満州で終戦を迎えました。

シベリヤ抑留中の凍傷が原因で両足を切断。26歳で帰国。貸本屋、リンゴ屋を開くと、その笑顔と才覚で商売繁盛。事業運営などに関わります。しかし事業が失敗、私生活でも破綻。絶望のどん底から義足で托鉢行脚を始めます。

 

托鉢でのエピソードや書かれる文章がまたおもしろいんです。

やくざの親分に畏敬されたり、身寄りのない老婆が養老院に入れるようにと二人でひと芝居を売って救急車を呼んで運んでもらったり、冬の間は寒さをしのぐために伊豆の洞窟で十四名の乞食と一緒に暮らしたり・・・。

その波乱に満ちた人生は映画やドラマにもなり、「足無し禅師」とも呼ばれました。

 

この本は内山興正老師のすすめにより書き始められたもので、昭和51年に柏樹社より発行されるとまたたくまに版を重ねました。その後平成10年に光雲社より再編集されたものが発行されました。そして、令和4年には大真から発行されています。

縁があればご一読をおすすめします。

 

さて、本の題名になった「本日ただいま誕生」ということばについて。師の文章から引用します。

  “観音は私を見捨てた。観音は私を裏切っている。もう祈ることを止めよう。こう

  心に思い決めたとき、その心の底のほうから、ひらめきに似た別の思いが沸き上

  がってきた。

  苦しみの原因は比べることにある。比べる心のもとは二十七年前に生まれたとい

  うことだ。二十七年前に生まれたということを止めにして、今日生まれたことに

  するのだ。両足切断したまま今日生まれたことにするのだ。両足切断したまま

  今日生れたのだ。今日生まれたものには、一切がまっさらなのだ。

 

  そうだ。確かにその通りだ。本日誕生だ。それで一切文句なし。足がどんなに痛

  くても、痛いまんま生れたのだ。たとえ両足がなくても、動けなくても、足のな

  いまんま、動けないまんま生れたのだから、何も言うことなし。この足のない動

  けない状態がはじまりなのだ。

  ここまで思い至ったとき、私は無意識に、南無観世音大菩薩!と心の中で叫んで

  いた。”

 

さらに、師は、3つのことを心に決められます。

  “1.いつもにこやかにしていよう。

   1.ものを頼むとき、自分は両足がないから当然だ、という態度はとらないよう

    にしよう。

  1.有難う、と必ず感謝しよう。

  この3か条は、いわば人の助けを借りねば生きていけない私の、生活の知恵でもあ

  る。(中略)「ようし!これで行こう!いや、俺にできることはこれしかないん

  だ!」私はここに思い定めると、心の中に初めて希望のようなものが湧いてき

  た。そして事実それからは毎日がかなり順調にすべりだしたのである。”

 

今回はここまでにします。再決断療法については次回に紹介いたします。

 

(※)小沢道雄「足無し禅師 本日ただいま誕生」柏樹社(1976) ,光雲社 (1998) ,

                       大真 (2022)