久しぶりにチョ・ソンギュ監督作品群に戻ろうと思いましたが、これがとんでもない間違いだったという顛末…”マルチバース” ”グルメ” ”カンヌン(江陵)”大好き監督ですがもう一つの嗜好”下半身”だけの群像xx劇…「多重不倫」

 

ベッドで男女が激しく絡みあっている…大学、美術学教授キム・ジュンベの教授室、壁には教授の作品展ポスターが並んでいる。ソファでは後輩スニとの結婚を控える助教授ヒョンデが寛いでいるが、キム教授から次期教授に選ばれなかったと聞き激怒する。結婚式を挙げ新居での生活が始まったヒョンデだが、そんなことで彼の浮気性が治るはずもなく、元セフレ、ミンジュの職場である放送局へ会いに向かう。しかしミンジュは冷たく全く相手にしてくれない。そんな彼にキム教授は”生涯学習センター(≒市民講座)”への三年間の出向を命じる。教授職への人脈作りに必要だと言う。ヒョンデに逆らう選択肢はない。”生涯学習センター”では中高年女性中心の美術学講座を受け持つが、受講生の中に美しい人妻ミスクの姿がある。またまたヒョンデの浮気心に火がつくのだが、その先に泥沼のような未来が待っていることをヒョンデはまだ知らない…

 

売れない画家である上に教授職にも恵まれない美術学助教授ヒョンデに、出演歴は多数ありますが端役ばかりのイ・サンウォン、美形アナウンサーのミンジュに、監督作「長い一日」で凛とした演技を見せたチョン・ダウォン、ヒョンデの先輩で指導教授キム・チュンベ教授に、そのド迫力は20世紀の「NOWHERE」「アタック・ザ・ガス・ステーション」から健在のイ・ウォンジョン、美術講座受講の人妻ミスクに、端役では見た筈のイ・ユミ、妖艶なギャラリー館長ヨンヒに、同じくハ・ジュヒ、産婦人科医師でヨンヒの夫チョルスに、同じくシン・ジョンユン、元美術学生でヒョンデの妻スニに、ベラボーにキュートなハ・スミン、キム教授の色っぽい助手ミンジュンに、映画デビューらしいクム・チェアン。

 

映画を観る時は人間関係を理解するためメモを取ることが多く、役名が出て来ないときは男の登場人物なら”♂1”(もしくは俳優名)とか書いたりするわけですが、本作品では♂3人、♀5人が登場して1:1ヘテロ関係に限っても15通りの関係が発生し得るわけで、彼らを線でつないでいく内にメモ帳が真っ黒になるというとんでもない作品だったわけです。監督お得意のマルチバース的にいえば、不倫が当たり前の世界で不倫を止めようとしたらとんでもないことになりました、ってなお話をでっかいボカシで覆われたあまたの濡れ場で描いている、といった感じでしょうか。これには原作があって、2012年に発表されたカン・ドハ作家の原題と同題「発光する現代史」というウェブトゥーンで2014年にはアニメ化もされたようです。だからかもしれませんが、一見無茶苦茶のように見えながら、8人の(殆どが)下衆な登場人物たちは良く描き分けられているように思います。ここからはこのブログの約束を破ってナムWikiの解説を一部パクリますが、原作者は登場人物たちにある種の役割を与えた、とする解釈です。中心にいる男性主人公ヒョンデ(現代)は時代を、女性主人公ミンジュ(民主)は歪んだ政治体制を表し、教授に凌辱されるのは女性助手ミンジュン(民衆)だというわけです。さらに、教授は権威、医師はインテリ、ギャラリー館長は富者になぞらえているとしていて、思わず、なるほど、と膝を打った次第です。勿論タイトルにある”現代史”は主人公ヒョンデにかけているわけです。思い切り好意的に解釈すると、キム・ソンギュ監督はちょっと寓意的で或る種マルチバース的な物語に挑戦してみたかったんだ、と曲解することも微かに可能性はあるかもしれません。

 

とはいえ糞映画であることに一点の曇りもありませんので、そこは誤解なきよう…あちこちで配信はされていますが、余程の事情がない限り近づかない方が身のため、というのがごく自然な解釈と思われます。