ホラーついでにキム・ガンウという実力派が初めてホラーに挑戦したと聞いたので…廃墟と化した修練院(≒研修センター)という閉鎖空間に様々に残酷な時間が混然となって繰り広げられる不条理ホラーの秀作…「鬼門 -クィムン-」

 

”退魔(テマ:除霊)” ”地縛霊” ”プルバ(金剛杵:退魔に使われるナイフ状の法器)” ”鬼門(クィムン:生者と死者をつなぐ門)”という物語に重要な役割を果たす四つの概念が短くキャプションされる…2002年現在。閉鎖されてから12年間で廃墟となったクィサリ修練院(≒研修センター)の解体工事中、一人の作業員が壁の中に隠された遺体を発見する。それを伝えるニュースを見ていたその作業員は何者かに襲われるかのごとく錯乱し包丁を持って町中に飛び出していく…1998年その研修センター。凶事が続くため建物の前に設置された祈祷場で女巫堂(ムーダン)が祈祷を激しく舞っている。祈祷がピークを迎えた時、女ムーダンはセンターの管理室にワープする。そこには研修センターの管理人キム・ソクホが書いた1990年の宿泊名簿があり、そこに書かれた宿泊者の名前を見ていると無数の黒い手が彼女を搦めとる。1990年管理人のキム・ソクホはその時宿泊していた人々を惨殺するという事件を起こし、その後自殺したのだ。そして女ムーダンは祈祷場で自らの頸にナイフを突き立て、その手には血にまみれた宿泊名簿の一部が握られている…2002年2月11日(旧暦大晦日)ドジンは悪夢から目覚める。彼は死んだ女ムーダンの息子でやはりシャーマンの能力を持っている。惨劇の解決を引き継いでほしいとのあの世からの母親の声に、ついにあの事件を解決する決意を固める。そしてSUVに乗り込み、廃墟クィサリ修練院を目指す。そしてそこで待っていたのは…

 

ムーダン(巫堂)の家系に生まれたドジンに、ホラー作品は初めてという実力派キム・ガンウ、【1996年ホラー動画撮影のため廃墟クィサリ修練院に忍び込んだ三人の若者】紅一点ヘヨンに、五つ星「ユンヒへ」で絶妙の演技を見せた”I.O.I”出身キュートなキム・ソヘ、慎重な二枚目テフンに、実質的に映画デビューのイ・ジョンヒョン、三枚目ウォンジェに、脇役では見た筈のホン・ジンギ、ある因縁に苦しむ美少女霊ミリンに、「The Call」でパク・シネの少女時代を演じたオム・チェヨン。

 

韓国人ブログを見ると、この作品は4DX(動きや匂いなど体でも感じる上映)及びScreenX(270°三面スクリーン上映)を前提に作られているようで、それぞれにエンディングも異なるようです。勿論そんなことは出来ないので普通の2D鑑賞ですが、そうだとしても、エンドロールで思わず”原作”はないか探したくらい良く出来た世界観を創り上げていると思います。12年間閉鎖され朽ち果てた廃墟の中に、惨劇のあった1990年、若者三人が忍び込んだ1996年、女ムーダンが惨死した1998年、そして現在2002年という(実はもう一つの時間もあるんですが…)四つの時間が混然と流れながら、惨殺された宿泊者たちの地縛霊、殺人鬼の怨霊、謎の美少女霊が蠢く時空間は、カフカ的独特の不条理観を醸し出していて、個人的にはかなり魅力的に感じます。例えば朽ち果てたドアを開けるとそこは整った客室だったり、階段を上がっても降りても同じ階だったり、みたいな倒錯感は、ホラー映画というより、最近流行りのマルバースSFに近い感覚をもたらしたりするわけです。そこが魅力の作品だと思うんですが、逆にいうと、理路整然とした論理的展開は期待するだけ無駄なわけで、その辺りが観客の好き嫌いを分けるでしょうし、事実10万人も集められず興行的には惨敗という結果に終わったんだろうと思います。個人的には、弱すぎず強すぎもしないキム・ガンウの主人公造型も好みですし、溌溂としたキム・ソヘ、悲劇的なオム・チェヨンという二人の美形もキュートな仕事をしているので、もう少し多くの人に観てもらっても…と思ったりします。

 

”城”との不毛な闘いを描いたカフカの小説を彷彿とさせる”不条理SF的ホラーの秀作”とでも呼べるんではないかと思ったりしますが、さすがにいくつも残るモヤモヤ感がモゾモゾするので五つ星にやや及ばずという感じでしょうか…