無茶苦茶ムリがありますがあの世からの”甦り”つながりで…YouTubeで全編観ることが出来る韓国初のゾンビ映画とされる1980年の珍作…「怪屍(クエシ)」

 

金浦国際空港。アメリカ発のジャンボ機からサングラス姿の美人が降り立つ。5年ぶりに姉に会いに帰国したイェ・スジだ。スジは車を飛ばして姉が住むソラク(雪岳)山(韓国北東部)へと向かう。そのソラク山ではカウボーイ姿の台湾人環境学者カン・ミョンがペクダム(百潭)寺で開催される国際環境会議に出席するべく山道を歩いている。カン・ミョンが道端でトウモロコシにかぶりついているとスジの運転する車が水しぶきを浴びせかけ、そのまま通り過ぎる。怒るカン・ミョンだが、車はバックして来て、スジが”スリ村はどっち?”と平然と聞く始末だ。案内する代わりに同乗したカン・ミョンは通り道で奇妙な立て看板を見つける。そこには”電化研究所”とある。ちょっと様子を見てくる、と山道に分け入るカン・ミョンはやがて高いアンテナ塔とテント基地を見つける。中から出てきたのは旧知の科学者ジュンスだ。再会を喜び合う二人だが、ジュンスは塔から発信する超音波で害虫を駆除する実験中で、今は1km範囲に照射中だと言う。一方車で待っていたスジは美しい景色に辺りを歩き回るが、覗き込んだ美しい花の向こうから恐ろしい形相の男が飛び出してきて、両手を前に突き出しスジを追ってくる。必死で逃げるスジは戻ってくるカン・ミョンと出会い、車に戻るが恐ろしい形相の男の姿はない。一方、山奥の一軒家ではスジの姉ヒョンジと夫ヨンテが夫婦喧嘩中だ。夫の写真熱にヒョンジがキレたのだが、ヨンテはカメラ機材を持って山の方へ出かけてしまう。妻ヒョンジもその後を追うが、二人を待っていたのは…

 

【俳優と役柄が分かった三人だけですが…】アメリカ帰りの美形スジに、出演作はこの1本のみユ・グァンオク、台湾人環境学者カン・ミョンに、台湾の武術俳優らしいカン・ミョン(江明)、坊主頭の刑事に、「イオド(異魚島)」準主演など出演作品あまたの名優パク・アム。

 

韓国初のゾンビ映画として近年再注目されVHSが手に入らないといった現象も起き、富川ファンタスティック国際映画祭でも上映されたという珍品ですが、調べると外国作品の無許可コピーのようです(詳細は後述)。ともかくそのことは一旦忘れて、韓国映像資料院(KFA)が相当に手間暇かけて(巻末にリペアのエンドロールが流れます)デジタル・リマスターしているので、それなりに映画史的価値はあるんだろうと思います。しかしながら今の視線で見ると、映画評論家が試写会途中で寝てしまった、という逸話もあるレベルの作品なので迂闊には近寄らない方が無難でしょう。まぁ何でも最初はあるもので、作中のゾンビはキョンシー(殭屍)さながらに両手を前に突き出して迫ってきますし、人を襲う時は首を絞めますし、極めつけはニヤリと笑ったり、と想像を絶する造型で、「新感染」「王宮の夜鬼」などなど五つ星ゾンビ映画を知る観客には、相当に寛容な気持ちで観てあげてね、と言わざるを得ないでしょう。ただエンディングは、どうせ美男美女の主人公だから…という予測に反して結構辛口不条理になっていて、ジョージ・A・ロメロや現代韓国ゾンビ映画へのつながりを感じないわけではないかもしれません。

 

剽窃の上チープということで韓国映画史的価値以上のものは見当たりませんが、うん勉強したぞ、という気持ちになりたい時などあれば、観てみる、という暴挙もありかもしれません。

 

ちなみに、韓国映像資料院の努力の成果として、英韓字幕付きで、YouTubeで全編観ることが出来ます。【괴시(1980) / A Monstrous Corpse (Goesi) (1980)】。画面が暗いシーンは別として、リペアとしては相当の出来栄えといって良いと思います。

 

さてオリジナルですが、スペイン・イタリア合作1974年「悪魔の墓場」(”Non si deve profanare il sonno dei morti(死者の眠りを冒涜してはならない)”)でUnextなどで配信されています。つまみ食いして観てみましたが、二人が出会っての車中の会話までそっくりなので、これは剽窃と言われてもやむを得ないでしょう。ただ、ヒロインがベラボーに美人、相手役は何と一時期日本で大人気だったレイ(レイモンド)・ラブロック、刑事役はあの超名脇役アーサー・ケネディとなかなか侮れないレベルかもしれません。レビューを読むと相当にきついゴア描写があるようですが、韓国版は検閲で相当切られたみたいで、そこもそっくりだったんだろう、と想像されます。オリジナルでもゾンビが両手を前に突き出して歩いてたりするので、キョンシーの真似じゃなかったんだぁ、と思わず笑みを浮かべることもできたりもします…