イ・ソンビンが相当に魅力的なので、もう一本、「ある日突然4番目の物語 死の森」「釜山行き(邦題:新感染 ファイナル・エクスプレス)」に次ぐ三本目の五つ星韓国製ゾンビ映画…「王宮の夜鬼 (原題:猖獗(ショウケツ):悪いことがはびこること、蔓延)」

 

済物浦(チェムルポ:現在の仁川(インチョン))沖、西洋帆船が炎上している。船上では襲撃した男たちの一人が何者かに咬まれる。男たちは船に積んでいた600丁の最新式火縄銃を小舟に積み込む。咬まれた男は上陸後、次第に変貌し人肉を求めるようになる。一方、銃を奪った男たちは朝廷に捕らわれ、何のための銃で誰が黒幕か拷問して問われるが、男たちは口を割らない。この状況を知ったイ・ヨン王子は、忠臣パク従事官に、清にいる弟イ・チョン王子宛の手紙を託し、自ら父親である王の前に進み出る。イ・ヨン王子は、銃は暴虐を尽くす清を追い出すためのもので、自分が黒幕だと自白し、自害して果てる。やがて、兄からの手紙を受け取ったイ・チョン王子が従者ハクスと済物浦に着く。そのことを知った王宮奪取を企む兵曹判書(ピョンジョパンソ≒国防大臣くらい?)キム・ジャジュンはチョン王子に刺客を送る。チョン王子が刺客と戦っていると、そこへあの咬まれた男から感染した大量の夜鬼(야귀:ヤグィ≒ゾンビ)も襲ってくる。こうしてチョン王子は、心ならずも宮廷の強大な逆賊と大繁殖する夜鬼を相手に絶望的な戦いに身を投げうつことになる…

 

イ・チョン王子に、もはや名優の正統派二枚目ヒョンビン、悪辣な兵曹判書(ピョンジョパンソ)キム・ジャジュンに、かつての韓流四天王の一人チャン・ドンゴン、チョン王子と行動を共にする従事官(チョンサグァン)パク・ウルリョンに、最近名演が続くチョ・ウジン、チョン王子の従者ハクスに、彼も出ずっぱりチョン・マンシク、ウルリョンの妹で弓の使い手トッキに、今回も魅力炸裂イ・ソンビン、朝鮮王に、渋いキム・ウィソン、王の美貌の側室ポクシルに、「女高怪談4(邦題:ヴォイス)」でキム・オクピンと共にデビューした元美少女ソ・ジヘ、身重の亡きイ・ヨン王子の王太子妃に、清楚な美形ハン・ジウン。特別出演では、自害するイ・ヨン王子に、性格俳優キム・テウですが、エンドクレジットでは、「そして キム・ジュヒョク」と記されていて、キャスティングされながら突然の事故で早世したキム・ジュヒョクへの哀悼の意が表されています。

 

この先を観るのが勿体ない、と停止ボタンを押し煙草を吸いに立つことが何度もあることは滅多にありません。まず脚本が見事です。済物浦と王宮という、二か所のある意味密室を使い、そこにひしめく逆臣や夜鬼の大群との闘いは尋常ではないサスペンスを生み出していきます。身重の兄嫁や三田の盟約といった清との複雑な関係も上手くストーリーに組み込まれています。役者も天晴れです。ヒョンビンは、夜鬼に囲まれながらも、アイリーンに似ているので無理ありませんが、トッキを口説くなどという陽キャラに設定されていて、それが独特の雰囲気を画面に与えていますし、彼を支える従事官チョ・ウジン、従者チョン・マンシクが浪花節風で共感大ですし、射手イ・ソンビン、王太子妃ハン・ジウンが美的で凛としていて痺れることもできます。

 

強いていえば、折角のチャン・ドンゴンが単調な悪役なので、出来れば、もっとサイコか、逆に人情的だったりすると深みが出たんじゃないかと惜しい感じが残ったりはしますが、それでも、作品の五つ星は揺るがないでしょう。

 

ちなみに、エンドロールには、夜鬼に扮した出演者59人が顔写真入りでクレジットされていて、その他大勢であっても確かにゾンビメイクで素顔を見せられない役者たちへの優しい配慮が感じられます。キム・ジュヒョクへの哀悼もあり、こういう映画人たちの心根が画面に溢れているのも好感大でしょう。